地中海の宝石バレンシアオレンジ 知られざる魅力と課題に迫る|スペイン
スペインはヨーロッパ最大のオレンジ生産国で、コスタ・デル・アサール(オレンジブロッサムコースト)で知られるバレンシア周辺の沿岸地域はスペインで最高のオレンジを生産している。100年以上もの間、バレンシア産オレンジは暗い北欧の冬にエキゾチックな太陽の光をもたらし、街の歴史と経済において重要な役割を果たしてきた。
スペイン・バレンシア産のオレンジは、甘くてジューシーな味わいとその品質で高く評価されている。
スイートオレンジとマンダリンのほとんどはスペインのバレンシア地方で栽培されていて、通りや庭園にはオレンジの木が立ち並び、オレンジは地域のシンボルとなっている。
オレンジの街|スペイン・バレンシア
著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2024年5月8日
バレンシアオレンジとバレンシア産オレンジは違う
インドのアッサム地方で誕生したオレンジは、15〜16世紀初めに中国からポルトガルに渡り、スペインを含む地中海沿岸諸国に広まったといわれている。その後19世紀にアメリカに渡り、日本へは明治時代に伝わった。
なお、「バレンシアオレンジ」は日本でも知名度が高いオレンジの品種で、その名前からスペインのバレンシアが原産だと思われがちだが、実際の原産地はアメリカのカリフォルニア州である。名前の由来は諸説あるが、バレンシア地方で収穫される柑橘類に似ているからといった説が有力で、品種開発に携わったスペイン出身の人物によって、その名前が付けられたと考えられている。
「バレンシアオレンジ」は、主にアメリカやオーストラリアで栽培・収穫されている。アメリカ産は3月から7月にかけて、オーストラリア産は11月から2月の気温の高い時期に旬を迎える。日本では和歌山県で生産されていて、6月から8月が日本産のバレンシアオレンジを味わうことのできる旬の時期となっている。
(参考元:果物ナビ :オレンジ https://www.kudamononavi.com/zukan/orange.htm)
(参考元:ちそう :バレンシアオレンジの特徴は?名前の由来や食べ方は?栄養や旬・産地なども紹介!
https://chisou-media.jp/posts/3375)
スペイン・バレンシアにおけるオレンジの歴史
10世紀にムーア人のスルタンは主に宮殿やモスクの装飾品としてオレンジの木をスペイン・バレンシアに初めて持ち込み、庭園をオレンジの香りで満たしたといわれている。
バレンシア人がオレンジをビジネスの選択肢として考えはじめたのは18世紀頃で、19世紀初頭までにはバレンシア産スイートオレンジとマンダリンはスペイン全土の市場で販売され、南フランスからはじまり、貿易は世紀を通じて西ヨーロッパ・北ヨーロッパ、その他の地域にまで広がっていった。当時、栄養失調や病気と戦うためのビタミンCの重要性の発見もあり、オレンジの需要をさらに増加させた。
オレンジ貿易は当時のバレンシアの経済に大きな影響を与え、現在でも市庁舎や鉄道駅などの建物には当時の経済を動かしていたもののシンボルとしてオレンジの木のモチーフがファザードを飾っている。
(参考元:Geographic FAQ Hub: Answers to Your Global Questions :What Spanish city is known for oranges?
https://www.ncesc.com/geographic-faq/what-spanish-city-is-known-for-oranges/)
(参考元:VALENCIA IS THE LAND OF ORANGES • 24/7 Valencia (247valencia.com)
https://247valencia.com/valencia-the-orange-city/)
オレンジの市場規模|スペイン
スペインは雨の多い春と穏やかな夏という恵まれた気象条件により、2021年の欧州連合(EU)におけるオレンジ総生産量の54%を占める。同年のスペインにおけるオレンジの生産量は360万t、次いで、イタリアが170万t、ギリシャが80万tと欧州の主要生産国(イギリス、フランス、スペイン、ギリシャ、イタリア)の中で最大の主要なオレンジ生産・輸出国となっている。
米国農務省(USDA)によると、スペインの主要オレンジ生産地はバレンシアとアンダルシアで、現在バレンシアのオレンジ畑は120,000ヘクタール以上の面積を有している。
販売年を通して果実の利用可能性と供給を拡大するために、生産者はオレンジの早生品種と晩生品種の両方の栽培に注力している。
スペインをはじめとするヨーロッパのオレンジ市場の規模は、2024年に65億4,000万米ドルと推定され、2029年までに78億8,000万米ドルに達すると予測されており、予測期間(2024年から2029年)中に3.80%のCAGRで成長する見込みだ。
(参考元:欧州オレンジ市場規模・シェア分析 -産業調査レポート -成長トレンド
https://www.mordorintelligence.com/ja/industry-reports/europe-orange-market)
差別化をはかりたい生産者
オレンジの市場規模は今後も成長見込みであるという一面とは裏腹に、特にネーブルオレンジのバレンシアの輸出については、主にウルグアイ・アルゼンチン・南アフリカなどの南半球諸国の生産とEU連合への輸出の増加などが要因で減少傾向にある。
また、競争の激化による価格暴落でオレンジの収穫が不可能となってしまったり、自分の土地を放棄して開発業者に売り渡すことになってしまった農家も出始めるなど、今後数年間でオレンジ生産量が減少する可能性を秘めているのが現実だ。
そこで生産者はオレンジの品種の差別化が迫られている。
以前、「トマト大国スペインに日本発高糖度トマト『アメーラ』参入」の記事で、アメーラトマトは一般的なトマトの約10倍の価格で売られていて、スペインで最も高級なトマトの地位を築いていることをお伝えしたが、筆者が高級オレンジとしてまず思い浮かべたのが、日本(長崎)発祥の「デコポン」である。
実はアメリカではデコポンは2011年から「SUMO」(スモウ・シトラス)の名でカリフォルニア州で生産されており、日本同様、他の柑橘類より高価格帯にもかかわらずその特有の甘味・風味・美味しさと食べやすさから、一般的なスーパーでもよく見かける大人気の柑橘類となっている。その名前はデコポンの相撲力士の髷のように見える形状から、アメリカの生産者によって命名された。この遊び心のあるネーミングもデコポン人気に一役買ったといってもよいだろう。
筆者も米国在住時は「SUMO」のシーズンを心待ちにしていたひとりである。
デコポンは高級品種であり、アメリカでは大体1個あたりの価格が$3.00~$4.00と、通常のマンダリンオレンジやネーブルオレンジの約70¢/ 1個と比較しても約5倍の価格帯となっている。
育てるのが非常に難しく、日本でも厳しい基準をクリアしたものだけが「デコポン」と名付けられるなど、スペインでのデコポン生産への壁は高いかもしれないが、新しい品種導入のひとつとして検討する価値はあるのではないだろうか。
(参考元:Sumo Citrus, Box | FreshDirect
https://www.freshdirect.com/fresh_produce/fru/ctr/sc/orng/p/fru_dmyea_30386)
まとめ
バレンシアの街路樹を彩るオレンジの木、オレンジジュースとCAVAをベースにしたこの街で最も有名なカクテル「アグア・デ・バレンシア」。スーパーの果物売り場には必ずオレンジの生絞りジュースのマシーンが設置されていたり、バレンシアでの生活は人々がオレンジと共に歩んできた長い歴史を感じさせてくれる。
また、バレンシア人にとってオレンジの花は伝統的に幸運を連想させるもので、結婚式のブライダルブーケにはオレンジの花が使われ、結婚後は愛情を込めて夫や妻を“the other half of my orange”「わたしのオレンジの残りの半分」と呼ぶことからも、バレンシア人のアイデンティティの象徴としてオレンジは欠くことのできないものだ。
スペインは依然としてヨーロッパ最大のオレンジ生産国として名を馳せているが、その経済的重要性を維持していくために今後更なる向上の余地があるといえる。