「懺悔の火曜日」の食べ物?季節限定の特別なスイーツ

エストニア

特別な日を特別な食べ物と共にお祝いするのは世界共通、どこにでもあるようで、もちろんエストニアも例外ではない。毎年2月にある「懺悔の火曜日」には、シュークリームのような見た目の特別なスイーツを食べることがお決まりになっている。

今回は、この習慣の起源や、現代的にアレンジされたスイーツについて説明する。

「懺悔の火曜日」の食べ物?季節限定の特別なスイーツ

著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2024年2月20日

「懺悔の火曜日」とは?

「懺悔の火曜日(Shrove Tuesday)」はキリスト教の復活祭(イースター)に関連する行事で、復活祭当日の前の約40日間に関連する。四旬節の始まりは必ず水曜日で、その始まりの前日が懺悔の火曜日にあたる。

キリスト教に馴染みがなければ、イースターの前にこんな日があるのかという面白さとともに、懺悔の火曜日という名前のインパクトに驚くが、ヨーロッパの多くの国では別名「パンケーキデイ」として一般的に知られている。なぜこの日に突然パンケーキが登場してくるのかというと、復活祭前の四旬節は伝統的に食事の節制と祝宴の自粛が行われていたからである。この節制の期間に入る前に贅沢に脂肪と栄養を蓄えておこう、という意味合いでパンケーキが食べられていたからである。現代でいうチートデイ※みたいなものだ。

この日に関連する知名度の高いイベントはイギリス「パンケーキ・レース」ではないだろうか。その名のとおりパンケーキの入ったフライパンを持ってゴールまで走り抜けるという奇祭である。

一味違うエストニアの懺悔の火曜日

広く「パンケーキデイ」として認識されている四旬節前のチートデイ※、エストニアを含むヨーロッパの北部の地域ではパンケーキではなくシュークリームに似たスイーツを食べる。国によって呼称は異なるのだが、エストニアでは「 ヴァストラクッケル( Vastlakukkel)」と呼ぶ。北欧といわゆるバルト三国で伝統的なのは、パンケーキよりもこちらである。

見た目は完全にシュークリームだが、シュークリームとの大きな違いは土台である。シュー生地のフカフカしたものではなくパン生地である。甘くもない。それ以外のクリームがたっぷり入っている点は同じである。

エストニアにおいて、このスイーツについての記述は18世紀に書かれたレシピにまでさかのぼり、そしてその姿は現在のものとは大きく異なっているそうだ。現在このスイーツは常温で提供されるが、昔は熱々で提供されるため「熱々の小さなパン」という名前で呼ばれていたらしい。また、食事を節制する期間に入る前に新鮮な食材を使い切ってしまおうという思いから、様々なものが加えられていたことがわかる。ローズウォーター、バター、牛乳、アーモンド、バニラ、砂糖、レーズンを加えて作られた贅沢なフィリングを作っていたそうだ。

その贅沢なフィリングが一般的なクリームに変わったのは第二次世界大戦前ごろと言われている。その理由は、エストニア(ラトビアも含め)の社会が農耕民族であったため、どんな時でもクリームなら手に入るという理由からである。

(引用元:err https://news.err.ee/1608516245/vastlakuklid-the-history-of-estonia-s-traditional-shrove-tuesday-treat

多種多様なVastlakukkel

懺悔の火曜日当日だけでなく、数週間前ごろからスーパーやケーキ屋さん、ベーカリーなどでも販売されるようになり、各種SNSで宣伝されている。店ごとに個性のあるデコレーションや味付けをしているのでチェックするだけで楽しくなる。

ベーシックなパン生地+クリームから発展し、ベリー系のパウダーを練りこんで色つきの生地にして、間のクリームにいろいろのせてしまうなど、昔のヴァストラクッケルとは異なる方向に「贅沢」になってきている。もちろん写真映えする分お値段も高くなっており、ケーキを買うのと変わらないくらいの価格だ。

まとめ

国全体として宗教に熱心な人は少なくなってきてはいるが、キリスト教の習慣にならってできた伝統的な行事は依然そのままで行われる。この懺悔の火曜日においても、翌日以降は食事を節制するという習慣はほぼ失われ、本来の意味からは遠ざかってきてはいるが、伝統そのものは残っている。宗教的な信仰心の減退が必ずしも伝統文化の消失に直結するわけではないと言えるだろう。

※ チートデイ(cheat day):ダイエット中に制限しない日、反則の日

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さえきあき

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エストニア在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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