エストニアの給与格差と業界別の賃金動向
外国に住んでいると気になるのが、その国の給与事情。近年のインフレに伴ってなのか、給与は全体的に上昇してきている。しかし、業界によって給与の差が大きいことや労働力に関する問題がある。具体的な数字をあげながらエストニアの給与事情について書いていく。
エストニアの給与トレンド|高齢化と外国人労働者
著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2023年11月12日
エストニアの給与と他国との比較
地理的に見ると、北欧のようで東欧のような雰囲気もあるエストニア。果たして賃金はどちらに寄っているかというと、東欧寄りである。
2022年のデータによると、平均の月給(額面)は1685€。日本円にして約26万円(1€=156円で換算)、手取りだと1358€(約21万円)だ。
日本の平均月収が約25万円だということを考慮すると、少し低いくらいというところだろうか。最近は円安の影響もあり、日本円で比べるとどうしても少し高く出てくるように感じるため、給料の価値は近隣の国と比べた方がわかりやすいだろう。
画像はヨーロッパ内の国々の月給(手取り)を国ごとに表した図だ。高福祉を多額の税でまかなっているイメージのある北欧では、フィンランド2509€、スウェーデン2974€、そしてノルウェーに至っては3721€と、額面はかなり大きい。しかしながら中欧または東欧に分類されるポーランド、そして南と西端の方の国々では、エストニアと同程度かそれより低い給与になっていることがわかる。
(画像引用元:EuroDev https://www.eurodev.com/blog/average-salaries-in-europe-2022)
(参考:Invest in Estonia https://investinestonia.com/business-in-estonia/labour-market/salaries/)
エストニアの賃金は年々上昇
エストニアの賃金は、物価高も相まってか少しずつ上昇してきている。
表は2022年と2023年の同時期(第二四半期にあたる4月から6月)における給与を職種別に比較したものだ。
2023年の第二四半期の平均月給(額面)は前年同期比12.4%上昇し、1,873€、中央値は1524€と報告された。
グラフを見てわかる通り、上昇率は業界ごとに違えど全体的に賃金は上昇している。平均賃金が最も上昇したのは、教育分野(2023年第2四半期までで前年同期比19%増)と農業・林業・漁業(同15.4%増)であった。
職種別の給与に注目すると、最も高賃金なのはICT産業で電子国家のエストニアらしいといえばそうだが、これは全世界的なトレンドのためあまり特徴的というほどでもない。エストニアの平均給与はICT産業とそれに次ぐいくつかの業種によって引き上げられているため、平均月給よりも中央値で見た方がリアルだろう。
意外に思えるのが不動産業(real estate activities)が日本でのイメージとは違いあまり高給与の職ではないことだろうか。グラフの結果とは裏腹に、首都のタリンに人口が集中してきていることによって住宅の需要が大きくなっているため不動産業の給与もこれから伸びてくるだろうと考えられる。
労働力の補充
エストニアはEUの構成国のひとつであるため、同じEU圏出身の外国人が働く分には労働ビザや面倒な手続きはない。しかし、EU圏外の国出身者を雇用するとなるとビザの発行や他にも手続きが必要になるため、現状はあまり積極的に採用はしていない。
しかしながら、エストニアで働くために入国する第三国出身者の入国制限を廃止した方がいいのではないかという声も上がっている。
エストニアにも高齢化の問題がある。現状で高齢者を扶養するために税金を納めている生産年齢人口(働くことができる年齢の人)が減っており、毎年1%ずつ税金負担が大きくなっている。加えて、スキルのある労働者が不足していることが経済の発展を妨げている主な要因のひとつであるとも言及されている。そのため、労働移民をもう少し受け入れることでどちらの問題も解消しようと主張する声もある。「新たな税金ではなく、さらなる経済成長によって国家財政赤字を削減する方が理にかなっている」とエストニア雇用主連盟の代表は主張している。
(参考・引用:Estonian World https://t.co/6Ez1KyM8vq)
まとめ
エストニアでは全体的に給与が上昇しており、一年前と比べてもその上昇率は明らかだ。しかしながら業種ごとに賃金格差が大きかったり、他のEU諸国と比べると高いとは言えない給料だったりと懸念点はいくらかある。ロシアのウクライナ侵攻後に物価が高騰して今もそのままであることを考えると、給与はもう少し上昇してもよさそうだ。