シンガポール 5月3日に選挙実施へ

シンガポールは4月15日に国会を解散し、5月3日に総選挙を実施すると発表しました。
生活費の高騰や米国の関税による「米中貿易戦争」で景気後退への懸念が高まる中、新たな首相であるローレンス・ウォン首相にとっては最初の選挙となります。
今回の記事では、今回の選挙を多面的に読み解いていきます。
シンガポール 5月3日に選挙実施へ
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2025年 7月22日
建国家族からの『卒業』

1965年の独立以来、シンガポールの政治は初代首相で「国父」と呼ばれるリー・クアンユー氏の影が常に残ってきました。
建国の父とその息子リー・シェンロン前首相で、60年にわたり続いたリー家による直接または間接的な統治が、ついに終焉を迎えました。
今回の選挙は単なる首相交代後初の選挙というだけではなく、リー家からの脱却、そしてシンガポールの国家としての政治的成熟が問われる初の国政選挙となります。
世界不安の中の選挙
ウクライナ戦争、中東不安、そして2025年に入ってからのトランプ関税とそれに伴う米中貿易戦争の再燃の恐れなど、世界の秩序は多極化の時代に突入しています。
そうした中、東南アジアにおいて”中立で戦略的な国家”としてのポジションを強化してきました。
新しい首相の下で、中国との経済依存を維持しつつどう均衡をとるのか、ASEAN内部でリーダーシップを継続して発揮できるのかが問われます。
今回の総選挙は、国民の選択を通じて「シンガポールがどんな世界秩序を望むか」という意思表示の場でもあるのです。
「非カリスマ型リーダー」による国家運営
ウォン新首相は、リー氏のような強烈なカリスマ性を持っていません。むしろ”集団指導体制の象徴”と見られています。これはシンガポール政治にとって質的な転換点です。
この流れの中で、今回の選挙は、PAP(与党である人民行動党)が「個人の権威」から「組織としての正統性」へと脱皮できるかが試される場とも言えます。
国民感情と価値観の多様化
2020年代に入り、シンガポールでもSNSの発展により、若年層や中間層の政治的意識が大きく変容しています。
国民はかつてのような経済成長の恩恵よりも、生活の質や精神的豊かさ、規律正しさを重視するようになっています。
過去の選挙では沈黙していた層が、近年では政策提案型の反対政党に共鳴しています。今回の選挙でも、政党間の健全で公正な競争を望む声が増えています。
「東南アジアの模範国家」
かつては「独裁的でありながらも効率的な『開発独裁』というモデルで、成功する権威主義国家」として一目置かれてきたのがシンガポールです。
しかし、いま新しいモデルが求められています。
成熟した都市国家として、「新しい成熟都市国家モデル」へと脱皮できるかが問われている選挙です。
シンガポールはどこへ向かうのか
2025年の総選挙は、これまでの繁栄を支えた構造そのものの再評価が求められる選挙となります。
これまでのような強い政府と効率的なガバナンスだけでは国民の信頼を得られない時代になっています。
そんな混とんとした状況の中で、ウォン首相は何を見せられるのか。また、国民は何を望んでいるのかの答えが、5月3日の投票で明らかになるでしょう。
そしてその結果は、東南アジアの未来を塗り替える、静かなる変化になるかもしれません。