フィリピン流「サムギョプサル」の実態

日本で「サムギョプサル食べに行こう」と言うと、厚切りの豚バラ肉をサンチュで巻いて食べるあの韓国料理を指します。しかしここフィリピンでは、「サムギョプサル」という単語は特定の料理名ではなく、「韓国式焼肉食べ放題」の総称を指します。たとえ網の上で焼いているのが牛の薄切り肉であろうが、鶏モモ肉であろうが、果てはチーズにディップして食べるアレンジ肉であろうが、彼らにとってはすべてが「サムギョプサル」なのです。
今回は、そんなフィリピン流サムギョプサルについて、フィリピン浸透の経緯や国内市場および競合との対比とともに、ご紹介していきます。
フィリピン流「サムギョプサル」の実態
著者:フィリピンgramフェロー たこ坊
公開日:2026年 03月26日
フィリピン国内におけるサムギョプサル市場
なぜフィリピン国内にサムギョプサルが浸透したのか。背景には、2010年代後半から続く凄まじい韓国文化(K-DRAMAやK-POP)の流入があります。
KOTRA(大韓貿易投資振興公社)の調査によると、フィリピン国内の韓国レストラン数は2014年から2018年のわずか4年間で81.2%も増加しました。その後、パンデミックを挟んでもその勢いは衰えず、2023年時点の調査ではフィリピンにおける韓国焼肉トップ10ブランドの合計店舗数だけで159店舗に達しています。同調査では、フィリピン人のひとり当たり食肉消費量が28.89kgであり、そのうち49%が豚肉である(国際平均より1.8kg多い)という、サムギョプサル人気を裏付ける食習慣データも示されています。

(引用元:PLOS ONE │ Evaluating factors influencing customers’ intention to eat Korean cuisine “Samgyeopsal” in the Philippines: A structural
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0286077)
特に市場を牽引しているのが、以下の巨大チェーンです。
・Samgyupsalamat: 2012年に創業、2025年末には98店舗にまで拡大。
(引用元:RMA NEWS │ Samgyupsalamat Opened 98th Branch at SM City Cebu
https://www.rmanews.net/2025/12/18/samgyupsalamat-opened-98th-branch-at-sm-city-cebu/)
・Romantic Baboy: 2018年に1号店をオープン。
現在の正確な店舗数は見つけられないが、Google Map上でザッと計算しただけでも60店舗以上。現地のグルメメディアでは、フィリピン全土で約100店舗に迫る規模として紹介されており、Samgyupsalamatと並ぶ二大巨頭として市場を二分する勢いで成長中。
(引用元:Romantic Baboy 公式ページ
http://romanticbaboy.com.ph/index_rtb.asp)
(引用元:The Rebel Sweetheart. Romantic Baboy | The place to be for meat lovers.
https://www.therebelsweetheart.com/search?q=romantic+baboy)
これら大手だけでも200店舗近くに達し、さらに無数のローカル系個人店が追随しています。近年の研究では、韓国ドラマの視聴体験がフィリピン人の購買意欲を直接的に刺激していることが示されています。ドラマの中で肉を囲むシーンが、フィリピン人の深層心理に「サムギョプサル」のイメージを完璧に植え付けたと言っても過言ではありません。
(引用元:Research Gate │ The Growing Popularity of Korean Products in the Philippines: The Korean Drama Effect
https://www.researchgate.net/publication/394278877_The_Growing_Popularity_of_Korean_Products_in_the_Philippines_The_Korean_Drama_Effect)
「食べ放題(Unli)」への執着と経済インパクト
フィリピンにおけるサムギョプサルの平均的な価格帯は、499ペソ〜699ペソ(約1,350円〜1,900円)です。一見安く感じますが、現地の経済状況で見ると景色が変わります。
一般的な会社員の平均月収は約20,000ペソ(約5万4千円)前後。つまり1回のサムギョプサル代は、月収の約2.5~3.5%に相当します。 これを日本人の感覚(月収30万円と仮定)に換算すると、1回のランチや夕食に7,500~10,500円を支払っている感覚に近いのです。それでも彼らは行列に並びます。そこにはフィリピン文化特有のUnli(食べ放題)への異常なまでの執着があります。
フィリピン国内にはサムギョプサル以外にも強力なUnliが存在し、熾烈なシェア争いを繰り広げています。
・Unli Wings(手羽先食べ放題):
- 価格帯: 299〜399ペソ(月収の約1.5〜2%)
- 店舗数: サムギョプサル以上に参入障壁が低いため、マニラ圏内だけでも推定300〜400店舗以上がひしめき合います。多店舗展開チェーンもありますが個人店が非常に多いのが特徴です。
・Unli Rice(ご飯食べ放題):
- 価格帯: 大手チェーンMang Inasalでは、約200ペソ以下でバーベキューチキン一品とご飯食べ放題を提供。
- 店舗数: Mang Inasal公式によると全国に570店舗以上あります。サムギョプサルが高嶺の花である層にとって、日常の満腹を支える王者と言えます。
(引用元:Mang Inasal 公式ページ │ About Us
https://www.manginasal.ph/)

日系ブランドの参戦
以上のように韓国系焼肉レストランの勢いが止まらないフィリピンですが、日本で店舗数トップを誇る「牛角」や「焼肉きんぐ」といった焼肉店もマニラに上陸しています。
価格はもっとも手頃なコースでも1,000ペソ(約2,700円)を超え、フィリピンの物価水準では高級レストランのカテゴリーに属します。そのためターゲットは中間層以上の顧客層に限られますが、本場日本のクオリティを求める現地ファンや、日本人駐在員にとっては待望のニュースとなりました。今後も日本の焼肉文化がフィリピンの地でさらに花開くことを期待して止みません。
まとめ
フィリピンにおけるサムギョプサルの普及は単なる一時的なブームに留まらず、拡大する中産階級の旺盛な消費意欲と、韓国文化の浸透によるライフスタイルの変化を象徴する出来事でした。
低価格で満腹感を満たすUnli(食べ放題)文化を土台に成長したこの市場は、現在新たなフェーズへと移行しています。従来の韓国系チェーンが圧倒的な店舗網で大衆層を掴む一方で、ターゲットを絞った「焼肉きんぐ」「牛角」といった日系ブランドによる高品質・高単価なサービスの展開は、消費者の選択肢をより多様化させています。
かつての『安くてお腹いっぱい』という画一的なニーズから、現在は『質』『タイパ』『ブランド体験』といった付加価値を重視する層が確実に育っています。韓国系が切り拓いた広大な市場を、日系ブランドが独自の強みで深掘りしていく。この競合と進化のプロセスは、今後もフィリピンの外食文化にさらなる熱気と成熟をもたらすことでしょう。
もしマニラを訪れる機会があれば、ぜひ現地の焼肉店に足を運んでみてください。























