エンプロイメント・パス(EP)資格のある給与の引き上げ
今年の9月から、シンガポールのエンプロイメント・パス(雇用パス:以下EPとする)を更新する場合に、資格を満たす給与の最低金額が引き上げられます。
東南アジアを代表するシンガポールの金融日刊紙「The Business Times」によると、一部の企業は、EP 保持者を継続して雇用できるかどうかを懸念しているとのことです。
今回の記事では、厳しくなるシンガポールでのEPの取得条件について解説します。
エンプロイメント・パス(EP)資格のある給与の引き上げ
著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2023年 6月16日
敷居が上がり続ける
シンガポールで就労ビザEPを取得する人のハードルが上がってるのは確かで、年齢とともに資格を満たすための最低給与が上昇し、23歳で5,000 シンガポールドル(約52万円)から始まり、45歳以上の場合は10,500 シンガポールドル(約110万円)まで増加します。金融サービスの場合は5,500 シンガポールドルから11,500 シンガポールドルとなっており、一部の企業は外国人スタッフを引き留めるために、大幅な昇給を迫られるか解雇の可能性もある、と報道されています。
在星日本人減少傾向に
外務省統計を確認してみると、2010年の24,548人から2016年の37,504人へと、毎年平均5.8%で増加していました。2017年には前年比で2.9%減少し、2022年10月で、32,743人の日本人がシンガポールに滞在しています。 駐在員とその家族が多数を占めており、自分で会社を経営している人や現地採用の人が含まれます。
在星日本人の減少傾向は、2017年にはEPを取得するための最低給与額が引き上げられたことに始まります。2020年にはコロナで解雇が相次ぎ、2021年には駐在の8,000人が帰国しています。
また、今年に入ってコロナの終息に伴い家賃が高騰しており、今回のEPの厳格化により在星日本人の減少に拍車がかかりそうです。
異変
海外からの投資や人材の雇用を推進する政策で国際企業を招致し、目覚ましい経済発展を遂げてきたシンガポールに異変が生じています。
コロナ禍での景気の冷え込みで雇用環境が悪化し、国民にくすぶっていた外国人駐在員に対する「外国人材ばかりが優遇されている」と不満が噴出し表面化してきました。その結果、政府は国民の雇用を守るために、就労ビザの取得要件を厳格化して国民の雇用を優先させるように方針を転換してきました。
「シンガポーリアン・コア(国民中心主義)」政策
シンガポール政府は、労働人口の約4割を外国人が占める現状を考慮して、2010年から雇用対策の一環として「シンガポーリアン・コア」 と呼ばれる政策を掲げています。
国民を中心に据えた人員構成にするよう企業に要請して、国民を雇い続ければ賃金の最大75%を補助しています。発展のために外国企業や人材を意欲的に取り込み、国内人口約570万人のうち外国人が4割を占めていますが、最近外国人の構成比率が高い企業には、EPの発給の停止をちらつかせて圧力をかけています。
新制度COMPASS
新制度COMPASSは「Complementarity Assessment Framework」の略です。導入の目的は、全てのEP申請に対して、平等で透明な審査をするための明確な基準を設けることとされています。新規申請は今年の9月1日以降、更新申請の場合には2024年9月1日以降となっています。
COMPASSは「給与」「学歴」「国籍多様性」「ローカル雇用の促進」の4項目がベースとなっており、追加項目として「スキル (人材不足職種リスト)」「戦略的経済優先」がボーナスポイントとして加算されます。EP申請時には、合計ポイントが40を上回らなければなりません。
賃金相場が高騰COMPASS
シンガポールでは賃金相場が大幅に上昇しており、今回のEP申請要項の厳格化により、さらなる高騰は必至です。
ビザ申請の資格要項が厳格化し、複雑化しているシンガポール。
進出を考えている企業にとっては、事前の情報収集や調整がますます重要になっています。