シンガポール:高成長期から“質”重視へ 

シンガポール

東南アジアを代表する都市国家、シンガポール。かつては年間7%近い成長率を誇り、急速に経済を発展させてきた国です。

ところが現在は、2~3%程度の成長が中期リズムとして定着しつつあります。

本記事では、フェーズが変わりつつあるシンガポールの成長について深掘りします。

(引用元:Five Key Trends Shaping The Singapore Economy Outlook in 2025
https://www.dbs.com.sg/sme/businessclass/strategy-and-outlook/five-key-economic-themes?utm_source

シンガポール:高成長期から“質”重視へ 

   著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2025年 12月23日

「2~3 %成長」が語るもの

レポートによると、2025年における成長率見込み2.8%という数字が発表されています。 また、政府機関の見通しでも、2025年成長率を1.5~2.5%と下方修正しています。 では、何が変わりつつあるのか、ビジネス・進出企業、そして生活者という視点から整理してみましょう。

成長モデルの転換

かつてのシンガポールの成長は量的拡大、すなわち工場の誘致、輸出の急拡大、人的インフラの整備によってもたらされました。

しかし、都市・先進経済として成熟を迎える中で「量より質」「拡大より持続可能」「低コストより高付加価値」へと変化が求められています。実際、報告書でも『中期成長ポテンシャルは2~3%程度』と言及されており、今後は“成長率を追う”よりも“成長の質を保つ”方向へシフトしていると分析されています。

つまり、成長率2~3%という数字は停滞を意味するのではなく、成熟段階における正常値と捉えるべきなのでしょう。

企業・進出視点でのインパクト

ビジネスにとっては、成長率が10%を超えていた時代とは前提が異なります。今後は、新興市場的拡大を前提にした大量投入型のビジネスモデルから、高付加価値サービス、新技術、効率化、差別化といった“質”を鍵にしたモデルへと転換が必要でしょう。

進出を検討する日本企業等にとっては、この変化を読み取ることが重要です。

また、政府は2040年までに質の高い成長を実現する旨のアジェンダを打ち出しており、インフラ・デジタル・グリーン分野への重点が明確になっています。

つまり、進出企業は「量の成長」から「質の成長」へと戦略的に舵を切るべき時を迎えています。

生活視点からの変化

成長が鈍化して見える背景には、単に数値の低下ではなく、生活者・労働市場・社会構造の変化も関わっています。

例えば、雇用は安定を保っていますが求人の伸びは鈍っており、“人材の量”より“質・技能”が問われるフェーズへ移行中という指摘もされています。

また、住宅・インフラ・公共サービスなどの基盤整備がかなり程度進んだ都市として、もっと暮らしやすい・持続可能な社会という軸にシフトしているとも見えます。

生活視点からいえば、成長が止まった・儲からないと捉えるのではなく、変わる成長ステージの中でどう立ち位置を取るかが鍵となっているといえます。

なぜ“質重視”へとシフトするのか?

いくつかの要因が重なっています。
 ・外部環境のリスク増大(米中貿易摩擦、グローバル製造チェーンの変化)
 ・労働人口の伸びの鈍化・高齢化・熟練化ニーズの増加。
 ・限られた土地・資源で、効率性・高付加価値という方向へ進まざるを得ない

これらの要因が「ただ成長すれば良い」という考えへから、成長率という数字を“どのような成長”なのかという問いへ関心が移っているように感じます。

新たなフェーズへ

成長率2~3%という数字は、一見鈍化と映るかもしれません。しかし、シンガポールが今回示しているのは、「速ければ良い」という旧モデルから、良く成る・深く成るという次の段階への移行です。単なる成長率の変化ではなく、その 質=どんな成長を目指すか にこそ、ビジネスチャンスが眠っているといえるでしょう。

Malay Dragon

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マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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