タクシーから配車サービスへ|シンガポールの交通革命
シンガポール陸運局の最新の統計(2023年6月現在)によると、シンガポールには13,861 台のタクシーが走っているそうです。
2014年のピーク時には28,736 台あったので、10年弱でタクシーの台数が半減したことになります。
そこで、今回はシンガポールのタクシー業界の現状と今後の見通しについて解説します。
タクシーから配車サービスへ|シンガポールの交通革命
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2024年 3月29日
いたる所にタクシー
私が初めてシンガポールに赴任したのは、1990年でした。
今では東京をしのぐほどにMRT網が整備されていますが、当時は2ラインしかなく、島中にバス網が広がっていました。街中のいたる所にタクシーが走っていて、タクシースタンドでしばらく待っていればタクシーをつかまえることができました。
その後、人口が増えてMRT網が整備され、タクシーの数は増えても、時間帯や場所によっては30分以上つかまらないことが増えていきました。
便利な街
シンガポールに赴任していて感じたのは、その便利さです。
国が狭いこともありますが、国中にバスとタクシーで簡単に行けて、接続も決して悪くなかったからです。
私の出身の地方都市に比べたら大変な大都市で、ただただその便利さに驚くばかりでした。
特に街を流しているタクシーの多さは、最も驚いたことのひとつです。
配車会社の積極的な拡大
統計によると、2013年には運転手付きハイヤーの台数が614台だったのが、2023年には 53,448台まで急増しており、なんと10年間で80倍に急増しています。
コロナ禍前には配車の運転者数は5万5,575人に上っていました。
アジアの配車アプリの圧倒的な雄である「Grab」は、マレーシアで創業したのが2012年、シンガポールに進出したのが2013年です。
シンガポールの配車車両の大激増はこの「Grab」の急成長と大きな関係があります。
30年前と同じレベル
統計によるとGrabがシンガポールに進出した30年前のタクシーの台数は13,917台なので、タクシーの台数は30年前のレベルに戻ってしまったことになります。
現在では、タクシーの車両数よりも配車車両の方が4倍以上多いことになり、タクシーの台数とドライバー減の原因となっています。
さらに、一部の運転手は観光客の減少などの影響や、「サーキットブレーカー(部分的ロックダウン)」期間中に収入が70%も減少したことで離職したりしています。また、2018年に7番目のタクシー事業者として認可されたタクシー会社も2023年12月に事業を廃止していて、コロナ禍もタクシー業界に非常に大きな影響を与えています。
新しい規制枠組み
2020年にはタクシーと配車サービス間の競争条件を平等にするため、「地点間旅客運送業法」と呼ばれる規制が導入されました。
これにより、タクシー最大手の「Comfort」と配車アプリの「Grab」「Gojek」「Tada」の4社に配車事業者のライセンスが与えられました。
また、タクシーと同様、配車サービス車両にも定期検査が必要になり、反対にタクシー運転手は配車サービス会社とも契約できるようになりました。
ハイブリッド化
車両がハイブリッド化してきたのと同じように、タクシー会社もドライバーも、このハイブリッドモデルに移行していかなければならないでしょう。
シンガポールはコロナ禍の乗り切り方や観光産業の主要産業化など、独自の思い切ったアイデアで困難をいくつも乗り越えてきています。
今回のタクシー業界の苦難も、一時的な調整段階にあると思います。
必ず画期的な解決策を見つけ出し、果敢に挑戦していくものと信じています。