1リットル400円超の現実 ─ シンガポールで、車を持つということ 

シンガポール

今月初め、シンガポールに住む姪っ子からメッセージが届きました。「ガソリン、すごいことになってる」。短い文章でしたがその重さは伝わってきました。久しぶりの連絡がガソリンの話というのも、それだけ生活への影響が切実だということなのでしょう。シンガポールを離れて20年近くになりますが、あの街で車を持って暮らす人たちのことを思うと、他人事ではありませんでした。
今回は、シンガポールのガソリン価格の高騰についてお伝えします。

(引用元:Singapore braces for electricity and gas supply risks as fuel prices rise | Malay Mail
https://www.malaymail.com/news/singapore/2026/03/14/singapore-braces-for-electricity-and-gas-supply-risks-as-fuel-prices-rise/212607

1リットル400円超の現実 ─ シンガポールで、車を持つということ 

   著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2026年 03月31日

過去最高値を更新

3月10日、シェルが全グレードのガソリンの価格を引き上げ、95オクタンが1リットル3.30シンガポールドル(約410円)を超えました。他社も追随し、値上がりは連日続きました。そして3月14日、カルテックスが95オクタンを1リットル3.45シンガポールドルに上げました。マレーシアリンギットで約11.50リンギット、日本円でおよそ430円に相当します。2022年のウクライナ危機の際に記録した3.42シンガポールドルを上回り、過去最高値を更新したのです。

輸入国の宿命

シンガポールは燃料をほぼ全量輸入に頼っていて、国内に油田はありません。だから世界の原油市場が荒れれば市場の価格にほぼ直接に影響し、しかも迅速に現れるのです。今回の引き金となったのは、2月28日の米・イスラエルによるイランへの攻撃でした。その直後からホルムズ海峡のタンカー通航がほぼ止まり、世界の原油供給に深刻な不安が広がったのです。産油国である隣国マレーシアですら60セントの値上がりを避けられなかったのだから、原油を完全に輸入に依存しているシンガポールが受けた影響はその比ではありません。エネルギーを自給できないという脆弱さが鮮明に浮かび上がりました。

あの街で車なしで生きた

筆者は過去にシンガポールに12年間暮らしました。その間、一度も車を持ちませんでした(配送車を自家用に使ってはいましたが)。当時でもMRTとバスが街全体を細かく覆っており、車がなくても生活はほぼ完結しました。むしろ駐車場代やERP(電子道路課金)を考えると、車を持たないほうが合理的ですらあったのです。それでもシンガポールで車を手放せない人たちはたくさんいます。最近では毎日走り続けるグラブのドライバーがその筆頭でしょう。燃料費は彼らにとって収入に直結するコストであり、値上がりが続けば実質的な賃金カットに等しくなります。グラブがフルタイムのドライバーを対象に燃料バウチャーの支援策を打ち出したのも、現場の生活の厳しさを受けてのことでしょう。

マレーシアから眺めると

今のクアラルンプールからかつて暮らしたシンガポールの価格を見ると、エネルギー自給の大切さを改めて実感します。マレーシアに住む外国人として、3.27リンギットも払いながらも、まだ安いと思ってしまう自分がいます。30年近くアジアで暮らしてきて、いつの間にか価格感覚もすっかりこの地域に染まってしまったのでしょう。ガソリンスタンドで財布を開くたびに、そんなことを思います。

資源ゼロで一流を維持する

利便性と引き換えにすべてのコストを市場で負担する。補助金もなく資源もなく、それでも豊かさを維持し続けている都市国家。ガソリン1リットルの値段が、小さな都市国家シンガポールの本質を映し出している気がします。

Malay Dragon

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マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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