アメリカ:消費者がオンラインへ動く米国の消費財市場

アメリカ

個人消費は米国のGDPで最大のシェア68%を占めています(出典:Shares of gross domestic product: Personal consumption expenditures、2020年第一四半期)。

ちなみに日本は55%(2020年第一四半期)、中国は39%(2019年)となっており、これらと比較すると米国の個人消費の大きさがよくわかります。米国は消費者がたくさん消費をすることで経済の活気を維持している国と言うことができるでしょう。

消費者がオンラインへ動く米国の消費財市場

著者:gramマネージャー 今泉 大輔 
公開日:2020年07月22日

コロナ下の市場変化を数字で把握

新型コロナウィルスの影響により、米国の消費動向も大きな変化を受けています。この変化にいち早く対応して情報提供を始めたのがニールセン(Nielsen)です。
ニールセンは日本ではTV視聴率やネットの視聴動向調査で知られていますが、現在では広くオンライン、オフライン双方の消費者動向を計測して世界の大手企業に提供するサービスに注力しています。米国は消費市場が大きい一方、国土が広く消費の動きが各地域に分散しているのと、人種や収入セグメント別の消費動向が多様化しているため、「数字で市場を把握する」ことが早くから行われています。
日本では数字がなくともキーとなる消費スポットをウォッチングすることで市場の動きをある程度把握できますが、米国は国が大きいため数字がなければ市場が見えません。そのためニールセンのような市場の動きを数字にしてクライアント企業に提供する事業が高度に発達しています。新型コロナウィルスによる消費の変化にいち早く対応したのも、そうした背景があるからです。数字がなければ新型コロナウィルス下の市場がまったく見えなくなってしまいます。

変化する市場を予測できるフレームワーク

ニールセンでは今年3月中旬にいち早く、コロナ下の市場の動きを把握するためのフレームワークを作りました。新型コロナウィルスの感染拡大時期に合わせて変化する消費者の行動パターンを6つに分類しています。
この6分類は、感染拡大前期から感染拡大期を経て都市封鎖解除期までを時系列で区分するもので、消費者がどのように動くのかを予測できる優れたフレームワークとなっていました。
[感染拡大前期]
#1 先行的な健康意識の買い物(Proactive Health Minded Buying)
#2 感染に備えた健康管理(Reactive Health Management)
[感染拡大期]
#3 食品の備蓄行動(Pantry Preparation)
#4 都市封鎖生活への準備(Quarantined Living Preparation)
[都市封鎖期]
#5 都市封鎖生活(Restricted Living)
[都市封鎖解除期]
#6 ニューノーマル生活(Living a New Normal)
(出典: Nielsen, ” COVID-19: Tracking the Impact of FMCG, Retail and Media”, March 2020

日本でも緊急事態宣言が出される前の時期にトイレットペーパーなどのパニック買いが見られましたが、それは上の「#2感染に備えた健康管理」に該当します。
こうしたパニック買いの行動は米国でも日本でもその他の国でも見られ、感染拡大に合わせてどの国でも同じように変化する特性がありました。状況に応じて食料を備蓄する消費者行動は、どの国でも共通です。ニールセンのフレームワークは多数の国に適用できると言う意味で、大変に優れたものであったと言うことができます。

関心はコロナが「どう変えたか?」へ推移

現在では同社の関心は、感染拡大によって時々刻々と変化していく市場ではなく、このコロナによって市場がどのように恒久的な変化を被ってしまうのか?というところにあるようです。これはすなわち情報を必要としている多くのクライアント企業の関心を反映していると考えられます。
つまり、「コロナは市場をどう変えたか?」「企業は変化した市場にどう向き合えばいいのか?」ということに、関心が変化しているのです。おそらく、コロナが一過性のものではなく、当面は付き合っていかなければならない課題であるという意識ができあがってきたのでしょう。特に米国の場合は感染拡大の第二波が来ていますから、企業側の対応も真剣です。

米国人は日用消費財をオンラインで買い始めた

6月下旬に公開された3pの報告「消費者のニーズはこれからどう変化するのか?」(ANTICIPATING CONSUMER NEEDS TODAY AND TOMORROW
では、アフターコロナの世界を考えるのに手がかりとなる傾向や数字がいくつか報じられています。なおこの報告は米国におけるFMCG(日用消費財、Fast Moving Consumer Goods)、CPG(消費者向けパッケージ商品、Consumer Packaged Goods)の分野に関したものです。
第一に、消費者の消費行動がオフラインからオンラインへと大きくシフトしています。2020年4月には小売業と食品サービス業の売上が前年比で16.4%減少したにも関わらず、オンラインでCPGを買う行動はコロナ開始期から58%も増えています。米国は日本のおおよそ3倍大きな市場ですから、そこにおいて短期間に58%増の行動変化があったことは、文字通り激変だと言ってよいでしょう。
米国では一般的な世帯は週に一度車でスーパーに行って、一週間分の食料や消費財を買い込みます。コロナによって入店制限が課され、これができなくなりました。消去法的にアマゾンやウォルマートのオンライン店舗が選ばれ、多くの消費者がそのように動いた結果が上の数字となって現れたのだと思われます。

物流が大きく変化する

また、今回初めてコンビニエンスストアやコストコのような会員制倉庫サービス(warehouse clubs)を使ったという人たちが出たことも報告されています。つまり日常的な買い物はスーパーでするわけですが、それが変化しました(米国のコンビニは日本の高度に発達したコンビニとは異なり、商品点数の少ない、どちらかと言えば流通小売の発展から取り残されたチャネルです)。
コロナが終わった後でも、「オンラインの店舗でCPGを買い続ける」と回答した消費者は26%に上るそうです。CPGはオフライン店舗でもオンライン店舗でも商品に違いがないため、スーパーで買い込んで持ち帰るよりは、ネットでポチッと買って届けてもらった方が楽ということを、多くの消費者が学習したということでしょう。
これをFMCGやCPGのメーカーの側から見れば、極めて大きなチャレンジです。この傾向が定着するとすれば、メーカーは商品の配送体制を大きく変えなければならなくなります。商品の配送量が1社だけでも何万トン何十万トンという世界ですから、物流拠点や物流車両の再編に加えて、人員配置やITシステムの変更も必要になりますから、これは業界全体の巨大な変化ということになるでしょう。米国のような大きな市場で多くの人に行動変化が起こることで、このような業界の変化も引き起こします。

経済のデジタル化が加速するのか

米国の現在のコロナウィルスの状況を見ると、これまでスーパーで買ってきた商品をオンラインで買うという傾向は、ある程度定着しそうです。それにより、FMCGやCPGのメーカーのマーケティングが変わり、物流が変わります。
これはオンラインチャネルの側から見れば、GAFAのようなプラットフォーマーの存在感がより大きなものになることを意味します。コロナは経済のデジタル化をより加速化させることになりそうです。

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