マレーシアの菜食主義者市場と進化した日本食

マレーシア

マレーシアでは成人の約4.9%がベジタリアン・ヴィーガン(※1)と言われている。日本では、ある調査結果によると5.9%(※2)であることから、とりたてて突出している数字ではないと思われる。

しかし、近年増加しているのが中間層以上、特に富裕層におけるベジタリアン・ヴィーガンの増加だ。

彼らは以前からヘルシーな日本食や野菜を多く使用する伝統的なメニューに注目していたが、近年さらに進化した日本食が登場しつつある。

マレーシアの菜食主義者市場と進化した日本食   

   著者:マレーシアgramフェロー 逗子マリナ
公開日:2023年7月11日

マレーシアにおける宗教や民族による食文化事情

多民族国家であるマレーシアは食の選択肢も多様である反面、宗教や民族によって食習慣が異なっている。

マレーシアの人口の約70%を占めるイスラム教徒(ムスリム)の禁忌は飲酒、豚肉および由来製品の摂取などではないだろうか。マレーシアではホテルやレストラン、屋台といった公共の場所では基本的にこの禁忌が遵守されている。

ただし飲酒や豚肉料理を好む中華系が多いエリアなどでは「ノンハラル(Non halal)」とことわりをいれて提供している。また、中華系仏教徒の中にはベジタリアン(菜食主義)も多い。

人口の5%ほどを占めるインド系はヒンドゥ教徒が多く、牛肉および由来製品の摂取禁止、ベジタリアン(菜食主義)・ヴィーガン(完全菜食主義者)が多い。

このように宗教上あるいは食文化から、マレーシアには一定数の菜食文化が根付いている。

代替ミートや野菜などでアレンジをしたベジタリアンメニューを提供するカフェメニュー

マレーシアのベジタリアン・ヴィーガン系レストランのユーザ層

ベジタリアン・ヴィーガン系レストラン専門の検索サイトHappyCow.net(※3)で調べるとクアラルンプール市内には屋台から高級店まで約280店ほど確認できる。
ベジタリアン・ヴィーガン料理は、伝統的なマレーシアで定番のメニューはもちろん、西洋料理、中華料理からなんと日本食まで選択肢がある。特に日本食レストランは価格が高めの高級店が多いことに気づく。

そして菜食市場で伸びしろとして期待されているのが、消費の中心となる高所得層や高学歴層、さらに富裕層だ。

富裕層のヘルシー志向は訪日がきっかけ?

経済的に余裕があり高学歴の中間層以上は日本旅行への意欲が高く、73%以上が訪日意欲があるという調査結果(※4)がある。過去の訪日経験からリピーターとなるケースも多く、また日本文化に触れる機会も増えたことなどから、日本食が身近なものになっている。実際旅行サイトで日本食を調べるとクアラルンプール市内だけで400件ほどの日本食レストランがヒットする。オーセンティック(純正)かどうかば別として、日本食にそれだけの需要があるということだ。

健康志向の富裕層が好む日本食

そんな彼らにとって日本食のイメージといえば「健康」「安全」だ。世界の国々から食品が輸入されるなかで、日本の豆腐や種類の多い野菜、味噌、醤油といった野菜由来の調味料など、日本の食材が注目を集めている。

これらはベジタリアン・ヴィーガンフレンドリーな食材として料理に使われ、健康意識が高い消費活動を伴う層から支持が増えている。

ここからが多民族国家らしいところなのだが、純日本食だけではなく、マレーシアで進化した「フュージョン」のレストラン(※5)が市内で登場し大盛況となっている。

マンゴーや野菜、おからを使用した寿司、こんにゃくを使ったスパイシーなラーメンやジャージャー麺などの食材を使用し、マレーシアの定番料理のアレンジメニューになっているのが人気の秘密だという。

イタリア料理のアランチーニはカリフラワーとマッシュルーム、ソースはレンズ豆のフムスで

菜食は健康だけではなく美味しいのが重要

実際にマレーシアのベジタリアン・ヴィーガンのカフェなどで食事をすると、通常の料理との差がないと感じることが多い。想像していた精進料理的なものではなく、むしろ食べ応えがあるものが多い。

ベジタリアン・ヴィーガン食品は大きく分けると日本食のカテゴリーに属すとされている。マレーシアでは生活習慣病が増加している。また経済的成長の中、健康に関心がある層が増えている。この分野での日本食材の需要は今後も伸びるのではないかと思う。

(※1)引用:Socio-Demographic Distribution of Vegetarians in Malaysia
https://zenodo.org/record/4010115#.ZC1EQezP3Hp
(※2)引用:PR Times
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000048.000016326.html
(※3)参照:Happy Cow
https://www.happycow.net/
(※4)引用:訪日ラボ
https://honichi.com/news/2019/02/04/surveymalaysia/#surveymalaysia-3
(※5)参考:Free Malaysia Today
https://www.freemalaysiatoday.com/category/leisure/food/2022/12/06/japanese-fusion-fare-gets-the-thumbs-up-at-kusa-vegan/
◇参考資料:Malaysia Business Connection
https://connection.com.my/en/malaysia_vegetarian_food/

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