マレーシアの政治状況が深刻化、元首相の汚職容疑で逮捕

マレーシア

マレーシアの元首相ムヒディン氏がコロナ支援策をめぐる汚職容疑で逮捕されたことが明らかになりました。現在、マレーシア政治はスキャンダルに揺れ、国民の政治への関心が低下する懸念が高まっています。ナジブ元首相や現首相アンワル氏も過去に逮捕された経緯があり、権力闘争や汚職が政治を支配している印象があります。内部権力闘争が続く与党連合の中核であるUMNOの分裂も、政治の混乱を引き起こしています。
今回の記事では元首相逮捕についてと、マレーシアの最近の政治状況について解説します。

マレーシアで元首相逮捕 国民の政治への関心の一段の低下懸念   

   著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2023年4月22日

職権濫用と資金洗浄が逮捕容疑

ムヒディン氏は、首相在任中に実施した建設業者を対象とするコロナ支援対策を巡って、同氏が所属する政党である「PPBM(マレーシア統一プリブミ党)」に建設業者側から資金還流が行われた容疑で逮捕されました。

ムヒディン氏は2020年から17カ月間首相を務めており、在任中の2020年の3月にはマレーシア全土に「活動制限令」、いわゆるロックダウンを東南アジアの他の国に先駆け発令しています。

2022年11月に実施された総選挙では、アンワル現首相が率いる政党連合である「PH(希望連盟)」に敗れています。

首相経験者が2人逮捕

マレーシアでは、2009~18年まで首相を務めたナジブ氏が2018年の総選挙で敗れた後、マレーシアの政府系投資会社である「1マレーシア・デベロップメント(1MDB)」を舞台にした約4660億円の汚職疑惑で訴追され2022年に有罪となり、禁錮12年と2億1000万リンギ(約65億円)の罰金が確定し、夫人とともに収監されています。

現首相のアンワル氏も

現在首相のアンワル氏も1998年9月に逮捕され、2004年まで収監されていました。

アンワル氏は学生運動を経て政界に入り、マハティール首相のもと1993年に副首相に就任、首相後継の最有力候補と目されていましたが、党批判によりマハティール氏との対立が悪化し失脚。その後2度の投獄を経験して政界に復帰し、四半世紀にわたる悲願の首相に就任しています。

権力闘争に明け暮れ

マレーシア始まって以来の政権交代である2018年から現在まで、コロナ禍の中でも結局は権力闘争に明け暮れていた印象があるのは否めません。

政権交代前も与党連合の中核だった「統一マレー人国民組織(UMNO)」には内部権力闘争があり、1980年代には熾烈な権力闘争が起こって2010年代から分裂を繰り返していました。

2018年の総選挙ではマハティール氏のもと野党連合の「希望連盟(PH)」が勝って政権交代が起きましたが、今回逮捕されたムヒディン氏の造反によって2年ももたずに瓦解し、総選挙を経ずに首相になっています。

腐敗認識指数が悪化

2022年の「腐敗認識指数」が発表され、マレーシアは2021年から1ポイント悪化し180カ国中で61位になっています。過去3年間で6ポイント減で、年々悪化している状態です。

また、英国の経済雑誌を刊行するグループが発表している「民主主義指数2021」では、マレーシアは総合スコアが7.24と東南アジアの国々の中ではトップにランクされ、世界では39位にランクインしています。

国民の政治への関心度が低下

2018年の総選挙では、国民の関心度が非常に高く、投票率も82.32%でしたが、昨年の総選挙では、74.04%と前回から8.28ポイントと大幅に低下しています。

人々の期待を背負って政権交代が行われたにもかかわらず、実態が変わらなかったことへの諦めが反映していると考えられます。今回の汚職による元首相の逮捕で、国民の政治への関心が一段と低下し、結果としてマレーシアの政治が成熟しない事態を招く可能性が高まってしまいました。

コロナ対策では国民が一丸となって危機を乗り切ったこの国なので、必ずやこの政治的な危機も乗り切ることを切望します。

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