ベリーピッキング労働力の現実:北欧の自然と雇用の課題

エストニア

北欧といえば豊かな自然。森林や湿地が豊富にある北国では、夏の終わりごろからベリーやキノコの収穫時期となる。ベリーが豊富に育ち収穫に人手を要するため、これらの収穫には一時的な労働力として国外からの出稼ぎを受け入れている。しかしながら、労働環境に問題があることも指摘されており、決して雇用関係が良好と言えないのも事実である。本記事ではベリーピッキングにまつわる数字や労働力問題を紹介する。

ベリーピッキングの労働力問題|エストニア

著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2023年11月1日

北欧ベリーの輸出入

北欧の9月はベリーピッキングの月である。エストニアとほぼ同様の気候をしているスウェーデンとフィンランドのビルベリー(北欧版ブルーベリー)についてのデータが以下である。

2007年のデータによると、スウェーデンにおけるビルベリーの輸出量は8000トン。その輸出先1位は中国、2位イタリア、3位フィンランドとその次4位に日本が来る。加えて、イタリアに輸出されたビルベリーは、イタリア国内で加工され商品となり東アジアへ再輸出されるというのだから、ビルベリーのアジアでの需要が高いことがわかる。

スウェーデンのお隣フィンランドは、少し生産量が減り3500トンほど。しかしながら輸出先の2位が日本、3位が中国で、中国と日本を合わせると、フィンランドのビルベリー輸出の約45%を占めていた。

(引用元:Voice of the Nordic Wild Berry Industry https://www.arktisetaromit.fi/binary/file/-/id/17/fid/519/

SNSでの騒動

9月中旬にSNSでベリーピッキングの出稼ぎが話題になったのを知っているだろうか。

とあるフィンランド在住者が、フィンランドのベリーピッキングについての漫画をSNSに投稿した。タイからの出稼ぎ労働者が期間限定でベリーピッキングをしに訪れ、短期間で高収入を得て国に帰っていくといった内容だ。フィンランドとタイの賃金の差は大きいため、フィンランド水準で稼いで帰るとタイに豪邸が建てられるという夢のような話も記されていたのだ。

ここまでの話だと、ベリーピッキングの出稼ぎはフィンランドにもタイにも双方にとってwin-winのように聞こえ、実際読者から「楽しさそう」「やってみたい」等のコメントがあった。しかしながら、実際のベリーピッキングは過酷な労働環境の中行われるものだ。そのため、漫画は意図せず悪い部分を隠したかのように表現してしまったように映り、SNSの海外在住(特に北欧在住者)の間で悪い意味で話題となり、該当漫画は削除、掲載元と作者も謝罪するという結末になってしまったのだ。

エストニアでの労働力

2020年、エストニアでも農作物の収穫に関する労働が取り上げられていた。ここで触れられていたベリーとは、森林や湿原に自生しているビルベリーやクランベリーではなくイチゴの話である。

記事によると、海外からの労働力なしでは農作物が収穫できないまま腐ってしまうという農家の主張を受けいれ、エストニア政府は季節労働者の入国制限をするという判断を撤回したという。当時、他国からの出稼ぎ労働者はウクライナからが多く、政府の主張は「外国人労働者を雇うなら地元の失業者を雇うべきだ」という至極当然の意見であった。しかしながら、ある農家は収穫量の70%が労働力不足により収穫できず畑に残ったままであると述べ、労働力の規制は経済への影響を与えると判断したため政府は前言撤回したという経緯がある。

ちなみに、記事に載せられていた労働時の様子が以下の写真だ。

列に並びうつ伏せになってイチゴを摘む。この姿勢が辛いのか楽なのかは作業を実際にしてみないとわからないが、ベリーピッキングの仕事と聞いてこのような作業をしているとはゆめゆめ思わないだろう。

(参考・画像引用元:日本台湾交流協会 :yahoo!news Estonia rolls back on seasonal worker curb to end ‘strawberry war’ (yahoo.com)
https://news.yahoo.com/estonia-rolls-back-seasonal-worker-120252173.html?guce_referrer=aHR0cHM6Ly93d3cuZ29vZ2xlLmNvbS8&guce_referrer_sig=AQAAAEJi2E5Fw8ao1Gn0E0N7siErQQdCT89LGgT_kWdp813T6t2SWL5pKBCTm98Js5U-3z0kiBA1wghPfClihhoc8VW2LmPQg-WlA2MQ8O-6b6C9AIbpBJjQp_DvJir5XVbTdhkoc6C_IIZX4Lmo5KQ0PqIelbCD8m_PEZcM6Bhx1m19&guccounter=1

まとめ

北欧らしさに溢れたベリーを国の特産物として支える背後には国外からの労働力がある。ベリーが育つのは湿地帯や虫が多くいる大自然の中である。イチゴの収穫であれば決められた区画の畑での作業なのだが、北欧特有のビルベリー等の収穫となれば、森林を動き回りながら探す根気と体力が必須の作業になることが確定する。

国外からの労働者についての問題は早急に解決することはなく、賃金の格差がある限り難しいだろう。

北欧発祥のブランドのイメージから、憧れやキラキラとしたイメージを持って北欧を夢の国のように見る人もいるだろうが、国としての機能までキラキラしているわけではない。現実とイメージは決して同じでないことを受け止めたなければ文化の表面上のみ享受することになるだろう。

エストニアの位置関係

さえきあき

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エストニア在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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