シンガポール 就労ビザの条件改定

シンガポール

シンガポール人材省(MOM)は、労働力の安定性を高めて労働力不足に対処することを目指して、2025年に労働許可証とSパスの枠組みに大幅な変更を実施する予定であると発表しました。
そこで今回の記事では、シンガポールの最新のビザ事情について解説します。

シンガポール 就労ビザの条件改定  

   著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2025年 7月19日

重要な制度変更

シンガポールでは外国人の雇用政策に大きな変革が進んでいますが、2025年1月1日より、エンプロイメント・パス(EP)の申請に必要な最低給与額を引き上げ、9月にはSパス申請の最低適格給与を引き上げる予定です。

いずれも日系企業に影響を及ぼしそうです。

就労ビザの種類と最近の変更点

現在シンガポールの就労ビザには主に以下のものがあります。
 ・エンプロイメント・パス(EP):​高度な専門職や管理職向けのビザ​
 ・Sパス:​中技能労働者向けのビザ
 ・ワーク・パーミット(WP):​低技能労働者向けのビザ
2025年1月1日からEPの最低給与基準が引き上げられており、最も若い年齢層で月額5,600シンガポールドル(約63万円)に設定されています。 ​2025年7月以降、SパスやWPの要件も順次改定される予定です。​

過去の政策変更

外国人労働者の受け入れを管理するため、政府は頻繁に政策を改訂してきました。

①最低給与基準の引き上げ:
​2020年5月と9月にEPの最低給与額を改定しました。
2023年9月には新しい就労ビザ制度「COMPASS」を導入し、給与、経歴、人種、ローカル人材採用比率などをポイント制で評価する仕組みを開始しました。 ​

②外国人雇用税(Levy)の導入:
​企業が雇用する外国人の人数に応じて課税し、外国人労働者の数を抑制する政策です。 ​

③外国人労働者比率の制限:​
特定の業界での外国人労働者の割合を制限し、シンガポール人の雇用の促進を進めています。

条件を厳格化する理由

なぜシンガポールは頻繁に外国人労働者のビザ要件を厳格化しているのか、その主な理由は以下の通りです。

①自国民の雇用保護:​
シンガポール人の雇用機会を確保し、失業率を低く維持するため。最近では頻繁に改正が行われている

②高付加価値産業へのシフト:
​高度なスキルを持つ人材を優先的に受け入れ、経済の高付加価値化を推進している

③社会的安定の維持:​
急激な人口増加(特に外国人の労働人口)や、それに伴う文化的摩擦を防ぎ、社会の安定を維持することを目的としている

なぜ厳格化できるのか

なぜこうも頻繁に、そして厳格にビザに関する政策を改正できるのか、その背景には、以下のような要因が考えられます。

①強力な政府のリーダーシップ:​
政府が迅速かつ効果的な政策決定を行う体制を常に維持しており、強力に推し進めることができる

②経済的魅力:
​ビジネス環境の良さや税制の優遇措置により、企業が引き続きシンガポールを拠点とする魅力を維持し続けている

③国民の支持:​
国民の雇用保護や社会的安定に対する政策が国民から支持を得ている

日本企業への影響

これらのビザ要件の厳格化は、シンガポールに進出している日本企業にもさまざまな影響を及ぼす可能性があります。

​日本からの駐在員派遣や新規採用が難しくなって人材確保に課題が生じたり、​最低給与基準の引き上げにより人件費が上昇し、経営コストが増加する可能性が高いです。​現地採用の強化や業務の自動化など、ビジネス戦略の見直しや検討が必要となるでしょう。

日本企業はこれらの変化に対応するため、現地人材の育成をさらに進めるとともに、ビザの要件の最新情報の継続的な確認が求められています。

Malay Dragon

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マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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