アジアのフードデリバリー市場がマイナス成長に陥る中、グラブはどのようにして成功を収めたのか?

シンガポール

シンガポールを含むアジアのフードデリバリー市場は、政府の方針変更や店内飲食の需要拡大の影響を受け、2022年にマイナス成長に陥った。ただ、グラブが展開する「グラブフード」は、東南アジア6か国全てで首位を獲得し、その取引額は東南アジア全体の54%に相当する88億ドルを占めた。
競争が激しい中、差別化を図るために特定の地域やジャンルに特化することが必要であり、アジアの多様性に対応するためには、地域に密着した戦略が重要となっている。グラブはその徹底した「ローカル化」によりアジアで圧倒的に強い存在となっている。

今回は、シンガポールのフードデリバリー市場の現況と今後について解説します。

2028年には約40兆円に達すると予想される世界のフードデリバリー市場で、アジアの多様性に対応するための戦略とは?   

   著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2023年3月20日

市場急縮小

ベンチャー企業の支援を手がけている「モメンタム・ワークス」によると、2022年のシンガポールのフードデリバリーの総取引額は、前年比で14%減の25億ドル(約3,250億円)と大きく落ち込みました。

政府の方針の変化の影響が大きいと考えられていて、シンガポールでは新型コロナに対する行動制限はほぼ撤廃され、店内飲食の需要がオンラインのフードデリバリーよりも大きく拡大しました。多くの企業で店内飲食の需要に応えることを優先したためと見られます。

インドネシア、タイ、シンガポールの3カ国で、2022年のフードデリバリー市場はマイナス成長となっています。

グラブが6市場で独り勝ち

企業別では、配車サービス大手のグラブが展開する「グラブフード」が、東南アジア6か国(シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム)全ての市場で首位を獲得しました。

東南アジア全体の取引額の54%に当たる88億ドル(約1兆1,350億円)をグラブが占め、2位のフードパンダを大きく上回っています。

上記6か国の2022年のフードデリバリー市場ではグラブだけが売上を伸ばし、前年比で16%の増加で独り勝ちの状態でした。

世界市場の55%

コロナ禍で飲食業界が対面営業を停止せざるを得ない状況となり、世界的にフードデリバリー市場は急拡大しました。

ニューヨークのEmergen Researchによると、世界のフードデリバリーの市場規模は2028年には11.4%の収益成長率に達し、3,114億3,000万ドル(約40兆円)になると予想されています。

アジア(APEC国)は、世界のオンラインのフードデリバリー市場の55%を占めており、さらなる成長の可能性を秘めています。2020年のアジアのオンラインフードデリバリーの普及率は約11.5%で、2024年には15%を超えると予想されており、単純計算で2億人以上の新規利用者が誕生することになります。

今後の生存戦略

競争が激しいフードデリバリー業界を生き抜くためには、独自性を出して差別化を図ることが必須です。中でも特定の地域やジャンルに特化するなどの対策が重要になってきます。

グラブがアジアで圧倒的に強い理由は、その徹底した「ローカル化」にあります。アジアの多様性に対応するには、グローバル経験に加え、現地のニーズに応えるために地域に密着した戦略を採用する必要があります。

また、グラブ同様、フートデリバリーや配車のほかに、日用品デリバリーからデジタル銀行に至るまで機能を充実させて、生活に欠かせないプラットフォーム、インフラとしての使命を果たし、新しい生活様式を創出していく必要があります。

企業として持続的に成長するため、価値創造が欠かせなくなっています。

成長の鈍化ではない

2022年の市場規模の縮小は、「成長の鈍化」というよりは、コロナ以前の正常時の成長率に戻ったと捉えるべきだと思います。フードデリバリー市場は、各国で今後も堅調な成長を続けていくと推測されます。

プラットフォームのみではなく飲食店側も正当な利益を上げられ、配達時間の短縮など利用者の満足感を得られるような仕組みづくりもこれからは欠かすことができないでしょう。

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