『移民労働者に公正な賃金保証を』ローマ教皇が講話
9月12日、ローマ教皇フランシスコは歴訪先のシンガポールで指導者らに対し、シンガポールの100万人を超える低賃金外国人労働者に対して公正な賃金を保証するよう講話で求めました。
ローマ教皇の講話は、繫栄した都市国家を実現し、見逃されがちなシンガポール社会における外国人労働者の問題に光を当てました。
今回は、シンガポールの繁栄に低賃金外国人労働者がどのようにかかわり、現在どのような状況にあるのか、そして今後どのように変化していくのかについて深掘りしようと思います。
『移民労働者に公正な賃金保証を』ローマ教皇が講話
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2024年 11月29日
東南アジア・オセアニア歴訪
今回ローマ教皇がシンガポールに訪れたのは、12日間にわたる東南アジア・オセアニア(インドネシア、パプアニューギニア、東ティモール)歴訪の最終日程です。
講話は政治家やシンガポール市民、宗教指導者ら約1,000人に向け行われました。
教皇は、シンガポール社会の急速な高齢化と、建設や家事サービスを中心に従事している外国人移民労働者への懸念を表明しました。
シンガポールの繁栄過程を評価
教皇は、シンガポールを「最も重要な商業の交差点であり、さまざまな人々が出会う場所である」と評しました。
さらに 「シンガポールは経済的に繁栄しただけではなく、社会正義と公共の利益がともに重視される社会の構築にも努めてきた」と述べ、特にシンガポール「公営住宅政策」「質の高い教育」そして「効率的な医療制度」を評価しました。
配慮を求める
教皇はシンガポールを評価しながらも、人口の約25%が貧困層とみなされ、富の不平等に悩まされていると語りました。そして「実用主義だけに焦点を当て、功績を何よりも重視することで、社会の周縁にいる人々が、進歩の恩恵を受けられなくなる危険がある」と懸念を表しました。
さらに「シンガポールの国民全員が、進歩の恩恵を十分に受けられるようになるまで、シンガポールの先進的な取り組みが続けられるように」と希望を述べました。
経済を支える重要な労働力を提供
シンガポールの急速な経済成長において、外国人労働者は非常に大きな役割を果たしてきました。
特に建設業や製造業、サービス業などの労働集約型産業においては、低賃金の外国人労働者が不可欠でした。外国人労働者のおかげで、シンガポールは低コストでインフラ開発を進めることができ、国際的な競争力を保っています。
2020年時点で全労働力の約28%が外国人労働者であり、特に建設業では全労働者の80%近くが外国人であるというデータもあります。
2つの層の外国人労働者
シンガポールの外国人労働者は、大きく2つの層に分けられます。
ひとつは、高給を得る専門職やエキスパートで、金融やITなどの分野で活躍する外国人であり、もうひとつは低賃金労働者です。
この2層化された外国人労働者の現状は、シンガポール社会における格差の拡大を反映しており、人権問題や労働条件の問題を引き起こしています。
コロナ禍に明らかに
外国人低賃金労働者の生活環境は非常に過酷です。多くの労働者はドミトリーと呼ばれる共同宿舎で生活しており、時には10人以上が一部屋に押し込まれることもあります。
特にコロナ禍では、ドミトリーでの感染が拡大し、外国人労働者の衛生環境や生活条件が大きな社会問題となりました。
政府の対応と今後
シンガポール政府は、外国人労働者の労働条件を改善するための政策をいくつか導入していますが、その実効性には限界があり、労働者の権利は依然として脆弱なままです。
シンガポールにとって外国人労働者は、経済の持続的成長を支える重要な存在であり、特に低賃金労働者は不可欠な労働力を提供しています。しかしその一方で、彼らの労働条件や人権問題は深刻な課題となっており、政府や社会全体の意識改革が求められています。