オーストラリア移民制度改革:高度専門職のビザ簡素化など検討
新型コロナウイルスの流行が落ち着き、2021年12月に国境再開して以来、労働者・ワーキングホリデーメーカー・留学生などが急速に回帰しているオーストラリア。これから来豪する計画を立てる人も増えている中、長年内容変更が行なわれていなかった移民制度について、政府が大幅な改革を検討していると報じられています。
オーストラリア政府 移民制度を大幅見直しへ
著者:オーストラリアgramフェロー 平澤 歩
公開日:2023年5月9日
2年間で過去最大の人口増加見込み
オーストラリアでは2022年7月~2023年6月・2023年7月~2024年6月の2年間について、純移民数(移入民と移出民の差)が約65万人となる可能性を見込んでいます。この純移民数の増加により、オーストラリアでは過去最大の増加幅である90万人以上の人口増を予測しています。
高度技能者の誘致のため移民制度改革を検討
過去にないペースで移民が増える中、オーストラリア政府のオニール内相は4月27日、オーストラリアの移民制度の大幅な見直しを今後数ヶ月以内に行う予定であると発表しました。現行の移民制度は現在の実態に即していない内容であり、労働力不足の解消や高度技能者の誘致などのため、制度を見直す必要があるとの理由を述べました。
オーストラリア国内の高度技能者の高齢化により、海外からの高度技能者の誘致が課題となっていますが、カナダやドイツなどの他国と高度技能者の誘致を競っている状態にあるため、競争力の底上げが必要です。
見直し内容としては、「高度専門職のビザの取得をより迅速化・簡素化」「短期職業ビザ所持者に永住権申請資格の付与」などが検討されています。
ワーホリ・就労ビザの制度変更も
高度技能者のビザ取得について緩和が検討される一方で、在豪日本人や渡豪を検討する日本人にも関連の強い「ワーキングホリデービザの延長廃止」が検討され、「就労ビザの最低年収の引き上げ」が7月1日に施行されることが決定しています。
現在、ワーキングホリデービザ所持者は原則1年間オーストラリアに滞在することができ、所定の地域・職種で88日間仕事を行なうと、2年目もしくは3年目まで滞在を延長することができます。しかし今回の見直しで「文化交流」というワーホリ制度の本来の目的に回帰するため、ワーホリビザ滞在を1年間のみに制限することを検討しています。
日本からオーストラリアにワーホリ滞在を検討する人の中には、2年目・3年目への延長を考える人も数多くいるため、今後の決定に注視が必要です。
また、就労ビザ所持の要件として「現行の最低年収53,900ドル(約485万円)から70,000ドル(約630万円)へ引き上げ」が7月1日から適用されます。2013年より最低年収53900ドルという要件が適用されていましたが、現在フルタイム(日本でいう正社員)の給与所得者の90%以上がこの金額を上回っていることから今回の引き上げに至りました。
この改定により、企業が外国人労働者を不当に低い賃金で働かせることを抑止する効果が見込めるという意味では朗報ですが、給与の低い地域・職種の人にとっては得ることが難しい金額となり、現地の就労ビザ所持者・取得予定者の日本人の間で戸惑いの声が見られます。
まとめ
世界各国からの移民が相次ぐオーストラリア。万年労働力不足に悩まされてきましたが、単に「労働力が欲しい」という局面から、「能力が高い労働力が欲しい」という局面へと過渡期を迎えているようです。日本からの渡豪者にも大きな影響を与える制度変更のため、引き続き注視が必要です。
【引用】
◇NNA ASIA:
https://www.nna.jp/news/2500591
◇REUTERS:
https://jp.reuters.com/article/australia-politics-immigration-idJPKBN2WO0DS
◇Australian Government:
https://minister.homeaffairs.gov.au/ClareONeil/Pages/temporary-skilled-migration-income-threshold-raised.aspx