ファミリーオフィス誘致とビジネス適応支援

シンガポール

最近報じられたのは、シンガポール政府が「ファミリーオフィス誘致」と「ビジネス適応支援」を同時に打ち出したというニュースです。海外の富裕層資産を呼び込みつつ、中小企業や既存ビジネスにも変化への対応を促します。

今回の記事では、「ファミリーオフィス」が流行りつつあるシンガポールの現状について解説します。

(引用元:超富裕層も注目するシンガポールのファンド・マネジメント市場の真実 – KOTORA JOURNAL
https://www.kotora.jp/c/55084/

ファミリーオフィス誘致とビジネス適応支援  

   著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2025年 11月19日

新しい支援の方向性

私自身、シンガポールやマレーシアに長く暮らしてきて、富裕層を呼び込む仕組みが街や経済にどれほど影響を与えるかを肌で感じています。同時に、中小企業が外の環境にどう適応できるかが社会全体の安定につながることも見てきました。その両面を今回のニュースは示していると感じます。

ファミリーオフィスとは何か

「ファミリーオフィス(Family Office)」とは、資産数百億円規模の富裕層が家族単位で資産管理・投資を行う組織のことです。資産運用だけでなく、相続・税務・慈善活動まで含む包括的な機能を持っています。シンガポールや香港ではすでにこの分野で強力な誘致策を展開し、富裕層の流入に成功してきました。

シンガポール政府がこのほど打ち出した2つの施策が注目を集めています。ひとつは、富裕層を対象とした「ファミリーオフィス誘致」の加速。もうひとつは、中小企業を中心に国際的な変化に対応する力を養うための「ビジネス適応支援」です。資産の呼び込みと企業の底上げ、一見異なる方向に見えますが、経済全体の持続性を高める点で共通の狙いを持っています。

ファミリーオフィス誘致の加速

シンガポール金融監督庁は、ファミリーオフィスの税優遇制度の承認までにかかっていた最長1年の待機期間を、およそ3か月に短縮しました。さらに、投資移民制度「グローバル・インベスター・プログラム」では、最低資産運用額の一部をシンガポール上場株式に投じることを義務化。これは単なる富裕層呼び込みではなく、国内市場に直接資金を循環させる工夫です。

私自身、シンガポールの出張時に、急速に増えていく富裕層向けサービスを目の当たりにしました。プライベートバンクや不動産、高級教育に至るまで、外からの資金が入ると街全体の風景が変わる。それを制度面で後押ししようというのが今回の狙いです。

ビジネス適応支援の導入

一方、中小企業に向けては「ビジネス適応支援(Business Adaptation Grant)」が新設されます。最大10万シンガポールドル(約1,100万円)の補助で、関税変更やサプライチェーン再編に対応できるよう、法務・契約面の助言や市場多角化を後押しします。期間は2年間の限定措置ですが、輸出立国シンガポールにとって、国際環境の荒波に飲み込まれないための即効薬といえるでしょう。

私の知り合いのローカル企業も、米中摩擦の影響で輸出コストが跳ね上がった経験を話していました。資金力に余裕のない中小企業にとって、こうした制度は「踏みとどまる時間」を与えてくれる大きな意味があります。

施策に共通する視点

2つの政策を並べてみると、対象は正反対のように思えます。ひとつは超富裕層、もうひとつは地元の中小企業。しかし共通しているのは”外部環境の変化にどう適応するか”という視点です。資産を運ぶ富裕層も、製品を輸出する企業も、世界情勢の不確実性に左右される。そこにシンガポールが、制度の速さと支援の厚みで応える姿勢が見えてきます。

前進し続ける都市国家

シンガポールはこれまで金融ハブとしての強さを誇ってきましたが、今回の施策はさらに一歩進んで「資本と産業をつなぐ国」へと進化しようとするものだと感じます。外からの富を呼び込み、内の企業を強くする。この循環がうまく回れば、都市国家としての脆弱性を補い、持続的な成長につながるでしょう。

ただし注意も必要です。富裕層優遇が過ぎれば市民の反発を招きますし、補助金頼みの企業は制度終了後に失速しかねません。制度の設計と実行に、バランス感覚が問われてくるでしょう。

Malay Dragon

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マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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