業績好調のウォルマートに見るインフレと消費者心理の変化

アメリカ

アメリカ小売業売上ランキングによると、昨年2023年の1位は約5,340億ドル(約79兆円)の売上を記録したWalmart(ウォルマート)で、2位のAmazonとは2倍以上の差がついています。Eコマースの躍進や近年のインフレーションの中でも堅調な成長を続けるウォルマートの戦略に迫ります。

業績好調のウォルマートに見るインフレと消費者心理の変化

    著者:アメリカgram fellow 末永 恵
公開日:2024年10月14日

ウォルマートとアマゾンは2倍以上の差

オンラインも実店舗もすべて含めて、世界最大の小売店はどこでしょう?答えはWalmart(ウォルマート)です。

アメリカのNational Retail Federationによると、ウォルマートの昨年2023年のアメリカ国内における売上額は約5,340億ドル(約79兆円)で、これは前年2022年から6.9%の成長でした。2位はAmazonで約2,501億ドル(約37兆円)、3位は日本でもおなじみのコストコ(Costco)で約1,754億ドル(約26兆円)、両社とも前年比7%前後の伸びとなっています。

2023年のウォルマートの全世界合計での売上高は6,110億ドルで、こちらもAmazonを抑えて世界1位の売上額となりました。Amazonの登場以来、その躍進ばかりが注目されがちですが、こうしてみるとアメリカ国内でもウォルマートとAmazonでは小売業に関しては2倍以上の差があることが分かります。

日用品の販売に強い実店舗

Eコマースの世界に限れば、Amazonのシェアは圧倒的です。今年2024年にAmazonのアメリカにおける全Eコマース販売シェアは40%に達すると予想されています。2位はWalmartで、近年着実に数字を伸ばしてはいるものの、前述の同社の国内売上5,340億ドルのうちECサイトによる売上は8.2%にとどまっており、Amazonとはまだまだ大きな開きがあります。

このバランスが数年後にどうなっているかは分かりませんが、一晩のうちに変わるということはなさそうです。というのは、リアルな店舗とオンライン店舗で売れるものでは傾向が異なるからです。

signs.comの調査によると、消費者が実店舗で買うことが多いのは「食料品」「トイレットペーパーなどの紙製品」「掃除用品」「ペット用品」など主に日用品。対してオンラインでの購入が多いのは「ギフト」「本やCDなどのメディア」「家電製品」となっており、これはスペースに限りのある実店舗ではバリエーションをそろえることが難しいタイプの商品といえると思います。

ギフトや家電製品を普通の一般生活者が毎日購入することは考えにくく、日用品のほうが購入頻度・使用額ともに多くなるのが自然で、これがウォルマートとAmazonで2倍以上の差が付いているひとつの理由と推測できます。食料品分野についてはAmazonも長年強化を試みていたり、パンデミック下で一時期デリバリーサービスの利用が急増したこともありましたが、コロナ終息以降その勢いは鈍化しています。やはり食料品は自分の目で見て選びたい、という人が多いのかもしれませんね。

インフレを背景にしたウォルマートのバリュー重視戦略

Walmart(ウォルマート)は創業者のSam Walton(サム・ウォルトン)氏により1962年にアメリカ・アーカンソー州で創業。店名”Walmart”は彼の名前に由来しています。1号店は小さな食料品店でしたが、現在は全米に約4,600店舗を展開する米国最大のスーパーマーケットチェーンで、創業店にほど近いアーカンソー州ベントンビル市に本社を置いています。日本最大のスーパーチェーンがイオングループの914店舗ですから、その規模の巨大さが分かりますね。

アメリカでの近年のインフレーションと金利の高止まりを受け、消費者の生活は強い圧迫を受けています。そんな中でもウォルマートが堅調な成長を続けている背景には何があるのでしょう。

それは「買い物客はみんなバリューを求めている。そして我々にはそれがある。」とウォルマートCEOのDoug McMillonは語っています。住宅・保険・日用品、生活にまつわるほぼすべてのものが値上がりし、消費者の買い物に向ける目は非常にシビアになっています。6ドルのアイスコーヒーや15ドルのビッグマックセットを気軽に買う感覚ではなくなってきているということです。

このような消費者行動の変化を察知しウォルマートでは今年、商品7,200点を対象に”Rollbacks”と呼ばれる値下げを断行しました。一方で、人々の感覚の変化・消費者心理を読み切れなかったマクドナルドやスターバックスは前年同時期と比較し減収減益となりました。マクドナルドは最近になって高バリューな5ドルセットを打ち出すなど、対応が後手に回っています。

ミドルクラスに迫る二極化の流れ

アメリカではコロナ以降、富裕層はより裕福に、低所得層はより生活が苦しくなる二極化が進んでいます。平均所得が上がり続けているように見えますが、もともと高所得な人の給料がさらに上がるかまたは最低賃金が少しアップするのみで、半数以上を占めるミドルクラス(中間層)以下はこの物価の上昇に対応するため多くのものに対し支出を切り詰めている状態です。

上記のMorning Consultの調査によると、前年2023年と比較するとほとんどのカテゴリーについて消費が減っていることが分かります。景気の先行きが不透明な状況が続くうちは、支出を控え節約する傾向が当分続くと見られています。ものを作るメーカー側もそれらを売る小売店も、消費者動向を常に観察し流れを読み違えないことが大切です。

【参考】
◇EMARKETER:Walmart leads the top 10 US retailers by sales:
https://www.emarketer.com/content/walmart-leads-top-10-us-retailers-by-sales

◇The Produce News:Walmart: The world’s largest retailer:
https://theproducenews.com/headlines/walmart-worlds-largest-retailer

◇EMARKETER:A guide to Amazon: A powerhouse of retail, advertising, and technology:
https://www.emarketer.com/insights/amazon-revenue/

◇signs.com:Online vs. In-Store:
https://www.signs.com/online-vs-in-store/

◇CNN Business:Americans are still shopping. They’re just going to Walmart:
https://edition.cnn.com/2024/08/15/investing/walmart-stock-earnings-retail/index.html

◇KENSEISHA:スーパーマーケット店舗数ランキング:
https://kenseisha.com/20240112_superrank/

◇Morning Consult:U.S. Consumer Spending Tracker:
https://pro.morningconsult.com/trackers/consumer-spending-tracker

著者: COOQIE INC.  CEO 末永 恵

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末永 恵

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アメリカ在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。 末永 恵 COOQIE INC. CEO 末永 恵

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