ラトビアの移民たちはどう生活している

ラトビアではウクライナからの難民が清掃員や工場作業員などの労働に従事し、中には最低賃金を下回る収入で生活している人たちもいる。2024年はじめ時点で約1万人が合法的に就労しているが、言語の壁や高い税制負担が大きな障害となっている。また、首都リガではフードデリバリーやケバブ屋など、移民が主に従事する職業に偏りが見られ、多文化化が進む一方で格差や偏見も顕在化している。
ラトビアの移民たちはどう生活している
著者:ラトビアgram fellow さえきあき
公開日:2025年2月17日
ウクライナからの移民たち
どうにもできない理由から国を出ることになったウクライナ人たちは、住み慣れない土地でも仕事をしないと生きていけない。しかし、ラトビアにいる彼らの労働環境は良いとは言い難く、平均と比べると劣る賃金で働かざるを得ない状況にある。2023年12月時点で、ラトビア国税庁の情報システムには9,341人のウクライナ難民が雇用税を支払っており、さらに1,259人が自営業者として登録されている。このことから、合法的に就労しているウクライナ難民は総計10,600人にのぼるとされる。一方、中央統計局によると、2024年はじめの時点でラトビアに住むウクライナ難民は、就労年齢に満たない人々も含めて25,700人とされている。
ウクライナ人が就く仕事は、この国に到着したばかりで十分に「定着」しておらず、言葉も習得していない人々が従事しやすいものが中心だ。たとえば、清掃員が最も多く671人で、次いで工場作業員、販売員、建設現場の労働者などが続く。これらの職業は決して給料が良いとは言えず、ラトビアの月の最低賃金を下回る場合もある。
平均給与が高くないラトビアでも職を探すことは現地人でさえ年々困難になってきており、不況気味の経済状況が移民にそのまま影響している。加えて、給料が低い背景にはラトビアの高い税制負担が関係している。例えば従業員の額面給与が2000€の場合、雇用者は税金や諸費用を含む約4000€を負担しなければならない。つまり、1人の従業員のために額面のほぼ2倍を毎月支払う必要があるのだ。
このような税負担の大きさはヨーロッパ諸国で共通して見られる課題で、たとえばドイツでは額面給与の約半分が税金として差し引かれるという。この多額の税金を回避するため、一部では報酬を現金手渡しするケースが見られる。法人化された企業では行われないが、個人対個人の契約では課税を避けるために現金払いが求められることもある。たとえば、アパートの清掃員が個人で働く場合、課税対象外とするため現金支払いを希望される場合がある。
フードデリバリーのドライバーは
ラトビアには日本の「ウーバーイーツ」にあたる「Bolt Food」と「Wolt Food」がある。アプリを使用して食べ物を注文し、自宅で受け取るというシステムである。街中でドライバーをたくさん見かけるのだが、彼らのほとんどは移民である。見た目だけでは人種を言い当てることはできないが、中東や南アジア出身であろう人たちが日夜バイクに乗って注文を運んでいる。
また、首都リガにはいくつかケバブ屋があるがそこで働く人は有色人種が多い。もちろんラトビア人だと思われる人も厨房内にはいるが、ケバブ屋といえば従業員は移民だろうという固定観念が存在している。
まとめ
筆者がラトビアで居住等の手続きをした2024年夏ごろは、移民局が業務を捌ききれないほどの混雑は見られなかった。しかし居住手続きの際には、ウクライナのパスポートを持つ人々が多く待っている光景が印象に残った。ウクライナ人の友人と来年の目標を話していた際、「VISA approved(ビザ承認)」が目標だとさらりと言われ、その言葉の重みに言葉を失ったこともあった。
また、ラトビア在住のインド人がTikTokで「多くの人が僕に職業はフードデリバリーかケバブ屋かと聞いてくる」とジョークにしてバズったことがあった。これは笑い話としつつも、言葉が話せないことが大きなハンデとなり、移民が就く仕事、現地人が就く仕事という分断が形成されつつある現実を象徴している。
移民受け入れの是非は近頃議論の的になっているが、多文化を取り入れるだけでなく、現地人と移民間の格差や偏見が顕在化している点にも目を向けるべきだ。ラトビアの現状は、その課題を浮き彫りにしている。
◇LSM.lv:More than 10,000 Ukrainian war refugees employed in Latvia
https://eng.lsm.lv/article/economy/employment/10.12.2024-more-than-10000-ukrainian-war-refugees-employed-in-latvia.a579615/
