欧州市場を日本の吟醸酒で攻める
欧州市場に、日本の優れた吟醸酒を売ることを考察する。英国パブにおけるサントリーのウィスキーの取扱のすばらしさは、その可能性をよく教えてくれる。都心のウィスキー・ワイン専門店でも、店頭の手書き看板で「日本のウィスキー入荷。」など書かれ日本ののウィスキーがニーズがあり、かなり高い評価を得ているとことがわかる。
欧州は都市により様々な商環境があるが、おすすめは現地で食材を買って料理をする生活をしながら、生活者目線の商品の売り方を見定めていく方法。
欧州市場を日本の吟醸酒で攻める
著者:gramマネージャー 今泉 大輔
公開日:2020年10月14日
生のペールエールがうまいロンドンのパブ
パブはイギリスの伝統的なビアホール兼バー兼レストラン。
ロンドンの街を歩いていると、古風な外観のレストランのようなバーのようなカフェのような飲食店がよく目につく。入ってみるとカウンターがあり、一般的なバーのようにウィスキーやワインが並んだ棚がカウンターの裏側にあるが、カウンターに沿って、四連か六連のビアタップが2セットか3セット並んでいるので、そこが生ビールを何種類か飲ませてくれる業態であることがわかる。4種類以上の生ビール(ラガー)ないし生エール(ギネスなど)ないし生ペールエールが飲めるのがパブだと思えばよい。生サイダー(りんごの発泡酒)が飲めるケースもある。
生のペールエールを一度飲むと、その淡麗さ、味わいの細やかさ、爽やかさ、フルーティな香りに参ってしまう。日本の生ビールもうまいことはうまいが、まったく違った華やかさがある。しかも生ペールエールだけでも日本の地酒のように、覚えきれないぐらいの銘柄がある。
生サイダーも試してみるとうまい。瓶詰めのサイダーにはない鮮やかなりんごの酸っぱさが味わえる。
もちろんたまにはギネスの生もよい。しかし、日本では飲めないという意味で、生のペールエールと生のサイダーは、英国のパブで必ず試すべき。
サントリーの山崎、白州が高い評価
このテキストでは、欧州市場に、日本の優れた吟醸酒を売ることを考察する。
その可能性をよく教えてくれるのが、サントリーのウィスキーの英国パブにおける取扱のすばらしさ。
ロンドンのパブでは、カウンターの裏のウィスキーやワインが並んでいる棚の一番よいところに、サントリーの山崎、白州、響が並んでいることがある。たくさんの事例を確かめたわけではないが、都心の品のよいウィスキー・ワイン専門店でも、店頭の手書き看板で「日本のウィスキー入荷。ヤマザキ、ハクシュウ、ヒビキ…」などと宣伝していたので、日本のこれらのウィスキーがかなり高い評価を得ているとことがわかる。
言うまでもなく、ウィスキーは、スコッチのシングルモルトを産出する英国が本場。その本場で、高い評価を得ているのだから、日本のサントリーは大したものである。
吟醸酒は同価格帯の輸入白ワインより3倍グレードが高い
同じように、日本の吟醸酒は、近年の激しい競争の成果もあって、世界的にはきわめて高い品質を実現した飲み物になっている。獺祭の海外での成功はよく知られるところ。
以下の獺祭を率いる旭酒造社長・桜井博志氏の著書の抜粋は大変に参考になる。
リンク:ターゲットは国内のみならず「獺祭」の世界進出戦略の現実味
筆者は一時期、海外の安価で良質なワインを日本に持ってきて売るビジネスを本気で志向し、海外の都市を回りながら良さそうな商品の候補を探し、日本では手頃な価格帯の店頭売りワインを飲んで、価格に対する味覚のグレードを確かめていた時期がある。その際に、同じ店頭価格帯の吟醸酒各種と輸入物白ワイン各種とを試飲してみたこともある。
結論から言えば、日本の酒販店売りの価格で、720ml 2,000円の輸入物白ワインと、吟醸酒とを比べると、吟醸酒の方が感覚的に3倍ぐらいグレードが高い。はるかに満足度の高い経験ができる。
2,000円という価格帯だとフランスワインは対象からはずれ、チリ、スペイン、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ産の白ワインが比較対象。これらと日本の2,000円台の吟醸酒とでは、圧倒的に日本が上。
それというのも、ワインには輸送コスト、関税がかかっているからという事情があるからだが、感覚的に3倍のグレードを感じられる吟醸酒の強みは大きい。
欧州に持って行って、仮に3倍の価格になったとしても、現地の白と互角に戦える。
日本の吟醸酒の提案方法
白ワインは完全に食中酒である。一度に2時間かけてコースで食べる料理各種に合わせて、一人が一回に720mlを開けても、さほどおかしくはない、食事時にふんだんに飲む酒である。
一方の日本酒を比べてみると、日本酒は米から作るということもあってか、飲むほどにお腹が膨れる傾向がある。一回の食事で一人が720mlを開けるのは実際的ではない。このことは適正な価格帯を考える上で大変に重要な事実である。
つまり日本酒は、一回の食事で一杯から二杯程度を飲むお酒であり(一杯120ml程度と想定)、これはすなわち食前酒かデザートワインに適した飲み物なのではないかという仮定である。
味わいが端麗な、スッキリした、淡白な感じの吟醸酒は適度に冷やして、食前酒にすると最高の飲み物になる。後に続くのがあっさりした料理であってもこってりしたものであっても、端麗な吟醸酒はきわめてグレードの高い食前酒として機能する。
また、甘さが勝る吟醸酒はフランスのソーテルヌやハンガリーのトカイのような貴腐ワインにそのまま当てられるデザートワインになる。
ハンガリーに仕事で2ヶ月弱滞在していた時に、現地のワイン事情も確かめていた。特に、トカイという地区で古くから作られている貴腐ワイン、トカイワインと総称される甘いワインが興味を引いた。日本で売れる可能性があるからである。三十代前後の仕事で忙しい女性が、自宅でくつろぐときに一杯か二杯飲むスイートワインとして適している。極上の体験をもたらしてくれる。
日本の吟醸酒の甘めの製品は、欧州でよく飲まれているスイートワインのカテゴリーに近い。よってそのようなマーケティングが可能だと思う。
360ml、180ml瓶でやや高級路線を目指す
具体的にどのように売るべきだろうか?
まず、ワインの主たる販売チャネルである欧州の大手・中堅スーパーの売り場を色々と見ていくと、売りやすい価格帯があるのがわかる。日本円で言えば1,500円程度。この価格帯がもっとも品揃えが充実している。
日本の吟醸酒は上述のように、食前酒やデザートワインに適した飲み物であり、一度に720mlを開けるお酒ではない。このことから、360ml瓶、ないし180ml瓶でまず攻めるのが順当だと考える。ロンドンの大手スーパーでは360ml、180mlの品揃えも、それなりにある。その品揃えに入っていけるように製品を調整するのが得策だろう。
最終的な価格は、一本8ポンド以下、8ユーロ以下。この価格に仕上がるグレードが適していると思われる。360ml瓶にするか180ml瓶にするかはケースバイケースだろう。料理店向けも考えるなら360mlである。
ちなみにトカイワインはかなりの高級グレードもあり、500mlの細めの瓶が標準になっている。これで店頭価格が高くなりすぎるの抑えている。また、デザートワインないし食前酒として飲まれるので、量あたりの単価が高くても構わないわけである。実際に非常に甘いトカイワインは、小ぶりのグラスでも三杯も飲めない。
現地で生活しながら適した売り方を探る
販売ルートとしては、欧州の大都市のスーパーを回ってワイン売り場を覗いてみるとよくわかるが、大手・中堅のスーパーが最有力。次いで、パブなどの料理店に卸している専門酒販店ということになろうか。
欧州には大手・中間のスーパーが多数展開しているので、バイヤーをこまめに尋ねて歩いて、試供品を配って歩けば、興味を示してくれると思う。一回の営業で3銘柄から4銘柄ぐらいを共同で提案できるように、蔵元数社が相乗りで市場開拓に歩くと良いと思う。
具体的な営業活動だが、お勧めしたいのは、日本人の営業担当者が欧州のターゲット都市にやってきて、キッチンのある宿に宿泊し、そこで最低で二週間、最長で2ヶ月程度滞在しながら、現地の主たるスーパーの特定、最適な価格帯の確認、現地で主に食べられている食材の確認、現地の主たる調理法の確認などをしていく方法。簡単に言えば、現地で食材を買って、料理をする生活をしながら、生活者目線の商品の売り方を見定めていくというもの。
肌感覚で売れる価格帯、売れる商品の方向性をつかんでいく。これでやれば、間違いがないと思う。また、都市によって、主たる酒製品の販売チャネルは微妙に異なる。専門酒販チェーンが強い都市もあれば、日本で言えばコンビニ以前の個人食料品店が強い都市もある。欧州は都市により様々な商環境がある。それをしばらくの間生活しながら確かめていく売り方である。この間、近隣のワイナリーを訪問するのも良いだろう。主要なワイン産地ではワインツーリズムのパック商品が充実している。
※本稿は、ITmediaオルタナティブブログ インフラコモンズ今泉の多方面ブログ「欧州市場を日本の吟醸酒で攻める」を改稿したものです。
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