日本のコメ・ご飯・おにぎりを欧州で売る vol.3

ビジネスコラム

IT事業の起業のためにブダペストに1.5ヶ月、ロンドンに1.5ヶ月、キッチンのあるゲストハウスに宿泊し、現地で食材を買って自炊していたので、両都市の「コメ」「ご飯」の事情がおおむね把握できた。
英国・ロンドンのコメの事情を見てみよう。

日本のコメ・ご飯・おにぎりを欧州で売る vol.3

著者:gramマネージャー 今泉 大輔 
公開日:2020年08月31日

地域概要情報 英国 (United Kingdom)

スーパーの寿司を10数年ぶりに試す

2000年に仕事で数日滞在した時に、大手スーパーの店頭で寿司を売っていたので買って食べたことがある。ご飯が固くて、でんぷん質によく熱が入っていない、炊き方が失敗したような酢飯の上に、ゆでエビなどが乗っかっていた。はっきり言って、おいしいとは言えないものだった。
あれから20年近く。同スーパーの寿司も相当に進歩していると思って買ってみた。店頭ではロール寿司が3種。あとはサーモンとゆでエビをセットにした握りなどを売っている。見た目は日本のコンビニで売っている握り寿司パックの小型版。中には魚型プラスチック容器の醤油と、日本のスーパーの刺身についてくる小型パック入りわさび、小型パック入りのガリも入っている。ロンドンのスーパーで買える食べ物としては安い価格帯。
肝心の味は…。驚いたことに18年前に食べた寿司からまったく進化していない。ご飯は硬い。冷凍のものを解凍しただけなのか、例えて言えばプラモデルのご飯を食べているという食感。サーモンのネタはうっすらとスモークしたサーモン。鮮度の問題があるため、生のネタは使わないのだろう。これはこれでおいしい。ゆでエビは…。あまりおいしいとは言えなかった。
このような、10数年経ってもおいしさに改善のない寿司パックが大手スーパーで売られている。
これはつまり、「何がおいしい寿司なのか?」「どういうご飯がおいしいご飯なのか?」。そうした味覚の基準をほとんどの人が持ち合わせていないからではないか?
日本でも、うどんのように延びたスパゲティをケチャップで炒めて、「おいしいナポリタン」として食べていた時期があった。あれは「何がおいしいトマトパスタか?」という味覚の基準をほとんどの日本人が持ち合わせていなかったからだ。
その後、日本でもイタリアで修行を積んだシェフが続々と日本でレストランを開業して、本当のイタリアンパスタの味覚が浸透するようになった。何がおいしいパスタで、何がそうでないかという基準ができあがっていった。
実は上海に仕事で行っていた2000年前後に、日本で言う原宿に当たるエリアで高級イタリアンレストランのパスタを試したことがある。「ああ、調理人はおいしいパスタの味を知らないで調理しているんだな」と思わせる味だった。米国でも同じ頃、フロリダ州オーランドのディズニーランドホテルで、延びたナポリタンのようなスパゲティを食べたことがあった。おいしいイタリアのパスタの味覚が浸透するまでは、年数がかかると言うことである。

それに近い図式がロンドンの大手スーパーで売っている寿司にある。つまり、ほとんどの人は、何がおいしい寿司かをわからずに食べている。売る方も、おいしい寿司をわからずに売っている。そう言う図式がある。

ロンドンの街並み。
大手スーパーで売っている寿司。巻物、サーモン、マグロ(ツナ)など。値段は安い。大量に作ったものをいったん冷凍して保存し、店頭に出す前に解凍しているのではないかと思われる。

ファッショナブルな日本食レストランでもご飯はイマイチ

一方、日本食はロンドンでは高級な料理として認識されている。都心中の都心であるピカデリースクエア地区には、紛れもない高級料理であるラーメンを提供する高級レストランAnzuがある。1杯10ポンド程度(1,500円前後)、客単価3,000円程度のレストランだ(飲食店価格が安めのロンドンでは高級店)。
この界隈では日本からやってきたKanada-Ya(金田屋)など複数のラーメンレストランが出店しており、ある程度、高級な食べ物としてのラーメンが楽しまれている。
寿司はもちろん芸術的な日本料理として認識されている。最高級ホテルのザ・リッツもある金融街には、ハイエンド日本レストランのセクシー・フィッシュ(Sexy Fish)がある。メニューを覗いてみると、握りの単品が5ポンド(750円)程度。これをいくつか組み合わせてオーダーする。刺身ももちろんある。客単価は飲み物抜きで1万円程度か。東京の高級店よりは安いがロンドンではハイエンドに属する。
その他、若者向けのファッショナブルな和食チェーンもある。ここはラーメンやカレーがメインで価格は10〜14ポンド程度。メニューを工夫して単価を高めに設定している。日本の居酒屋の突き出しに当たる枝豆なども立派な前菜だ。
そうした日本食レストランの1つでカツカレー(11ポンド)を頼んで食べてみた。カツは豚肉ではなく鶏肉。ロンドンにはインド・中東から来たイスラムの人がたくさんおり(ロンドン市内では1/3がイスラムの人たち)、多くのレストランが「ハラル」の看板を掲げている。豚はタブー。消去法として鶏肉が残る。

ある日本食レストランのカツカレー。カツは鶏肉。

このカツカレーのご飯だが、詰まるところは、日本の「おいしい炊きたてのご飯」ではなかった。とりあえず、炊飯器で炊いているご飯ではある。しかし、コメが、日本人一般が普通おいしいと思うコメではない。ランクが二等か三等下がったようなコメ。言葉は悪いが日本では飼料にしかならないようなコメという印象があった。知名度の高い日本食レストランチェーンでもそういう現実がある。
厨房の中を覗くと、色々な人種の人たちが入り混じって働いていて、ロンドンの人口構成の縮図そのもの。その中に日本人はいなかった。また、日本食レストランによくいるタイ人もいなかった。つまり、ご飯を常食しない人たちが炊いているご飯なわけである。
こうしたことから、日本食をあちこちで見かけるロンドンでも、日本人にとってはごく当たり前の「ふっくらとした炊きたてご飯」は、ほぼすべての人が未経験だと想定できる。
ロンドン市内ではファーストフードとして寿司や日本式弁当を提供しているチェーン店があるが、そこのご飯にも同じことが言える。

ロンドンのある店舗で売られていた寿司パックやおにぎり。

ということで、おそらくは欧州全域で、日本人がふだん食べているおいしいご飯は食べられていない。というより、ほぼすべての人は未経験だろう。
従って、炊きたての本当においしいご飯を食べると、目を丸くするはずだ。我々日本人が、本当においしい焼き立てのパンに出会った時の感動。たぶん1980年代に起こったことだが、それに近いものを現地の方々に味わってもらえると考える。

※本稿は、ITmediaオルタナティブブログ インフラコモンズ今泉の多方面ブログ「日本のコメ・ご飯・おにぎりを欧州で売る」を改稿したものです。

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