シンガポールの人口構造と外国労働者依存

シンガポール

シンガポールの街を歩くと、建設現場で汗を流す南アジア系の男性、飲食店で接客する東南アジア出身の若者、家庭で働くフィリピン人やインドネシア人のメイドを日常的に目にします。こうした光景は、同国が直面する人口構造を象徴しています。少子高齢化の進行によって外国人労働者が社会を維持するための不可欠な存在となっている、現在のシンガポールについて解説します。

(引用元:Singapore population hits record 6.11 million, driven by foreign workers | Reuters
https://www.reuters.com/markets/asia/singapore-population-hits-record-611-million-driven-by-foreign-workers-2025-09-29/

シンガポールの人口構造と外国労働者依存  

   著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2025年 11月24日

人口の内訳と非居住者の増加

シンガポール首相府の国家人口・人材局が9月29日に発表した最新の人口統計によると、2025年6月時点の総人口は前年比1.2%増の611万1,175人と、前年に続いて過去最高を更新しました。その内訳は、市民366万人、永住者54万人、非居住者191万人でした。非居住者は全体の約3割を占め、直近1年間で2.7%急増しています。増加分の大半を外国人労働者が占めており、社会を支える力が外部に依存していることがあらためて明らかになっています。

外国人労働者の役割と内訳

建設分野での依存度は特に大きく、チャンギ空港の第5ターミナルや大規模なHDB住宅供給を支えるのは、外国人ワークパーミット保持者です。2025年6月時点での外国人労働者総数は159万人。内訳はエンプロイメントパス(EP)20万人、Sパス17万人、そしてワークパーミット保持者は118万人に達しています。その中でも建設・海運・プロセス産業(主に化学プラント産業)で46万人、家事労働者が31万人と、生活インフラに直結する分野での存在感が際立っています。

現場で見た光景

数カ月前、郊外の建設現場近くを訪れたときのことです。夕方の休憩時間、ヘルメットを外した作業員たちが、地面に座り込みながら母国語で談笑していました。遠くから聞こえてきたのはヒンディー語やベンガル語。彼らの笑い声は明るいけど、ふと視線を上げた時、狭い仮設宿舎に戻っていく背中には疲れが見えました。数字だけでは見えない「依存の現実」が、ここに凝縮されていると感じた瞬間でした。

依存を管理する仕組み

政府は「Dependency Ratio Ceiling(「外国人労働者依存率の上限」)」で業種ごとの外国人比率を管理しています。建設・プロセス産業は83.3%、製造業は60%、サービス業は35%と明確に上限を定めています。さらに「外国人労働者税」を課すことで、雇用主にコスト面から調整を促しています。制度的に、どこまで外部に頼るかを常に管理しているのがこの制度の特徴です。

高齢化と労働需要の狭間で

シンガポール市民の65歳以上比率はすでに20.7%に達し、2030年には24%を超える見通しで、高齢化が急速に進んでいます。国内人材だけでは旺盛な需要に対応できず、外国人労働者なしに建設やサービス供給を維持するのは困難なのが現実です。実際、シンガポール人家庭を訪ねた際に「メイドさんがいなかったら共働きなんてできない」と語る夫婦の声を聞いたことがあります。共働き社会を支えるには、家事労働者という存在なくして成立しないのが現状です。

社会的課題と国際的な注目

ただ、待遇や生活環境をめぐる課題は根強いものがあり、2024年にローマ教皇が外国人労働者保護について言及したことは象徴的でした。規制を緩めすぎれば都市基盤への負担や社会統合の問題が浮上し、逆に締め付ければ経済成長を阻害するでしょう。

「量」から「質」への政策転換

近年は”量的な拡大から質の管理”へシフトが進んでおり、EPやSパスでは給与要件を引き上げ、COMPASSというポイント制も導入しています。高度人材の採用を強める一方、低スキル分野でも、税や「外国人労働者依存率の上限」を駆使し、依存度を調整しながら国内人材育成と併行させているのです。

少子高齢化という不可避の現実と、外国人労働者への依存。シンガポールの人口構造はこの2つの緊張関係の中で形成されています。依存を前提にしつつ、持続可能なバランスをいかに保つか。これはシンガポールにとどまらず、世界の都市国家や移民を受け入れている国が直面する普遍的な課題となっています。

Malay Dragon

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マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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