海外で広く食べられている「ワギュー・ビーフ」(DL資料)

オーストラリア

オーストラリアでは1980年代後半から業界ぐるみでワギュー(和牛)生産に取り組んでおり、多くは輸出されている。
米国でも英国でもワギューが特別においしい牛肉として飲食店で出されている。日本産の和牛を輸出する余地はこれから拡大するだろう。

海外で広く食べられている「ワギュー・ビーフ」

著者:gramマネージャー 今泉 大輔 
公開日:2020年07月1日

海外で初めて「ワギュー・ビーフ」という言葉が外国人の口から出てくるのを聞いたのは、2011年のインドネシア・ジャカルタでだった。
インフラ市場の調査のためにジャカルタ市街地に滞在していて、晩御飯を食べるために露店街に出かけた。露天のテーブルで食べていると、近くに中国系の顔立ちをしたオフィス勤めの女性がいて、雑談が始まった。私はインドネシア語ができないので会話は英語。日本の話になった時、彼女が何度か”Wagyu”という言葉を口にした。最初はそれが「和牛」のことだとはわからなかった。
当時の私は、海外で和牛が食べられていることを想像さえしなかった。だから外国人の口から「ワギュー」という音が出てきても、それが「和牛」のことだとは 認識できなかった。何度か聞き返しているうちに、「日本から来たワギュー、ビーフのこと」と言うのでようやく理解した。インドネシアではその頃すでに「ワギュー・ビーフ」が食べられていたのである。

ジャカルタのレストランがワギューを使ったテイクアウトメニューを告知しているインスタグラム投稿

インドネシアで2010年頃から食べられていた「ワギュー」

筆者は現在、「ワギュー・ビーフ」がオーストラリアでも米国でも生産されており、インドネシアでもワギュー種の畜産が始まっていることは理解している。しかし当時は何も知らなかったので、和牛がインドネシアで食べられていると聞いて、大変に驚いた。彼女いわく、ジャカルタでは色々な店でワギューを採り入れたメニューが提供されているとのこと。ジャカルタには日本食系飲食店があふれているのと、韓国系の飲食店もあるので、そうしたところでワギューが出されていたのだろう。インドネシアの物価水準を考えると、単価が高い日本からの輸入和牛は普通の飲食店では使えないから、インドネシア産の安価なワギューか、オーストラリアから入ってきたワギューが当時のジャカルタの飲食業界に供給されていたのだと思われる。
最近は日本の著名焼肉チェーンもインドネシアのショッピングモールに多く出店しており、日本産の和牛の供給ルートも確立していると思われる。しかし価格がまったく異なるため、インドネシアの一般の人たちが食べるワギューはオーストラリア産かインドネシア産であるのは間違いない。

畜産業界ぐるみで「ワギュー」生産に当たるオーストラリア

オーストラリアでは1970年代から和牛種の畜産が行われるようになった。オーストラリア産和牛協会(Australian Wagyu Association)という畜産業者の団体があり、1980年代後半から業界ぐるみで品種改良に当たっている。またウェブサイトの説明を読むと、オーストラリア産和牛の精肉を世界市場に輸出するとともに、和牛種そのものを(種牛ということになるだろう)世界に広める活動も行なっている。本稿は日本の和牛種保護の政策について議論するものではなく(それが後手であることは確かだが)、世界でワギューが食べられている、それはつまり世界各地でワギューが生産されているということなのだが、その事実を知らしめることを目的として書いている。従って、オーストラリアで和牛種の改良と世界各地への和牛種拡散が行われていることの是非については述べない。
資料によるとオーストラリアでは2018年時点で約4万トンの和牛(子牛肉含む)が生産されている(Beef Central)。日本の和牛生産量は同年15万トンなので(農畜産業振興機構)、おおよそ日本の1/4の規模がオーストラリアで生産されていると考えればよい。
しかし同国の生産量は2022年までに7万トンを超えることが見込まれており、日本の和牛生産が後継者問題などで尻すぼみなのに対して、オーストラリアでは関係各位の取り組み姿勢に熱があることが窺われる。世界市場で売れるからだろう。
オーストラリアでは和牛を含む牛肉生産量全体の7割が輸出されている。和牛もかなりの割合が輸出に回っていると考えてよい。オーストラリアはご存知のように土地が広く畜産コストは安いから、価格競争力のあるワギューが各国に輸出されていると考えて間違いなさそうである。

ロンドンのパブでは「ワギューバーガー」が高級品

ワギューはイギリスでも食べられている。2018年に3ヶ月ほどロンドンに滞在した際に、英国の伝統的なパブで2回、”Wagyu”のハンバーガーがメニューに載っているのを見つけた。いずれも「ワギューがきわめておいしい牛肉である」という意味の解説文が添えられていた。そうして価格は普通のビーフハンバーガー(英国パブのハンバーガーはかなり大きい)の倍近いものだった。ワギューは英国でも特別においしいものとして捉えられてることは確か。ただし経験した人がまださほど多くなさそうだ、ということも言えるだろう。なぜならば、どちらのパブのワギューバーガーのメニューにも、価格が高いことの説明として、ワギューの味がいかに優れているかが書かれていたからだ。つまり、ワギューの優れたおいしさと高価格であることについては、まだまだ説明が必要な段階ということだ。

米国のアイリッシュパブで提供されているワギューバーガーの例

ワギューのうまさは伝統的な米ステーキとは別物

仕事の必要があって、インスタグラムに上がっている世界各国のシェフの投稿をよく見る。ワギューを使った、日本人の目から見ても特別においしそうに思えるメニューがよく上がっている。それがワギューであることを、ブランドとしてうたっている。ワギューはやはり海外の人たちにとってもおいしい牛肉なのである。
1990年代、アメリカに視察の仕事で何度か行っていた頃に、ジョージア州アトランタ郊外の由緒正しいステーキハウスで(風とともに去りぬの頃からの歴史)、自慢の一品である分厚い赤身肉のステーキを食べたことがある。厚切り食パン3枚ほどの厚さがある、円筒形の頭がこんもり盛り上がっている、すばらしい見栄えのステーキが出てきた。中はミディアムレア。

アトランタのステーキハウスのステーキ例(筆者が食べたのはこの2倍近い大きさがある、もっと分厚いものだった)。

最初のひと口ふた口は「うむ、これがアメリカの由緒正しいステーキか」と思って感激して口に運んだものの、何度も何度も切っては口に入れしているうちに、味覚に飽きてきて、全部食べ終えるのに難儀した。日本人の感覚からすればほとんど味付けがなされておらず、赤身肉のおいしさを塩胡椒だけで食べるという位置付けのメニューだった。
アメリカで供されている伝統的な赤身肉のステーキのうまさと、日本の和牛のサシが入ってミルク味がする柔らかい肉のうまさとは、まったく別物である。和牛には、最近世界的に認知されてきた「umami」(旨味)がある。それに対して米国の伝統的なステーキはumamiとは無縁のものなのかも知れない。

ワギューは世界市場でこれから拡大していく

インスタグラムで世界のシェフの和牛を調理している写真を見ていると、彼らが日本の和牛のうまさをよく理解していて、その繊細な味わいを最大限に引き出す努力をしているのがよくわかる。
おそらく和牛のおいしさは世界全体で見ると、まだまだ一部の層に知られているだけだと思う。世界中のグルメが日本の寿司のおいしさをよく理解したように、ワギューのおいしさを認めるようになるまでは、まだ時間がかかるのではないか。

ニューヨークのステーキハウス”212 Steakhouse”のインスタグラム投稿

それはつまり、日本の和牛関係の方が前向きに取り組むことによって、これから拡大する世界の和牛市場において、いくらでも販売を拡大することができるということだ。そのことをお伝えしたいと思い、本稿を記した次第。


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