リー・シェンロン首相 24年までの退任を明言|シンガポール

シンガポールのリー・シェンロン首相が、2024年までにローレンス・ウォン現副首相兼財務相に、首相職を譲る意向を明らかにしました。
首相職をウォン副首相に移譲することは既定路線でしたが、交代時期についてはこれまで明らかにしていませんでした。
ウォン氏は50歳で、現首相の70歳からの若返りで、コロナ以降で最も成果を上げた政治家で、 国民の支持も高いです。
今回は、この記事と合わせて、気になるシンガポールの政治形態について解説します。
リー・シェンロン首相 24年までの退任を明言|シンガポール
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2023年 11月30日
20年ぶりに首相交代
今回の首相交代で、シンガポールでは20年ぶりに指導者が交代することになります。
交代時期は2025年に行われる予定の総選挙の前後になるとみられていました。
リー氏は「ウォン氏に全幅の信頼をおいていて、政権を移行するのを遅らせる理由はない」と述べ、来年のPAP(与党の人民行動党)創設70周年記念日である11月21日までに移行を完了することを明言しました。
これにより、次回総選挙は新首相を中心とする新たな布陣で臨むことになります。
禅譲
現首相のリー氏は、前首相のゴー・チョクトン氏から2004年に首相職を移譲されています。
前首相のゴー氏は、初代首相で建国の父であるリー・クアンユー氏から1990年に首相職を移譲されています。
現首相のリー氏はリー・クアンユー氏の長男であるので、事実上、首相は世襲制といっても過言ではないかと思います。
また、いずれの首相の移譲も、PAP内での交代なので「禅譲」といってもいいでしょう。
政治形態
1965年の独立以来、シンガポールは議会制民主主義制度を導入しています。
また、共和制という国王などの専制君主が存在しない体制で、国民が選んだ人物が代表して国を統治します。共和制の代表は「大統領」と呼ばれ、アメリカが代表的な共和制の国です。
シンガポールには大統領と首相の両方が存在し、首相が政治的なトップで、大統領は国の象徴として儀礼的な存在です。
選挙で選ばれた国会議員の中から、大統領が首相や各閣僚を任命します。
開発独裁
第二次大戦後に独立した国の中でも、シンガポールは最も成功した国といわれます。
多くの国が成長を最優先にして豊かな社会を実現するために「開発独裁」という手法を採用し、国民が政治に参加することを著しく制限して独裁的な国家運営をしています。
多国が先進国になれない中、シンガポールは先進国入りし、非常に豊かな国として成功しています。
その一方で国内の言論は厳しく統制されており、政府の批判ができない状態は今でも続いていて、揶揄的に「明るい北朝鮮」ともいわれています。
2023年発表の「世界報道自由度ランキング」でも、180か国中の129位になっています。
意識の変化
世界が激しく変転し、シンガポール国民の意識や価値観も変化している中で、政治も変化に配慮する必要性があります。まして、前近代的な「開発独裁」に近い政治は、もはや世界中で受け容れられなくなっています。
2011年の選挙の際には国民の不満が表面化し、常に8割を超える支持率を維持していたPAPの得票率が史上最低の60.1%までに落ちこみ、野党は2議席から一気に6議席まで議席を増やし、2020年の前回選挙では10議席まで躍進しています。
国父であるリー氏のカリスマ性が、若い世代を中心に国民の中でも薄らぎつつあり、政権継承方法への反対意見ともみられていました。
第4世代の役割
国民の3割以上が野党に投票している現在、シンガポールの現在の政治体制が今後も今まで通り安泰に運営されるか否かは、予断を許さない状況です。
世界の富裕層が集まり、国民の間でも格差の広がっており、国民の不満も顕著に現れるようになっています。
実情や移行の速度に配慮しながら、より「開かれた社会」へ移行し、成熟した民主主義を獲得する過渡期をシンガポールは迎えています。