タコなしのたこ焼きがフィリピンで人気急上昇|新たな風を巻き起こす「TAKOYAKI」とは
大阪のソウルフードとして知られるたこ焼き。実は筆者の住むフィリピンでもよく見かけます。フィリピンでたこ焼きをよく見かける理由について、日本では考えられないフィリピンならではのたこ焼きの在り方や、スモールビジネスとして見た時のたこ焼き屋台の可能性とともにご紹介いたします。
フィリピンでも人気!?大阪のソウルフードたこ焼き
著者:フィリピンgramフェロー たこ坊
公開日:2023年 10月3日
ミリエンダ文化
フィリピンでは、朝昼夕の食事時間以外に、ミリエンダ(Meryenda)時間というものが存在します。ミリエンダとは、日本でいう「おかしの時間」のような習慣で、軽食やスナックを食べる時間となります。ミリエンダの時間帯は家庭によって様々で、朝食と昼食の間、昼食と夕食の間に設定されていることが多いです。ミリエンダで食べる定番のものは、屋台で販売されているストリートフード。うずらの卵を揚げたKwek Kwekや鶏の腸を焼いて串に刺したIsaw、魚のすり身を揚げたKikiamなどが人気です。そんな中、そんなミリエンダのレパートリーに最近名乗りを上げてきているのが「TAKOYAKI(たこ焼き)」なのです。
フィリピンのTAKOYAKI
たこ焼きといえば、小麦粉の生地の中にタコと薬味を入れて焼いた「粉もの料理」として知られていますが、実はフィリピンで見かける多くのたこ焼きにはタコが入っていません。いわゆる「タコ無したこ焼き」なのです。
日本人からすれば「名前がたこ焼きなんだから、タコが入ってなかったら、それはもはやたこ焼きではない!」と思いますよね。しかし、フィリピンでは「たこ焼き」ではなく「TAKOYAKI」として受け入れられているため、「TAKO」の部分に意味があると気づく人はいません。そのため、たこ焼きの見た目だけを模倣した「タコ無したこ焼き」が成立してしまうわけです。
では、なぜタコが入っていないのでしょうか?
日本ではスーパーマーケットに行けば気軽に手に入るタコですが、実はフィリピンではとても高価なものなのです。筆者の住む地域には大きなショッピングモールが4ヶ所あり、各モールにスーパーマーケットが併設されていますが、どこの店舗にもタコは置いてありませんでした。それほど手に入りづらく、高価であることが、フィリピンのたこ焼きにタコが入っていない大きな理由です。
「タコが入っていないのであれば、何が入っているの?」と疑問に思う方もいらっしゃいますよね。そこで今回は、実際に筆者の家の近くにあるたこ焼き屋4店舗を訪ね、メニューの調査をしてみました。
1、Takoyaki Sensei
メニューの種類:タコ無し、タコ入り、タコ無し・チーズあり、タコあり・チーズあり、海鮮味
価格帯:4個入り50~100ペソ(約130円~260円)、9個入り100~200ペソ(約260~520円)
コロナ禍以前から存在していた人気たこ焼き店です。テナントスペースを利用してたこ焼きを提供しています。
こちらの店舗では、Regular Takoyakiがタコ無し、Special Takoyakiがタコ入りという、日本人には少しわかりにくいメニューとなっています。Regular Takoyakiはタコを入れないからといって別の具材を入れるわけでもなく、完全なるタコ無したこ焼きを提供しています。たこ焼き以外にもお好み焼きや焼きそばを提供しており、本格的な粉もの屋となります。味は納得のいく日本クオリティで、美味しくいただけます。
2、KATITAY’S TAKOYAKI
メニューの種類:タコ(細切れ)、ゆで卵、乾燥イカ、チーズ、カニカマ、赤ちゃんダコ
価格帯:4個入り60~135ペソ(約155~350円)、8個入り115~255ペソ(約298~661円)
ショッピングモールの中に設置されている屋台です。
海鮮具材を中心に、チーズの他、ゆで卵入りたこ焼きといったユニークなメニューを提供しています。タコ入りたこ焼きは2種類あり、細切れになったタコを入れたものと赤ちゃんダコを入れたものとがあります。タコは高価なので、細切れにして分量を減らし、価格を抑えています。
しかし、日本人の筆者からすれば細切れだとタコを感じることなく食べ終わってしまうため、物足りません。そんな方向けに用意されたのが、赤ちゃんダコ入りたこ焼き。他の具材と比べて2倍程度の価格にはなりますが、しっかりとタコを感じることができます。
3、OHTAKO
メニューの種類:タコ(細切れ)、チーズ、ムール貝、チーズ・赤ちゃんダコ、野菜
価格帯:100~200ペソ(約260~520円)
(数量はメニューによって異なり、10個単位のものが多い)
ショッピングモールの中に設置されている屋台です。
海鮮繋がりでムール貝というユニークな具材のたこ焼きを提供しています。こちらの店舗は以前4個単位でも提供していたのですが、少量注文は受け付けなくなったようで10個単位(100ペソ以上)から注文可能という強気の改変がなされていました。
フィリピン人は大家族で生活していることが多く、ミルクティーのデリバリーを注文する際にも一気に10本オーダーということもざらにあるので、そういった大量注文の需要を狙った改変なのかもしれません。たこ焼き以外にラーメンを提供しているのも、この店舗の特徴です。
4、TAKO-CHANY
メニューの種類:赤ちゃんダコ、イカ(細切れ)、エビ(細切れ)、カニカマ、チーズ、ベーコン・チーズ、ニンジン
価格帯:4個入り55~105ペソ(約142~272円)
他の店舗で使用しているテナントの空きスペースを活用して設置されている屋台です。
海鮮具材をはじめとし、ベーコンやニンジンなどのユニークな具材のたこ焼きも提供しています。
こちらの店舗のメニューは面白く、具材に応じてメニューの名前を-YAKIとしています(EBIYAKI、KANIYAKIなど)。てっきりたこ焼きの「たこ」の意味を理解しているのかと思いきや、TAKOYAKIという名のメニューには、タコではなくまさかのイカ入り。ハシゴを外されたような感覚を受けた筆者でした。
結果としてタコ入りたこ焼きはBABY OCTOという-YAKIすら付かない名前の赤ちゃんダコ入りたこ焼きのみでした。このように突っ込みどころ盛りだくさんで楽しめるのがフィリピンの魅力のひとつでもあります。
以上4店舗のメニューから、海鮮具材を中心としつつ、店舗ごとにユニークな具材のたこ焼きを提供していることがわかりました。タコが高価であることから細切れにして提供する店が多いのに加え、赤ちゃんダコ入りたこ焼きを他のメニューの約2倍の価格で提供するのが定番であることもわかりました。
スモールビジネスとしてのたこ焼き
筆者の住む地域では、コロナ禍以前からたこ焼き屋は1店舗だけあったのですが、コロナ禍以降は一気に数が増え、同市内だけでも6店舗ほど存在しています。以前からあった1店舗を除いて、他5店舗はすべて小規模の屋台となります。
コロナ禍がひとつの転機となり、たこ焼きビジネスを開業した方が増え始めたことがわかります。
実際にフィリピン国内のメディアでもその様子が取り上げられていたので、以下2つの記事を紹介いたします。
まず1つ目は、コロナ禍で失業した方が、収入を得るためにストリートフードの屋台を開業したものの、市場では飽和状態となっている食べ物であったためうまくいかなかった。そこで、周りとの差別化を図るために始めたのがたこ焼き屋台だったという記事です。記事には、「家にあったプレイステーションを質屋に預けて得た5000ペソ(約13000円)でビジネスを開始した(He switched to making takoyaki, a popular Japanese street food, and pawned his playstation for P5,000 to raise a starting capital.)」とあり、手頃な価格で始められるビジネスであることがわかります。
(引用元:GMA NEWS ONLINE Chef starts takoyaki business to support family amid pandemic
https://www.gmanetwork.com/news/lifestyle/food/753847/chef-starts-takoyaki-business-to-support-family-amid-pandemic/story/)
そして2つ目は、コロナ禍で失業した方が、貯金していた4万ペソ(約10万円)を元手にたこ焼き屋台を開業し、今ではフィリピン国内にフランチャイズ店を11店舗展開。毎月17万ペソ(約44万円)の収入を得ている、という記事です。フィリピンの一般会社員の平均給与額が1万~2万5千ペソなので、会社で勤務するよりも5倍以上の金額を稼げるようになったという夢のようなお話です。まさにピンチをチャンスに変えた一例ですね。
(引用元:BUSINESS NEWS PHILIPPINES Takoyaki Business Now Earns P170K A Month With 11 Branches In Just A Year
https://www.businessnews.com.ph/takoyaki-business-now-earns-p170k-a-month-with-11-branches-in-just-a-year-20220331/)
以上2つの記事より、コロナ禍で仕事を失った方々が、手頃かつ他の屋台と差別化を図って始められる参入障壁の低いビジネスがたこ焼き屋台であったということがわかります。いまや、筆者の住む人口8万人程度の地域でさえたこ焼き屋が6店舗以上あるので、都心部などに行けば更に多くの店舗があると想定されます。店舗数の増加とともにたこ焼きの認知度も上がり、現地の顧客からの購買意欲は増す一方で、たこ焼き市場が飽和状態になりつつあります。これから屋台を始める場合は、差別化を図ってたこ焼き以外の何か新しい食べ物を扱うのが得策かもしれません。
たこ焼き以外の日本食屋台
たこ焼きがすでに飽和状態になりつつあるのであれば、たこ焼き以外の日本食の屋台も出てきているのでは?と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
筆者の住む地域では、一時期日本風唐揚げの屋台が出店されていましたが、売り上げが思うように伸びなかったのかすぐに撤退してしまいました。現在は、JAPANESE CAKEという名の今川焼きを模倣したような食べ物の屋台があります。こちらもあまり売れている雰囲気がないので、すぐに撤退しそうです。
このように、現状はまだたこ焼きに次ぐ日本食の屋台は出てきておりません。フィリピン人の金銭感覚や味覚を掴んだ日本食屋台が登場すれば、新たなスモールビジネスとして成功への軌跡に繋がるのではないでしょうか。筆者も常にビジネスチャンスを伺いつつ、日々市場調査を行っていきます。
まとめ
コロナ禍をひとつの転機としてフィリピン国内全体に広まったたこ焼き屋台。タコ無したこ焼きが多いという、フィリピンならではのスタイルを形成しつつも、手軽かつ差別化を図って開業できることから、コロナ禍で失業した人たちを救ったスモールビジネス。
当時は差別化を図るために開業されていたたこ焼き屋台も、現在ではすでに飽和状態となっているので、次にヒットするのは何だろうか、と筆者も日々アンテナを張り巡らしながら過ごしていきます。フィリピンでのスモールビジネスに興味のある方の参考になりましたら幸いです。