「悦己消費」は中国の若者の主流に|Z世代と多様化する消費ニーズ

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昨今、中国の若者は自分を悦(よろこ)ばせるためにお金を使う「悦己(えっき)消費」の傾向にある。旅行や美容、癒しなどを求めて、普段頑張っている自分へのご褒美として消費する。若い中国人女性層に支持されている小紅本で「悦己」と検索すると、61万件もの投稿がされている。様々な情報が入り交じり、若者の新しい消費動向に注目が集まっている。本記事では、中国でビジネスを始めるなら必ず理解しておきたい新しい消費トレンド「悦己消費」について解説する。

「悦己消費」は中国の若者の主流に|Z世代と多様化する消費ニーズ

   著者:上海gramフェロー 米久 熊代
公開日:2024年4月30日

「自分を悦(よろこ)ばせる」悦己消費をする中国人女性たち

上海市で撮影した習い事の様子。中国のお守り、魔除け「香包」を作る中国人女性たち。袋の中に香りの良い好きな花や薬草を入れる

3月8日は国際女性デー(中国語で三八婦女節)。日本ではまだまだ浸透しているとは言い難いが、3月8日は女性が主役の日として広く認知されているとともに、近年は国際女性デー商戦としても知られており、女性客をターゲットにしたセールが行われる。上海の街では「女神節快楽!」という女性の日を祝う言葉が、デパートなど至るところで見られる。

中国では国際女性デーは女性のみ会社が半休となったり、日頃の感謝を込めて男性が女性にプレゼントを贈ったりする。筆者の周りのZ世代の友人女性は、午前中に仕事を終わらせて午後は少し豪華な食事を楽しんだり、デパートやエステで国際女性デーのセールを活用するなど、普段頑張っている自分へご褒美としてお金を使う人がほとんどだ。

これは国際女性デーに限らず、近年の中国におけるZ世代は、己を喜ばせるためにお金を使う消費スタイルが主流となってきている。自分を癒してくれるものや、楽しむための体験型サービス、生活を豊かにするための趣味や習い事などの消費が増加している。

ライフスタイルが豊かになる夜間学校が中国の若者に人気

最近の中国では、ストレス解消のため仕事終わりに学ぶことができる「夜間学校」が若者の間でブームとなっている。中国茶や書道、太極拳、藍染めなどの中国文化を学ぶコースや、ダンス、ヨガなどのフィットネス、アート、料理、フラワーアレンジメント、メイク、カメラなど多種多様な夜間学校が存在し、人気を集めている。

スマホから離れ、先生や他のレッスン生と対面で交流しながら、趣味を楽しんだり、スキルアップを図ってストレスを解消できるというのが、「夜間スクール」が若者の間で人気となっている理由のひとつだ。もうひとつの主な人気の理由はコスパの良さで、500元(1元は約20.6円)出せば、「夜間スクール」では10-12レッスン受けることができる。これは1レッスン当たり50元(約1000円)以下の計算になる。

2023年下半期以来、「夜間スクール」の検索回数は前年同期で980%上昇と激増した。「夜間スクール」がブームとなり、各プラットフォームでレッスン生を募集しながら各種教室とも連絡を取り、その橋渡し役となる起業者もたくさん登場している。

(引用元:人民網 http://j.people.com.cn/n3/2024/0205/c94476-20131066.html

夜間学校といっても、中国の若者の間でブームとなっているのは趣味関連のスクールである。自己啓発のためだけではなく、自身の幸福度を高め、生活が豊かになる経験のできる夜間学校は、まさに悦己消費と言える。

中国Z世代の実態と多様化する消費ニーズ

2023年のダブルイレブンセール(W11、11月11日に行われる世界最大規模のECセール)の結果からも、「悦己」消費が顕著だった。販売額が増えたスナック菓子、香水・フレグランス、生け花、準高級ブランド品、ペット、IT製品、福袋、自己啓発の授業などがその一例だ。そのほかにも若年層の消費の内訳をみると、eスポーツ、サイクリング、スキーなどの趣味関連が大幅に伸びた。Z世代の消費トレンドを研究するJust So Soul研究所の「2023年Z世代ダブルイレブン消費行動報告」によると、Z世代がダブルイレブンに購入した商品には、日用品、衣服・アクセサリーなどの生活必需品のほか、「ホテル・旅行」(48.8%)、「健康食品・医薬品」(48.6%)、「ペット用品」(46.2%)、「体験・ヘルスケアサービス」(44.7%)がそれぞれ5割弱を占めた。

(引用元:JETRO https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2024/1b0990f79ace8c72.html

Z世代は商品の外見を気にするの傾向が強い。ある中国メディアが発表した、悦己消費をする若者について「見た目は正義。美しくなるために消費する」と解説した。JETROの記事によると、Z世代の趣味関連商品の購入理由として、およそ6割が「見た目が良い物」を重視していると紹介している。

中国調査会社iiMedia Research(艾媒諮詢)が公表した「2022年中国趣味消費トレンド洞察報告」によると、「90後」(1990年代生まれ)と「00後」(2000年代生まれ)世代の64.9%が「見た目が良く、美しいものを生活に取り入れて自身を悦ばせる」ことを、趣味関連消費の核心と捉えている

(引用元:JETRO https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2024/1b0990f79ace8c72.html

中国情報プラットフォームを適切に活用できるのかが鍵

以上、本記事では物質的なものだけを追求するのではなく、経験や自身の心を満足させるために消費する「悦己消費」について解説した。

Z世代は中国の人口の2億6000万人を占めており、幼少期からインターネットや電子機器などに囲まれた環境で育ってきた。ブランドイメージなどには惑わされず、自身のライフスタイルとニーズに焦点を当て、その商品は購入するに値するのかを判断する。

購入前にSNSや口コミなど様々な方法で情報を探す傾向にあるが、高い購買意欲を持っているのもZ世代だ。様々な情報プラットフォームを企業側が適切に開拓できるかが、「悦己消費」のマーケットの波にのるための鍵となる。

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