シンガポール: 小さな国の「輸入イデオロギー」

シンガポールを訪れると、時折「この国は世界の縮図だ」と思うことがあります。面積は東京23区ほど、人口は約611万人にすぎません。しかしそこに多様な人種と宗教、そして最先端のテクノロジー社会が凝縮されています。近年、この国が直面している新たな課題のひとつが、『輸入されたイデオロギー』です。
今回の記事では、シンガポールならではの問題について解説します。
(引用元:Detention of three self-radicalised Singaporeans and updates on other cases under the Internal Security Act | Internal Security Department
https://www.isd.gov.sg/news-and-resources/detention-of-three-self-radicalised-singaporeans-and-updates-on-other-cases-under-the-internal-security-act/)
シンガポール: 小さな国の「輸入イデオロギー」
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2026年 02月13日
SNSから広がる危機
2025年9月、政府はMeta(Facebook)に対して、なりすまし詐欺や虚偽広告への対策を実装せよと命じました。履行しなければ最大で100万シンガポールドル(約1億1,000万円)の罰金を科すという強い措置です。背景には深刻な数字があります。2025年前半だけで、政府機関や銀行を装った詐欺は実に1,700件以上、被害総額は1億2,000万ドル(約132億円)を超えました。
警察の統計では、詐欺の被害中央値は前年より36%上昇し、1,500ドル(約16万5,000円)に達しています。私の周囲でも、知人が友人を名乗るWhatsAppのメッセージにだまされかけた話を耳にしています。被害が身近な日常に入り込んでいるのを強く感じます。
こうした詐欺の多くは海外からの発信とされます。生成AIや人工知能による偽動画や偽音声などのディープフェイクの普及もあり、国境を越えて信じてしまう物語が次々に流れ込んでいます。国家規模が小さいがゆえに、社会全体に与える衝撃は大きいものがあります。
若年層を直撃する過激思想
輸入されるのは詐欺だけではありません。2025年初頭には、ガザ紛争の映像やニュースに触発され、暴力的な思想に傾倒した10代のシンガポール人が複数拘束されました。わずか数ヶ月の間に、国外のニュースとSNS経由で過激化してしまう「若者の脆弱性」を、内務省は繰り返し警告しています。私自身、政治的に過激な動画をシェアして議論を始める場面に出会ったことがあります。
以前では見かけない光景で、若者たちに悪意はなく、ただ世界の出来事を”自分ごと”として受け止めすぎてしまっているのではないかと感じます。
政府の規制
こうした事態に対して、シンガポール政府は独自の法体系を整えています。2019年に施行された『虚偽情報対策法』は、拡散されたフェイクニュースに訂正表示を義務づけるものです。2024年には『オンライン犯罪・有害行為法』が全面施行され、プラットフォームに対して実装指示を出せるようになりました。さらに外国勢力の影響を防ぐ『外国干渉対策法』も発効済みです。
この国ならではの非常に素早い対応といえるでしょう。
価値観のせめぎ合い
一方で、社会の内部でも『輸入イデオロギー』が価値観の分断を生みつつあると感じます。2022年、同性愛を罰する刑法を廃止したものの、結婚は男女間に限定する憲法改正も同時に成立しました。SNSなどの若者の話を見ると、もっと自由であるべきだという声と家族の価値を守るべきだという声が同じ強さで存在しています。
グローバルな価値観の潮流と、アジア的な共同体意識が拮抗しているのだと思います。
小国の姿は大国の鏡
シンガポールの人口の伸びを支えているのは外国人労働者であり、彼らが建設やサービスの現場を支えています。その一方で、生活コスト上昇や文化的摩擦の懸念もあるのは事実です。社会がドライになっていて、生活などに余裕がなくなれば、輸入された過激思想や詐欺の火花が燃え広がるのは早いです。私は日々の生活の中でその緊張感を肌で感じています。
現在のシンガポールの姿は小国特有の問題に見えるかもしれません。しかし、実際には日本を含めた先進国が直面しつつある課題の縮図です。境界を越えるSNS、ディープフェイク、外来イデオロギー。小さな国の経験は、むしろ日本のような大きな国の未来を映す鏡ではないでしょうか。




















