海外注目企業の魅力を徹底調査2022:菜鳥網路(Cainiao)
激戦の中国物流業界。アリババやJDグループらEコマースの大手が制するのか、それとも既存の順豊エクスプレス(SF)が制するのか。AIやビックデータによって物流企業はテクノロジー企業へと転換し、それに伴いサプライチェーンも大きく変化している。今回はその中でも新しいアリババによる物流プラットフォーム「菜鳥網路(Cainiao)」について解説していく。
海外注目企業の魅力を徹底調査2022:中国13億人の物流を支える次世代ネットワーク 菜鳥網路(Cainiao)
著者:gramフェロー
公開日:2022年7月25日
アリババ傘下の物流プラットフォーム”菜鳥網路”
中国の注目企業第7社目となるのは「菜鳥網路(Cainiao)」です。
コロナ禍における行動制限もあったため、生活のオンライン化は益々進みました。
13億もの人口をかかえる中国は、今や世界最大規模の宅配大国となっています。
2021年の宅配便取り扱い量は1000億件以上となり、取扱量では8年連続世界一となっています。
さらに中国で毎年行われる大規模なダブルイレブンセール時の爆発的な注文量をどう捌いていくのかが問題とされる中、中国の物流業界では激しい戦いが繰り広げられています。
その中でも、アリババグループが物流効率化の為に創設した物流のテクノロジープラットフォームを提供する企業、
「菜鳥網路(Cainiao)」が近年注目されています。
中国の物流業界
Eコマースの盛り上がりに伴い、物流業界も重要視され、中国の名だたる企業は各社の物流システムの改善発展に力を注いでいます。
中でも、現在御三家となっているのが、
中国物流最大手企業「順豊エクスプレス(SF Express)」、JDグループの率いる「京東物流」、アリババ傘下の「菜鳥網路」となっています。
1993年から始まった「順豊エクスプレス」は、宅配業務を中心とする民間物流企業の最大手です。
「京東物流」は倉庫から配達まで全てJDグループが完全に管理する物流企業であり、2007年に作られました。
そして、今回はその中でも2013年アリババによって作られた新時代の物流プラットフォーム「菜鳥網路」について紹介していきます。
上記の三社はそれぞれどのような特徴があり、共通点は何なのか、そして今後どの企業が生き残っていくのでしょうか。
中国の新しい物流企業
今回の記事ではアリババの「菜鳥網路」を選びましたが、そのひとつの理由として「新しさ」があります。
菜鳥網路の最大の特徴として、「プラットフォームである」という点が挙げられます。
菜鳥網路はJDグループのように自社で物流チェーンを作り出すのではなく、システムだけを作り、他の宅配企業と連携することでサービスを可能にしています。
グループのアリババクラウドとビッグデータを元に、「菜鳥網路」は物流企業に最適なソリューションを提供することができます。
「菜鳥網路」は物流の全工程をデジタル化し、企業はそれに基づき最も効率の良い選択をすることができるのです。
必要なのはノウハウだけであるため、「菜鳥網路」の従業員は京東物流の25万人に対し、わずか5千人ほどしかいません。
以下では、「菜鳥網路」のサービスの導入例について紹介していきます。
菜鳥網路の電子配送ラベル
2014年から始まった「菜鳥網路」の電子配送ラベル事業は、機械による区分けを可能にし、さらにビックデータに基づいて最も効率的な配達の道筋や倉庫の特定ができるようになりました。
電子ラベルの付与で全てのパッケージのデータを把握し、パッケージの流通動向、配達時間などを分析によって配達の効率を上げることが可能になります。
2014年5月に始まったこのサービスですが、2015年時点では10%近くしかなかったものの、2019年時点では90%以上のパッケージで使われるようになりました。
2018年、中国で送られた500億個の郵便物のうち300億個に電子ラベルが使用され、2019年には800億個以上の郵便物に使われるようになりました。これは約3200億枚の紙を節約し、業界全体で160億元のコストを削減しました。
菜鳥loTデジタルシステム
菜鳥網路のloT戦略のひとつに、LEMO PDAというものがあります。
この小さな機械で、従業員は倉庫の入庫作業から、分別、点検、出庫作業の一連の把握が可能になります。
LEMO PDAは各種物流企業によって様々なシチュエーションで活用されています。
菜鳥ステーション
菜鳥網路は他の宅配企業と提携し、「菜鳥ステーション」のサービスを展開しています。
菜鳥ステーションは宅配物の保管場所となり、注文したユーザーはここから自分の荷物を受け取ることができます。
企業とユーザーには以下のメリットが生まれました。
・ステーションに荷物が届けられるとユーザーに通知が届き、ユーザーは好きな時間でプライバシーを守りながら荷物を受け取ることが可能
・「ラストの100m」に悩んでいた宅配会社の問題を解決。人件費を大幅に削減し、配送料もそれに伴い値下げが可能
再配達が生じないこの斬新なサービスは、忙しい現代のユーザーだけでなく配達する側の人、どちらにも喜ばれています。
菜鳥ステーションの仕組み
運営しているのは菜鳥網路の社員ではなく、契約した個人です。
歩合制で取引した郵便物数に応じて報酬が生じます。
ステーションの場を設けられる空間を確保できれば、誰でもサービスを展開することができます。
それゆえ、元より場所が確保され訪問数も多い個人商店や、学校などによくステーションのブースが設置されることが多いようです。
中国の「社区」の概念
中国では、それぞれの地域に根付いた個人商店というものがあります。
個人商店は、生活用品から生鮮食品まで幅広く取り扱われています。
日本のコンビニと同じような規模で、地元の住民と深い関わりを持っている
ところが特徴です。
中国で今「社区」というコミュニティを狙ったビジネスが沢山あります。
上記の段落で触れた菜鳥ステーションや、中国で少し前から大流行している
「社区団購」も全てこのコミュニティを上手に活用したサービスです。
社区とは物理的なコミュニティを指すとは限らず、
このような個人商店を介した地域民同士の繋がりを指す場合が多くあります。
具体的には、個人商店のオーナーと地元に住んでいる住民達でWechatを交換し、グループを作って交流したり、
何か新しい情報が入った時に共有したりして徐々に形成されていったものがあります。
以前記事でも紹介したように、中国には口コミ文化が存在しており、このようなコミニティは時に凄まじい影響力を持つことがあります。
宅配便app「菜鸟裹裹」
菜鳥網路の宅配便アプリ、「菜鸟裹裹」は中国の定番アプリになりつつあります。
菜鳥ステーションで郵便物を受け取る時も、この「菜鸟裹裹」が必要になります。
アプリでは郵便物の追跡、受け取り、発送や返品まで全て行うことができます。
発送をする際、ユーザーは発送会社を選ぶことはありません。様々な郵便会社が存在する菜鳥網路のプラットフォームが、マッチする会社を自動的に選ぶことになります。
中国では宅配サービスだけでなく、飲食やガソリン、医療、他の分野においても一連のサービスをアプリで完結させることはもはや定番となっています。
中国でビジネスを展開する場合、これは見逃せない点ですね。
結局、中国の物流企業はどれが強い?
結局、中国の物流企業は誰が強いのか
一見人件コストが少なく、万能な菜鳥網路でも欠点はあります。
郵送業を所有せずに、宅配会社との提携という形態を取っている為に全体のスムーズさとコントール力に欠けている点です。
かつて、2017年に菜鳥網路と提携している大手宅配会社のうちの三つがライバル会社の順豊エクスプレスと共同で事業を進めいたことがありました。提携なだけであって不安定要素は大きいです。
この点、京東グループはJDグループで倉庫や配送員を所有しており、コントロール力に優れユーザー満足度は大変
高いです。実際、京東物流はChnbrandによる2022年最新の宅配会社顧客推薦度ランキングでは老舗の順豊エクスプレスを抜き1位を獲得しています。
一方で、京東物流は全て自社管理の為人件費や包装費などにコストがかかっている点が問題です。
順豊エクスプレスはいかがでしょう。
1993年から早くに始まった順豊エクスプレスは、シェア、口コミ、認知度において現在でも圧倒的な優勢があります。また、早い時期からテクノロジー投資を始めている影響で、設備やシステムなどの点においても優れています。
しかし、宅配は注文ありきのサービス、川下は川上に左右されます。
現在、宅配業に大きな割合を占めているEコマースを所有するJDグループとアリババグループはやはり発言権と影響力が強いです。
菜鳥網路は多くの宅配業社を吸収し、京東物流も安定した自社をベースに現在では外部からの受注を受けることも多くなりました。
順豊エクスプレスのような宅配一本の川下企業は今後の戦い方が注目されています。
おまけ 拼多多とJ&Tエクスプレス
他にも2020年に中国に進出し、急速に力を伸ばしているインドネシアの宅配会社J&TExpress(中国名:J&T极兔速递)があります。
一年足らずで、2000万件/日の受注量を達成し、
業界格安の配送価格で他の物流企業の脅威になっています。
背後には、中国の有力EC拼多多(第4社目記事参照)が陰で支えていると
言われており、実際拼多多での注文の多くはJ&T Expressで配送されています。
この様な破格な価格戦略はかなりのコストを伴いますが、市場の占有率を最優先にし、独占状態になった時期に価格を引き上げるという中国でよくある手法です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回はEコマースの繁栄に伴って注目されている中国の物流業界、とりわけアリババグループの菜鳥網路について紹介してきました。
それぞれ個性のある物流会社達ですが、大きな特徴としてやはりAIやビックデータのようなテクノロジーに対しての投資が強く、どの企業も「テクノロジー会社である」ことを強調している点です。
また、今後中国の物流の趨勢として「一体化サプライチェーン」が重要視されています。
一体化サプライチェーン「中国語 : 一体化供应链」とは、
アリババの菜鳥網路のように、川上から全てを管理するような企業に飲み込まれない為に、
川下の配達業務だけに限らず、生産から入庫、配達全てのプロセス全体を網羅し管理していくビジネスモデルのことを指しています。
菜鳥網路も、京東物流も順豊エクスプレスは前より世界市場を視野に入れており海外進出しています。
様々な規制があり中々手を出しにくい中国市場ですが、大手物流の海外進出により、
今後日本越境ECが中国でビジネスをするハードルが下がるかもしれません。
引用元・参考リンク
https://www.afpbb.com/articles/-/3379811
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1699634361992580681&wfr=spider&for=pc
https://www.chyxx.com/industry/202005/858919.html
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1708945348187833634&wfr=spider&for=pc
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1715479327410410809&wfr=spider&for=pc
https://iot.cainiao.com/portal/lemo
http://www.ahnuoxin.cn/news/94.html
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1728541375016540622&wfr=spider&for=pc
https://haokan.baidu.com/v?pd=wisenatural&vid=9552513267016036315