カタールの投資家も注目するスペイン唯一の百貨店、El Corte Inglesが国内百貨店業界の市場を独占している理由

El Corte Ingles(エル・コルテ・イングレス)はヨーロッパ最大の売上高を誇り、古くから存続し続けるスペイン国内で唯一の百貨店チェーンである。
2023-2024会計年度において、主要事業セグメントである小売、旅行、保険の各分野で顕著な成長を遂げ、2009年以来最高の経常純利益を記録した。また、今年2月にはカタールの投資家が株式追加取得に関心を示していると報じられ、注目を集めている。
本記事ではいくつかの歴史的・経済的要因によりEl Corte Inglesが国内百貨店業界で事実上の独占状態となっている理由をお伝えする。
カタールの投資家も注目するスペイン唯一の百貨店、El Corte Inglesが国内百貨店業界の市場を独占している理由
著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2024年7月3日
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El Corte Inglésが百貨店業界の独占的地位を確立した歴史
日本で百貨店の名前を3つ挙げてみてください、と聞かれれば、例えば「三越」「伊勢丹」「大丸」など、大抵の国民が容易に思い浮かべることができるだろう。日本国内には筆者が挙げた3つの百貨店以外にも全国的に展開する大手百貨店チェーンや、地域に根差した中小規模の百貨店が数多く存在する。そのため、スペインに移住した当初、百貨店がEl Corte Inglesしかなく、国内百貨店業界の独占状態であることに驚かされた。
El Corte Inglesは、1930年代後半~40年代にかけてのスペイン内戦後の混乱期に成長し、その後の経済成長期に全国展開した。
スペインにもかつては「Galerias Preciados」という1943年設立の大手百貨店チェーンが存在していたが、経営悪化により1995年にEl Corte Inglesが買収し、競争相手が消えた。他社が市場に参入する余地を与えないような戦略で、カルフールやドイツのメトロなどの外資系企業もスーパーやショッピングセンターに注力し、百貨店業界には本格参入しなかったという歴史もある。そんな中、事実上の独占状態となったEl Corte Inglesは長年にわたりスペイン人のライフスタイルに根付いており、信頼性・ブランド力が非常に高い。
さらに、不動産資産を多数保有し物流ネットワークも確立されているため、新規参入企業が競争するのは難しい状況となっている。

スペインの消費文化と流通の変化
新しい企業が百貨店業界に参入しにくい理由として、消費文化・流通の変化も見逃せない。 スペインでは消費者が価格に敏感で、CarrefuourやLidlなどのディスカウントストアやアウトレットの人気が高い。更に、Zara、Mango、Primarkのような独自店舗を展開するファストファッションブランドが強く、洋服や雑貨の需要を吸収しているため百貨店のニーズが少なくなっている。
日本国内と同様、大規模ショッピングモールが各地に広がり、ファッション・家電・食品などの専門店が多く入っており、百貨店に頼らず商品を販売できる環境が整ってきたことも一因となっているようだ。
また、これは世界共通かもしれないが、Amazonやオンラインストアの利用が増え、百貨店のような総合型店舗への依存度が低下しており、新規参入企業が成功するハードルは非常に高くなっている。

El Corte Inglésの多角化と適応力
El Corte Inglesは単なる百貨店事業だけにとどまらず、都市部に展開するSuprcor・郊外型のHipercor(スーパーマーケット)、高級志向の顧客向けのClub del Gourmet(グルメ専門店)、スペイン最大の旅行代理店のひとつで法人向けの出張手配にも強みを持つ Viajes El Corte Ingles(2021年には旅行大手のLogitravelと合併しオンライン旅行分野を強化)、保険・金融サービス、不動産・物流事業などにも進出している。
近年ではAmazonなどの競争相手に対抗するためECサイトの拡充を進め、「click&collect」(オンライン購入・店舗受け取り)導入や即日配送サービスなど競争力も強化してきた。
El Corte Inglesは消費者のニーズや市場環境の変化に柔軟に対応し、スペイン市場のみならず、ヨーロッパ市場で圧倒的な存在感を維持している。 2023-2024の総取引額は16.333百万€で、前年から5.4%の増加、小売部門では12.845百万€を計上し、特にファッション・美容・食品・ホスピタリティ部門で顕著な成長を示した。
ヨーロッパには、イギリスのHarrodsや、フランスのGaleries Lafayette、ドイツのKaDeWeなど有名な百貨店グループもあるが、いずれも現在スペイン国内に83店舗を構えるEl Corte Inglesほどの売り上げ高・規模を持つものは無い。

まとめ
スペインでは長年の歴史と、国民からの圧倒的な信頼を誇るEl Corte Inglesが百貨店業界の市場を独占している。百貨店事業のみでなく、多角化戦略と適応力で様々な事業領域に進出し国内で圧倒的な存在感を維持している。新規参入企業が新たに百貨店を立ち上げても競争力を持つのが難しい状況だ。
またショッピングモール・専門店・ネット通販が消費の主流となっている現代において、百貨店モデルは収益を上げにくい状況もあり、他の企業が参入しない理由となっているようだ。
【参考】
◇El Corte Inglés releases 2023-2024 fiscal results:
https://www.iads.org/web/home-public/8423-el-corte-ingles-releases-2023-2024-fiscal-results
◇Qatar quiere comprar otra participación de El Corte Inglés tras la gran subida en ventas:
https://www.elconfidencial.com/empresas/2025-02-17/qatar-quiere-comprar-otra-participacion-de-el-cortes-tras-dispararse-las-ventas_4066094/#:~:text=Tras%20la%20compra%20de%20una,5%2C53%25%20del%20capital.
◇Galerías Preciados, los grandes almacenes que llegaron a Valencia con la democracia:
https://www.lasprovincias.es/canal-valentia/galerias-preciados-grandes-almacenes-trajo-democracia-valencia-20230327194908-nt.html?ref=https%3A%2F%2Fwww.lasprovincias.es%2Fcanal-valentia%2Fgalerias-preciados-grandes-almacenes-trajo-democracia-valencia-20230327194908-nt.html
◇El Corte Inglés Corporate Information:
https://www.elcorteingles.es/informacioncorporativa/en/
◇Achievements in the history of El Corte Inglés. – El Corte Inglés:
https://www.elcorteingles.es/informacioncorporativa/en/about-us/history-of-the-group/