新型コロナウイルス感染症流行とインドネシア・ジャカルタの首都移転延期

コロナ時代

ジョコ・ウィドド大統領は2019年8月16日、施政方針演説に相当する演説の中で、首都をジャカルタからカリマンタン島に移転する方針を正式に表明した。
「新首都は国民のアイデンティティーの象徴であるだけでなく、国家の進歩を表す」とし、再生可能エネルギーを利用した「近代的、スマート、グリーンシティー」をコンセプトに据え、「平等や正しい形の経済的繁栄の実現のため」と説明した。
2021年から建設を開始し、24年から政府機能などの移転を段階的に進めていく計画となり、完了はインドネシア独立100年を迎える2045年を目指すとされた。

新型コロナウイルス感染症流行とインドネシア・ジャカルタの首都移転延期

著者:gram 福田 さやか 
公開日:2020年10月12日

国別概要情報 インドネシア(Indonesia)

同年4月の大統領選挙で再選されたばかりの大統領の思いきった発表を、驚きを持って見たのは筆者だけではないだろう。

確かに、ジャカルタは交通インフラが脆弱なままに都市の拡大が続き、慢性的な交通渋滞や下水処理能力の不足による洪水被害など、都市機能を阻害する事態が起きてはいた。
しかし、2億6千万人以上の人口を抱えるインドネシアの首都を移転するとなれば、容易に進まないであろうことは予測でき、本当にどこまで進むのだろうかと思っていた。

そのようなインドネシアでも、他国の例に漏れず、コロナウイルス感染症の流行が起きた。特にインドネシアは、ASEAN加盟10カ国の中でも最悪な状況となっており、政府の対応も後手に回っている印象がある。

首都移転計画の延期が発表

そのような中、2020年9月9日のインドネシアの英字新聞「ジャカルタポスト」で、首都移転計画の延期が発表されたと報道されたときは、やはり、と感じた。

ジャカルタポストによれば、同紙取材に対し、コロナウイルスのパンデミックを緩和することに優先順位を切り替えたので、東カリマンタンにインドネシアの新首都を建設する計画を延期した、とBAPPENAS(国家開発計画庁)のスハルソ長官が語ったという。「首都移転計画が当面中断されたといい、今日に至るまで、国家の首都移転計画はまだ保留中である」とした。

元々同氏は2020年8月18日にロイターに対し、首都移転計画が棚上げになっていることを認め、新型コロナウイルスのワクチン開発や国民への配布など、感染流行の克服と経済回復を「最優先する」と述べ、鍬入れのセレモニーは2022年か23年に延期になる可能性があるとしていた。首都移転の開始は、ジョコ・ウィドド大統領の任期が終わる24年としており、退任直前まで政権を浮揚させる狙いもあったかもしれないが、その実現は難しくなってきている。

医療関係者の感染死者数もASEAN域内トップ

インドネシアでのコロナウイルスによる死者は、2020年9月24日には1万人を超えたとの報道がなされた。ジョコ・ウィドド政権も様々な感染拡大防止策を打ち出してはいるが、それに反し、感染者数は増加の一途である。医療関係者の感染死者数もASEAN域内トップという不名誉な状況に加え、感染者を収容する病床も足りなくなってきているという。再選を果たし、様々な政策を打ち出そうとしていたジョコ・ウィドド大統領にとって、新型コロナウイルスの流行は大きな打撃であり、厳しい政権運営が続いている。

首都移転にソフトバンクグループが大型投資を表明

インドネシアの大型投資については、高速鉄道プロジェクトで日本に決まりかけていたところを、中国がさらっていった経緯がある。首都移転に対しては、ソフトバンクグループが大型投資を表明している一方で、中国が主導する国際開発金融機関アジアインフラ投資銀行(AIIB)なども投資の用意があることを以前に表明している。

現時点では止まってしまっているプロジェクトではあるが、今後もその動向からは目が離せない。

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福田 さやか

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