アイルランドがヨーロッパ最貧国から世界一の富裕国まで昇りつめた理由
北海道ほどの小さな島国アイルランドが、今年世界一裕福な国に輝いた。
かつてはヨーロッパの最貧国とまで呼ばれたアイルランドが、経済を好転させるために採用した「低法人税率」政策。その結果、世界の大企業が次々とアイルランドに拠点を設けるようになった。
この記事ではその政策がもたらした経済的な変化と、大企業がアイルランドを選ぶ理由となる社会的魅力に迫ってみる。
アイルランドがヨーロッパ最貧国から世界一の富裕国まで昇りつめた理由
著者:イギリスgram fellow リリーゆりか
公開日:2023年11月22日
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1人あたりGDPが日本の3倍?! 2023年世界トップで豊かなアイルランド
アイルランドと聞くとどんなイメージを持つだろうか。
日本で話題に上がることは珍しく、よく知られているものというとパブ文化やギネスビールあたりだろう。
アイルランドは実はITが盛んで、コロナ禍においてもさほど経済的に大きな打撃を受けなかった。そして2023年現在、一人あたりGDPが$145,200と裕福な国世界ランキング1位まで昇りつめた。これは日本が$51,810で38位であり、アイルランドは日本の約3倍にあたる数値である。
(引用元:MacroTrends :Ireland GDP Growth Rate 1971-2023 https://www.macrotrends.net/countries/IRL/ireland/gdp-growth-rate)
(引用元:Immigrant invest :50 rechest countries in the world by GDP per capita
https://immigrantinvest.com/blog/top-10-richest-countries-world-en/)
経済成長のカギとなった法人税
1996年からアイルランドの法人税が40%から段階的に引き下げられ、現在の12.5%と世界的にもかなり低い税率での低法人税率政策が実現。特に米国のITや製薬業界がこれに目をつけ、欧州本部をダブリンに移し始めた。Apple、Google、Microsoft、Facebook、Twitter、ファイザー、IBM、インテル、LinkdIn、Uber、Airbnbなどなど、名前を挙げ出すときりがない。実際にこれらの多国籍企業がアイルランド税収の80%以上を占めている。
(引用元:The Irish Times :Ireland’s 12.5% corporate tax rate: Calling time after 24 years
https://www.irishtimes.com/news/politics/ireland-s-12-5-corporate-tax-rate-calling-time-after-24-years-1.4694268)
(画像出典元:Tax foundation https://taxfoundation.org/wp-content/uploads/2023/02/Euro_CIT_2023.png)
多国籍企業の誘致を成功させたアイルランドのビジネス的魅力とは
もちろん法人税率だけが理由ではなかった。
アイルランドには多国籍企業が理想とする環境や人材が揃っているのである。
1、EU加盟国であり、英語が公用語
アイルランドはEU加盟国の中でも珍しい英語圏である。
ヨーロッパの英語圏は英国、アイルランド、マルタの3ヶ国だけであり、米国を中心とする多国籍企業からすれば、言語は非常に大きな要素である。
2、優秀な若い人材の確保
アイルランドの人口は増え続けていて、しかも若年層が多い。年間の死亡者数よりも出生数の方が多いのだ。また、教育システムにより、25才〜34才で高等教育を受けた人口の割合が世界で日本に次ぐ4番目である。このことから、未来を担う優秀な若者の人材を確保したいという世界的企業の意向であることが伺える。
(引用元:Independent.ie :Ireland’s younger and growing population bucks EU trend
https://www.independent.ie/business/irish/irelands-younger-and-growing-population-bucks-eu-trend/a1895710756.html)
(引用元:World Population Review
https://worldpopulationreview.com/country-rankings/most-educated-countries)
3、歴史的な移民による世界中との繋がり
アイルランドはかつてヨーロッパ最貧国と言われていたほど貧しい国であった。
長い間イギリスに支配され、ジャガイモ飢饉や宗教弾圧などの暗い過去を持つ。
アイルランドが苦しかった時代、多くのアイルランド人がアメリカやオーストラリアなど、現在の英語圏と呼ばれる国々を中心に散らばった。同時に医師や教育者などの優秀な人材が流出したことも事実である。
しかし、世界に流出した優秀なアイルランド人が優秀な子孫を残したのもまた事実である。特に、アイルランド人はアメリカ独立運動の際に大活躍したことが、アメリカの歴史を大きく動かした。アメリカ人からすると英雄、そして感謝すべき存在として国家的にも強い繋がりがあり、今でも特別な存在だ。アイルランドをルーツにもつアメリカ人も多数おり、彼らが現代においてアイルランドへの恩返し、帰還意識という歴史的観点があるということを忘れてはいけない。
(引用元:JBpress (ジェイビープレス) :弾圧と飢饉で世界に散ったアイルランド人が獲得した驚異の経済力
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68148?page=6#)
法人税引き上げはどう影響するか
アイルランド政府は2021年に法人税の最低税率を15%に引き上げることに合意し、2024年から施行される予定である。
年間売上高が7億5000ユーロ未満の企業には12.5%を維持できるとのことだが、約1500社が増税の影響を受ける。それでも依然、世界的に法人税が低い国であることに変わりはない。
(引用元:日本経済新聞 :アイルランド、法人最低税率15%を承認 国際合意へ前進
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR080210Y1A001C2000000/)
(引用元:ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ :アイルランド、OECD枠組みにおいて最低法人税率15%に合意(アイルランド)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/10/94fa213ecc670599.html)
まとめ
アイルランドが2023年に世界トップの裕福な国に認定された。
日本と同じ小さな島国であり、歴史的側面において非常に辛い過去を背負ってきたアイルランドだったが、これがアイルランドならではの底力ではないかと感じさせられる。法人税引き上げがすぐに大きく影響するとは考えにくく、武田製薬やIndeedなどすでに進出している日本企業もあり、新しいビジネスの地としてまだまだアイルランドは候補に上がってくると予測される。