バルト三国とヨーロッパの各国をつなぐ鉄道計画が進行中

エストニア

日々アップデートが続く欧州のインフラ。バルト海沿岸のエストニア、ラトビア、リトアニアでは「Rail Baltica」と呼ばれる鉄道計画が進んでいる。この鉄道開通により欧州内の鉄道接続が改善し、観光や国内移動が便利になることが予想される。工事は進行中で2030年の鉄道開通を目指し、プロジェクトは進行中だ。

バルト三国とヨーロッパの各国をつなぐ鉄道計画が進行中

著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2023年12月21日

計画の概要

Rail Balticaはその名の通りバルト海沿岸部の国々、主にバルト三国と呼ばれるエストニア、ラトビア、リトアニアが主となる大規模な鉄道計画だ。現状、あまり鉄道の接続がいいとは言えない3国を、欧州内のほかの国々の鉄道路線につなげ鉄道輸送サービスのさらなる改善を目指した計画だ。計画の初期構想は1990年代から作られており、30年にもわたる長期計画だ。

Rail Baltica

(画像引用元:Rail Baltica https://www.railbaltica.org/rail-baltica-project-signs-2143-million-eur-grant-agreements-with-inea/

路線図の計画は画像のようになっており、非常に直線的で開通した際には最高時速249km/h(日本の新幹線並み)で旅客サービスを提供することが可能になり、国間移動がスムーズにできるようになるといわれている。この3つの国々を周遊する旅行客もいるため、鉄道の開通は観光サービスにも大きな影響を与えるだろう。

筆者はバルト三国の主要都市をバスで旅したことがあるが、交通が便利とは言い難く大変だった思い出がある。エストニアからリトアニアに移動し、北上するように観光をして最終的にエストニアにある家に帰ってくるという旅程だったのだが、まず最初の移動で疲れてしまった。以前の記事で紹介したエストニアのバス「Lux Express」を使ってリトアニアの首都まで行ったのだが、早朝にエストニアを出て到着したのは結局夕方近くであった。途中バスの乗り継ぎ等があったため正確な乗車時間は7、8時間くらいだが、それでも1日目は移動でほとんど疲れてしまった。飛行機を使うと移動時間が3時間程度となるが、1日に1,2便しか出てない上に価格は倍以上だ。費用対効果で金銭的あるいは時間的という話になり、選択肢が両極端であった。

しかし、Rail Balticaが完成すると、その中間の価格帯の選択肢が増えることになる。現在予定されている乗車賃はエストニアの首都からリトアニアの首都、すなわちRail Balticaの始点から終点までで76€でちょうどバスと飛行機の中間くらいの価格だ。そして、かかる時間は3時間半。飛行機より少し長いくらいでバスよりは断然短い。コスパとタイパの両立が取れた理想的な移動手段で、実現した際には非常に魅力的なものとなる。

(引用元:Rail Baltica https://info.railbaltica.org/en/in-brief

計画ができた背景

一般的に、欧州は「東」「西」の2つにわけて語られることが多い。明確な基準はないのだが、東に分類される国々の中には過去にソ連圏であった国々が多い。そのため、バルト海沿岸の国々も東側と呼称されることがある。そして、東側の設備面は西側と分類される国と異なる場合があり、鉄道に関してもそうである。

東側の国々で使われている鉄道の線路幅は1520mmが多く、これはロシア帝国時代に用順となった規格で、その後のソ連時代に関係していた国々がそれに倣ったからという歴史的背景がある。一方、西側にあたる国々で主に使われているの線路幅は1435mm。

この違いによって、鉄道輸送サービスに関しては東側がメインであり、バルト諸国と西側がつながることが難しかったのだ。

そこで、既存路線とは別規格の路線を作ることで残りの欧州の国ともつながることができる、ということだ。

(引用元:Raiway Technology https://www.railway-technology.com/features/how-rail-baltica-is-making-progress/?cf-view

鉄道事業に伴う経済効果

Rail Balticaの建設プロジェクトにより、建設段階で13,000のフルタイム相当の建設業界での雇用を創出し、関連産業においても24,000以上のフルタイムでの雇用を創出するとされている。そのほか、GDPの向上など副産物的な効果も含め、全体の経済効果は162億€と計上されている。対して、プロジェクトの推定総費用は3カ国合計で58億€だ。内訳はエストニアが13億5,000万、ラトビアが19億6,800万、そしてリトアニアが24億7,300万。

つまり、費用に対して得られる効果はおよそ3倍になる大きなプロジェクトであるといえる。

(画像引用元:Rail Baltica Rail Baltica Global Cost-Benefit Analysis | Rail Baltica
https://www.railbaltica.org/rail-baltica-global-cost-benefit-analysis/

また、得られるのは経済効果だけでない。 CO2排出削減効果は30億ユーロ相当、大気汚染削減効果は33億ユーロ相当となり、環境の持続可能性におけるEUの世界的リーダーシップに大きく貢献する。

(引用元:Rail Baltica :Rail Baltica Rail Baltica Global Cost-Benefit Analysis
https://www.railbaltica.org/rail-baltica-global-cost-benefit-analysis/

工事の実際の進捗はどんな感じ?

鉄道のちょうど中心に位置するリガでは工事が大規模に進んでおり、その様子はリガのバスターミナルに降り立った瞬間確認できる。

(画像引用元:Raiway Technology
https://www.railway-technology.com/features/how-rail-baltica-is-making-progress/?cf-view

2022年12月の時点で杭の建設や掘削が進んでいるほか、電気ケーブル等がすでに100km以上敷設完了している。まだまだ完成からはほど遠いが、鉄道開通に向けて着々と準備が進んでいる。

ちなみにエストニアではこのRail Balticaのプロジェクト以外に首都のタリンでは大規模な道路工事を行っているため、工事を見かけたとしてもそれが鉄道なのか道路なのか判断できない。

果たして計画通り2030年には鉄道が開通することになるのか、また建設途中で問題が出てこないか、今後も注目すべき点はたくさんある。しかし、複数国が関与する大規模プロジェクトということで影響は多いことが予想される。

エストニアの位置関係

さえきあき

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エストニア在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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