エストニアの学生、読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシーで世界トップクラス
フィンランドやスウェーデンの教育は先進的で質が高いとの報道がなされるが、質の高い教育を提供しているのは北欧諸国に限った話ではない。PISAと呼ばれる世界共通の学力を測るテスト(2018年実施)の結果によると、ヨーロッパで最も学力が高いのはエストニアの学生であることが報告された。しかしながら、使用言語がもたらす生徒間の学力差も指摘されており、結果だけを見て手放しに喜ぶことはできない状況である。
国際テストで証明されたエストニアの高い学力
著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2023年3月12日
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世界共通の学力テスト「PISA」でのパフォーマンス
世界全体で実施される統一的な試験「PISA」。OECD(経済協力開発機構)が3年ごとに実施するこの試験では、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーが調査される。これら3つのカテゴリーごとに国別の獲得点数が発表され、学力が可視化できる仕組みである。調査対象は15歳の学生で、これは一般的に多くの国で義務教育を終了する年齢が15歳であることからきている。
最新のPISAの試験結果は今のところ2018年のものだ。本来であれば2021年にPISAが実施され、すでにその結果が出ているはずだが、コロナウィルスのパンデミックにより2021年の試験は2022年へ延期され、その結果が出るのも翌年なので最新の結果を見るにはもう少し待つ必要がある。
(参考元:World Population Review PISA Scores by Country 2023 (worldpopulationreview.com)
https://worldpopulationreview.com/country-rankings/pisa-scores-by-country)
2018年に実施されたPISAの結果、エストニアはヨーロッパ内で1位を獲得した。
カテゴリーごとに見ていくと、エストニアの学生は読解力で世界5位、数学的リテラシーで世界8位、科学的リテラシーのカテゴリーで世界4位となった。
(引用元:Education Estonia PISA 2018: Estonian students rank 1st in Europe – Education Estonia
https://www.educationestonia.org/pisa-2018-estonian-students-rank-1st-in-europe/)
人によってはどこの国?と思うようなエストニアであるが、人口は約133万人で奈良県の約132万人と同じぐらいだ。
面積は約45,000平方キロメートルで九州とほぼ同じだが、このような結果を残しているのは驚くべきことである。
高い学力の理由
学力を育てる訓練は幼稚園から始まる。エストニアでは3歳もしくはそれ以前から幼稚園に通うのが一般的である。幼稚園では先生が遊びながら学ぶことを教え、そして徐々に正式に学ぶことを教えていく。幼稚園の費用は80€(11,200円)と決められており、日本の私立の幼稚園と比べると比較的安い。
学校の教育カリキュラムはあるが、教師の責任の下、生徒に合った内容を自由にデザインできることが学力向上につながっていると言われている。また、アジアの国と同じようにたくさん勉強する習慣があるのも一要因だと考えられる。
(引用元:BBC News Pisa rankings: Why Estonian pupils shine in global tests – BBC News
https://www.bbc.com/news/education-50590581)
筆者としては、たったこれだけで学力が高いことに説明がつくのかと少し疑念を抱いてしまう。他のヨーロッパ諸国では、小学校から留年するかもしれないという緊張感のある学校制度の国もあることを知っているからだ。きっと他にも理由があると個人的に推察している。
指導言語によって異なる学力
全体的にエストニアの生徒は学力が高い。しかしながら、学校での指導言語によって学力差が現れるということも同時に明らかになっており、ロシア語学校の生徒はエストニア語学校の生徒よりも学力が低いという結果が出ている。
国内にはエストニア語で授業を行うエストニア語学校と、ロシア語またはロシア語とエストニア語のハイブリッドで授業を行うロシア語学校の2種類がある。このロシア語学校に通う生徒は全学生の13.5%を占め、これらの学生はエストニア語学校に通う生徒たちよりも、高校卒業時に受ける試験で低い成績を修めているとされる。とはいってもPISAを主催するOECDが出している平均よりは学力は高い。この格差は教師の質によると考えられている。
このエストニア国内のロシア語話者については古くから政府が抱える問題であり、政府はロシア語の幼稚園や学校でのエストニア語教育への移行のための詳細な行動計画を承認し、2024年には一部で開始される予定である。
(引用元:European Commission Estonia: Action plan approved for transition to Estonian-language education | Eurydice (europa.eu)
https://eurydice.eacea.ec.europa.eu/news/estonia-action-plan-approved-transition-estonian-language-education)
まとめ
全体として高い学力を育て上げるエストニアの学校教育であるが、生徒間の学力差が使用言語に起因しているという、教育の範囲では納まらない問題が背後に隠れている。PISAで測られている項目は限定的であることを念頭に置きつつ、もうじき発表されるであろう2022年のPISAの結果を楽しみに待とうと思う。
*当該記事のユーロ計算は2023年3月現在で1ユーロ140円で計算し、繰上げしている。