世界一の空港はなぜ生まれるのか?

英国の旅行調査会社であるスカイトラックスが先日発表した「世界の空港ランキング」で、シンガポールのチャンギ国際空港が13度目の1位に輝きました。昨年は2位でした。
これまで何度かチャンギ空港の先進性についてはお伝えしてきましたが、あらためて、チャンギ空港について、政策・戦略・経済・国民感情など多角的に深掘りしようと思います。
世界一の空港はなぜ生まれるのか?
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2025年 7月24日
世界1,300万人で調査

「世界の空港ランキング」は、スカイトラックス社が2024年8月から2025年2月にかけて、100ヶ国以上、1,300万人以上の空港利用者に調査したものです。
チャンギ空港は昨年トップに輝いたカタールのハマド国際空港からタイトルを奪還しました。
コロナ禍から回復途上
チャンギ空港は2024年には6,770万人の旅客を処理し、過去最高だった2019年の6,830万人はわずかに下回りましたが、2023年と比べて14.8%の増加、コロナ禍前の旅行客の水準にほぼ回復する見込みです。
2025年には旅客数がコロナ禍以前を上回ると予想されています。
強いアジア勢
ハマド国際空港が2位となり、続いて日本の羽田空港が3位、韓国の仁川国際空港が4位、成田国際空港は5位でした。
アジアの空港が上位を占めたことは、空港整備においてアジアが北米や欧州をすでに抜き去ったことを改めて証明した形になりました。
「空港は国家の顔」という信念
シンガポールでは空港は単なる交通拠点ではなく、国家ブランドの象徴です。独立後、国際的な信頼を築く必要があった小さな都市国家にとって、空港はシンガポールそのものを体験する入り口として設計されてきました。
その結果、2024年の乗客数で約6,770万人、就航都市数は約400都市以上、100社以上の航空会社が乗り入れており、年間の離発着回数が約38万回を誇る空港になっています。
単に便利な空港ではなく、世界中の人々がまた来たいと感じる空間を作り続けています。
空港運営は“国策”
チャンギ空港は、シンガポール政府とCAAS(民間航空庁)との一体戦略で進められていて、チャンギ空港は国の成長戦略そのものと捉えられています。
現在は未来の航空需要(年旅客数1.5億人)を見据えた第5ターミナル建設が進行中で、今年完成予定です。
国際競争力を保つために空港税や関税の見直しも行い、収益性よりも利便性とブランド重視を推し進めています。
テーマパーク型空港
チャンギ空港がユニークなのは、「空港=体験の場」としての設計です。特に2019年にオープンしたJEWEL Changi(ジュエル・チャンギ)は、空港の定義を変えました。
年間来場者数は約5000万人で、うち半数以上が地元民です。屋内の世界最大の滝をはじめ、空中散歩道、森林、ラグジュアリーショッピング、シネマなどを備えています。
ジュエルは、乗客以外の地元住民すら呼び込む観光スポットであり、空港の収益モデルにも革命を起こしました。
国民意識も向上
シンガポールでは、ホスピタリティは国家競争力とされており、チャンギ空港のスタッフ教育は軍隊並みの厳しさで知られていて、スタッフ一人ひとりに”空港がシンガポールの代表である”という理念を徹底教育しています。
国民の間でも、十数年にわたって”チャンギ空港が誇り”という意識が根付き、スタッフのモチベーションも高く、国民のホスピタリティや美しき国の維持に対する意識の向上にも大きく寄与しています。
卓越した戦略
シンガポールは、国土が小さいからこそ一点集中で世界と戦う戦略を取ってきました。空港、港湾、教育、医療、それぞれの分野でアジアのハブを目指し、国家全体で“機能美”を極める哲学が貫かれています。
空港の設計は単なる利便性だけでなく、ブランディング戦略の結晶であり、小国でも、世界一の質はつくれるという、シンガポール国民の矜持があります。