全国規模の教師によるストライキ:その理由と影響は?|エストニア

エストニア

静かでおとなしい人が多く、ストライキとは無縁そうな国に思えるエストニア。過去を振り返っても目立ったストライキはなかったが、2024年の1月下旬に教員によるストライキが全国的に行われた。ストライキが正式に終了するまで約1週間かかったが、政府は教員の賃上げを約束する形で終了した。

全国規模の教師によるストライキ:その理由と影響は?|エストニア

著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2024年3月12日

ヨーロッパにおけるストライキ

ストライキのイメージといえばフランス(ストライキ大国)、イギリスやドイツ。これらの国ではなにかしらにつけて職員が待遇に不満を抱いてストを行い、関係のない一般市民に大きなしわ寄せがくる……という出来事が起きる。最近だと2月にドイツの航空会社ルフトハンザグループが給与向上を目的にストを起こすことを発表していたり、フランスの交通機関はパリオリンピック前の7月にストを予定している。

これらの国のようにストライキを頻繁に起こす国の方が珍しい。

ヨーロッパのストライキ地図

(画像引用元:etui https://www.etui.org/strikes-map

画像は2020-2022年の労働者1000人当たりに対する、ストライキによって働かなかった日数の数を可視化したマップだ。赤がストライキが多い国で青がストライキなし、もしくはほとんどない国だ。先に名前をあげたフランス・イギリスはイメージ通りストライキが多い。

エストニアは青色の地域でストライキは少ない。だからこそ、今回の教員による全国的なストライキが大きな話題となったのだ。

教員によるストライキの概要

1月22日からエストニア全土の教育関係者約9500人参加するストライキが始まった。この人数はエストニア教育職員労働組合(EHL)の公表した値で、実際はこれに幼稚園と職業学校の教員も加わるため、人数はほぼ倍の18000人になった。首都のタリンと学生都市として有名なタルトゥでは、市庁舎前の広場で教師を支持するデモも行われた。

そもそもなぜ全国規模のストライキが起こったかというと、教師の給料が少ないことと超過労働時間からだ。フルタイムの教師の月の給料は手取りで1400€程。今は円安傾向のため日本円換算すると悪くはないように聞こえるが、ヨーロッパの平均からすれば低い方だ。こういった傾向がある一方で、エストニアの教育水準はいいのである。PISAによる学力調査では世界でトップに匹敵するほどの結果を残している。東アジアの国のように塾に通って勉強するという概念はほぼ皆無であるため、国全体の教育水準の高さは教師たちの努力によって保たれているのである。

このような背景があると、教員によるストライキが突発的に起こったものではないことが推測できる。

政府の対応と今後の展開

ストライキが始まった1月22日から約1週間後の1月30日、政府の提案にEHLが合意する形でストライキは正式に終了した。提案内容は、2024年の教員の給与予算に570万ユーロを追加で割り当て、教員の最低給与が月々17€増えるというものであった。

また、2027年までに教員の平均給与がエストニア全体の給与平均の120%に達するよう、今年中に団体交渉を行うことも合意された。

まとめ

教員の給料は、国や地域の経済状況や教育システムによって影響される。給料が低いにも関わらず高い教育水準を維持するために、教員たちは残業を余儀なくされていた。このような状況下で今回のストライキが発生したのは当然のことと言えるだろう。最終的に政府との合意に至り、給料問題が改善されることになったが、この成功が他の職種にも波及する可能性も十分考えられるだろう。

【参考】
◇ERR: https://news.err.ee/1609229211/close-to-9-500-teachers-at-330-schools-on-strike-in-estonia-from-monday

◇ERR: https://news.err.ee/1609241244/education-leaders-talk-about-estonian-state-s-planned-reforms

◇ERR: https://news.err.ee/1609243743/over-2-000-qualified-teachers-work-in-other-sectors

エストニアの位置関係

さえきあき

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エストニア在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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