エストニアのクリスマスとその経済効果
ヨーロッパのクリスマスシーズンはどこの都市もにぎわい、中心部ではクリスマスマーケットが開かれる。その中で最も有名なのが過去にヨーロッパで一番になったこともある首都タリンのクリスマスマーケットだ。これまではクリスマスシーズンには国外から訪れる観光客がいたが、今年の観光客の動向と経済効果はどう予測されているのか。
エストニアのクリスマスとその経済効果
著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2024年1月15日
首都タリンのクリスマスマーケット
エストニアの首都タリンで行われるクリスマスマーケットは国内で最大規模である。マーケットが開かれるのは、旧市街の真ん中にあるラエコヤ広場。11月末から準備が始まり、例年12月1日前後から本格的にイルミネーションやお店などが始まる。ちなみに11月中に広場を訪れると、運が良ければ高さ10m以上の巨大なツリーが設置されるところを見ることができる。この木はエストニアの約半分の国土を占める広大な森林から選ばれた、特別な一本だ。
このタリンのクリスマスマーケットは、2018年に行われた世界中の旅行者を対象とした投票でヨーロッパで一番のクリスマスマーケットに選出された。規模としてはそこまで大きくないのだが、入り組んだ旧市街を練り歩いた先に見える電飾でキラキラしたクリスマスマーケットは素晴らしい光景で、訪れる価値がある。
今年のクリスマスシーズンの経済効果予測
コロナウィルスの大流行を乗り越えた後の、今年のクリスマスマーケットによる経済効果はどのように予測されているのだろうか。
今年のクリスマスシーズンは、経済の低迷、物価の高騰、一向に良くならないロシアとウクライナの問題、そして陸続きでお隣であるロシアからは観光での入国が抑制されているため、外国人観光客がコロナ流行前の規模に達することはないと予想されている。
コロナが流行する前、そしてロシアとウクライナ間で戦争が始まる前は、ロシア人観光客の割合は全体の約20%を占めていた。現在ロシア人観光客に対し国境は事実上閉鎖されているので、もちろん20%までも回復しておらず、今後も回復することはないだろうと予想されている。エストニアはウクライナ侵攻が始まって以来、ロシアに対して強い抵抗を示していることで知られている。
ロシアのクリスマスはユリウス暦に従った正教会のクリスマスで、1月7日前後に盛り上がる。エストニアのクリスマスマーケットは12月25日を過ぎてもユリウス暦でクリスマスを過ごす人のために片づけずに残してある。ロシアからの観光客減少は25日以降のクリスマスマーケットの売り上げが落ち込むことにつながるのだ。
この失った20%の観光客を補填できるほどヨーロッパ内からの観光客が増加しているわけでもない。フィンランドとエストニア間のフェリーを運航している会社TallinkのCEOは「フィンランド人は以前と比べると今年はエストニアを訪れる回数が減っている」とコメントしている。フェリーの乗客数が2019年並みにはなっておらず、今でもフィンランド人がエストニアを訪れていることは事実だが、以前は同じ期間に何度も訪れていたのに対し、今は同じ期間に1回しか訪れていないことをフェリーの乗客データから報告している。
加えて、現在はスウェーデン通貨クローナがユーロに対し14年ぶりに安値をたたき出しているため、今年は多くのフィンランド人が、エストニアへの旅行よりも、クローナ安のスウェーデンへの旅行を好むだろうとも予測されている。
(参考:err err https://news.err.ee/1609183003/christmas-new-year-tourism-will-not-meet-pre-covid-levels)
まとめ
観光業はまだ完全には回復しておらず、回復には売上高がコロナ以前の水準を満たすだけでなく、実際にはコロナ以前より約40%増加する必要があると試算されている。年々エストニアが物価の高い国になっていることと、増税によってエストニアへの旅行や滞在が高くつくことで、より物価の安い他国との競争が非常に厳しくなっている。
今年のクリスマスはコロナ前と同じ水準まで売り上げや観光客数を伸ばすせず、厳しい状況になると予測されている。世界情勢や物価の上昇等が落ち着くのはいつになるか予測ができないので、特定の地域からの観光客に頼らない収入源の確保、そして物価の安さで呼び込んでいた観光客に頼らない計画を立てることが必要となってくるだろう。