オーバーツーリズムが深刻な社会問題|バルセロナでは観光税引き上げも

スペイン

前記事でスペインへの観光客に対する新しい法規制についてとりあげたが、特にオーバーツーリズムが深刻な社会問題となっているバルセロナでは、住宅価格の高騰や生活コストの上昇など、住民の生活環境に負の影響を与えている。

同市ではオーバーツーリズム対策として様々な措置を講じているが、その一環として2024年10月から観光税が引き上げられた。税収はインフラの改善や公共サービスの充実に充てられる予定だ。本記事では、観光業界全体における持続可能性を推進する試みとして注目されているバルセロナの様々な取り組みをお伝えする。

オーバーツーリズムが深刻な社会問題|バルセロナでは観光税引き上げも

   著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2025年1月21日

コロナ禍後のスペインの観光業の回復が引き起こす社会問題

コロナ禍後、スペインへの観光客は急速に回復し、今夏には過去最高となる2180万人の外国人観光客数を記録したことが公式データで明らかとなった。INE(国家統計局)によると、これは2023年と比較して7.3%の増加だという。

一方で、観光業の回復による一部の地域で住宅不足や賃貸価格の高騰による地元住民への負担の増加、公共交通機関等の混雑によるインフラの圧迫、観光客と地元住民との摩擦、ごみの増加や過剰な開発による自然環境の破壊など、様々な社会問題が顕在化している。

特にバルセロナやバレアレス諸島、カナリア諸島などで地元住民の抗議活動が広がっていて、カナリア諸島では経済成長が顕著な一方、観光収益が不均衡であることへの不満が強まり、2025年から「エコ税」の導入も予定されている。

バルセロナでは「観光客お断り」のスローガンが掲げられるなど、観光に対する反感が強まっていて、地域の文化や生活が変質してしまうことへの不満も蓄積されており観光業の成長と地域社会とのバランスをどうとるかが今後の課題となっている。

(参考元:Spain logs record number of summer visitors amid overtourism protests
https://www.theguardian.com/world/2024/oct/02/spain-overtourism-record-visitors

(参考元:Spanish island reveals how much new ‘eco tax’ costs that all tourists have to pay
https://www.ladbible.com/lifestyle/travel/tenerife-spain-eco-tax-how-much-417198-20240903

(写真:Sagrada Familia バルセロナ)

バルセロナにおけるオーバーツーリズム対策①観光税の引き上げ

2024年10月からバルセロナでは観光税が増税された。観光客は市税と地方税の両方を支払う必要がある。特に市税は昨年から段階的に引き上げられており、2023年には1泊€2.75に設定されていたが、2024年4月からは€3.25に、そして今回€4に引き上げられ、わずか1年で40%以上増額した。観光税は最大7泊分まで適用されるため、長期滞在者への影響は限定的だが、短期旅行者にとっては宿泊費の上昇につながる。

一方、地方税は宿泊施設のタイプによって異なり、例えば高級ホテルではより高い税率が設定されている。

増税による収益は公共交通機関や道路整備等、市のインフラ向上に使用される予定で、バルセロナ市はこの政策を通じて観光の質を高めると同時に、不満が高まっている地域住民への負担を軽減することを目指している。

(写真:Casa Milà バルセロナ)

(参考元:Barcelona to raise tourist tax to €4 per night
https://www.catalannews.com/society-science/item/barcelona-to-raise-tourist-tax-to-4-per-night

(参考元:Barcelona to Tackle Overtourism with Increased Tourist Tax
https://etias.com/articles/barcelona-tackle-overtourism-increased-tourist-tax

バルセロナにおけるオーバーツーリズム対策②短期レンタル物件の撤廃

バルセロナ市では短期レンタル物件の影響で住宅価格が急上昇していることから、今後5年以内に短期賃貸物件を全面的に廃止する計画を発表した。現在、観光客向けに貸し出されている10,000件以上の物件を2028年までに長期賃貸市場に戻すことを目指している。

これは住宅供給を改善することを目的とした措置だが、観光関連ビジネスに影響を及ぼすことから観光業関係者から反発を招いていて、住民生活の質向上と観光産業とのバランスを模索する難しい挑戦となっている。

バルセロナにおけるオーバーツーリズム対策③クルーズ船の制限

バルセロナでは2023年に年間360万人のクルーズ客が訪れ、パンデミック前と比較すると13.7%増加し観光税収が大きな財源となっている。しかし市当局は、12時間未満の短期滞在のクルーズ客に対する観光税の増額を提案する一方、2024年10月22日よりクルーズ船の規制の強化をスタートさせる。

具体的には、同時に港に停泊できる1日あたりのクルーズ船の入港数を従来の10隻から7隻に削減。また、市中心部に一番近いMuelleBarcelonaNorteや、ワールドトレードセンターでのクルーズ船の停泊が禁止され、より南側の港へ移されることになる。

この措置は、排気ガスによる環境への影響を管理したり、市中心部への観光客の集中による混雑を緩和するためのものでもあるが、観光収益の減少を懸念する声もある。

(写真:Parc Güellからのバルセロナの街並み)

(参考元:Barcelona plans to raise tourist tax for cruise passengers visiting for few hours
https://www.theguardian.com/world/article/2024/jul/21/barcelona-plans-raise-tourist-tax-cruise-passengers-few-hours

(参考元:Barcelona to hike tourist tax for day-cruise passengers, says mayor
https://www.ttgmedia.com/destinations/barcelona-to-hike-tourist-tax-for-day-cruise-passengers-says-mayor-47513

まとめ

スペインの観光業の回復は経済的な恩恵をもたらす一方で、観光過多や環境問題、地域社会との軋轢といった課題が浮き彫りになっている。持続可能な観光の実現には短期的利益だけでなく、地域社会と環境への影響も考慮した政策が求められている。今回のバルセロナ市が講じるいくつかの対策が地域住民の生活環境の改善、観光と地元の共生の実現の一歩となるか、注目が集まっている。

北田ミヤ

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スペイン在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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