マレーシアで広がるインフルエンザA型

私はクアラルンプールでこの2年ほど日本語を教えていますが、10月に入ってから日本語クラスでは休講が続いています。理由は「インフルエンザA型」。数人が立て続けに発熱し、クラスのキャンセルが続き、少し寂しく感じられる週もあります。
そこで今回は緊急で、インフルエンザが日本同様にはやりつつあるマレーシアの現状について解説します。
(引用元:Selangor influenza spike hits schools as cases surge over 80pct in a week [WATCH] | New Straits Times
https://www.nst.com.my/news/nation/2025/10/1289707/selangor-influenza-spike-hits-schools-cases-surge-over-80pct-week-watch)

マレーシアで広がるインフルエンザA型
著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2025年11月18日
教室の静けさが教えてくれること

8歳の生徒さんの話では、通う小学校で42人のうち18人しか出席していない日もあったといいます。また、知り合いの日本語教室でも、社会人の生徒8名のところが1名しか出席しなかったと聞きました。
正直マレーシアでそんな話を耳にするのは、初めてのことでした。
かつてのマレーシアでは「インフルエンザが流行っている」という感覚はほとんどなかったからです。
15年の歳月で変わった風景
私がマレーシアに暮らし始めて15年。
以前は風邪や咳はあっても、”インフルエンザ”という言葉を聞くことはまれでした。
しかしコロナ禍を経てからは少し状況が変わったような気がします。2023年ごろから「A型が流行している」との報道をたびたび目にし、そして2025年の今、教育現場を中心に本格的な流行期を迎えています。
数字で見る「地域ごとの波」
10月初旬、セランゴール州ではインフルエンザ様疾患の報告数が602件から1,128件へと、わずか1週間で80%超の急増を記録しています。そのうち6割以上が学校関連と地元新聞で報道されています。
クランタン州でも寄宿学校を中心に5件のクラスターが発生していて、ムラカ州(マラッカ州)でも学校でのA型発生が報告され、現在は「封じ込め可能」と伝えられています。
一方、マレーシア保健省は全国レベルでは感染増加の傾向は限定的なものと説明しており、マレーシア特有の地域ごとに波が立ち上がる構造が見てとれます。
なぜ今、これほど拡がるのか
なぜ今回これほどインフルエンザの広がりがみられるのでしょうか。
ひとつの要因は、コロナ禍で生まれた“免疫の低下”でしょう。長いマスク生活でウイルスへの接触が減り、自然に得ていた免疫が薄れています。とくに子どもたちは数年間、集団感染を経験しなかった世代で、強力なウイルスと出会ったことで一気に広がっているのだと考えられます。
もうひとつの要因は社会活動の復活です。学校行事や課外活動、語学学校など、再び人が集まる場が戻ってきました。うれしい復活の一方で、感染経路も息を吹き返したといえるでしょう。
加えて、保健当局の分析では今季はA型(H3)株が優勢で、重症化は少ないものの、感染力の強さが流行を後押ししていると分析されています。
現場の体温
教育現場に立つと、数字以上に「空気の変化」を感じます。
少し咳をしていても『大丈夫です』と笑って答える生徒。授業を休ませるのに気をつかう保護者たち。けれど、いま大切なのは“休ませる勇気”でしょう。
マスク、手洗い、換気――どれも地味ですが、コロナ禍のときのように続けることに意味があります。感染症は決して気合では防げないもので、静かな配慮が教室を守るということは、私たちは嫌というほど経験してきたはずなのです。
“常夏の国”に見える新しい季節
マレーシアに四季はありません。
しかし、今この国には”インフルエンザの季節”と呼びたくなるような変化が訪れているのです。社会がコロナの影響から抜け出す一方で、新しい感染の波が幾度も静かに寄せては返しています。
コロナ禍で我々が学んだ「必要以上に恐れず、しかし軽んじず」を思い出さなければいけない時が来ているように感じます。
私たちは、この“新たな季節”を、少しずつ学びながら再び越えていかなければならないのです。


















