シンガポール政府が描く2040年の観光戦略

シンガポール政府が今年発表した『Tourism 2040』は、単なる観光政策ではありません。人口の少ない都市国家が、これから20年後の世界で確かな存在感を保つための “国家デザイン” そのものだと感じます。
私は12年以上シンガポールに住み、今も毎年のように訪れていますが、いつでも未来に向かって動き続けている空気に満ちています。今回の構想も、派手さよりも“淡々と積み上げる強さ”が滲んでみえます。
では、その詳細について見ていきましょう。
(引用元:Tourism 2040 | Singapore Tourism Board
https://www.stb.gov.sg/about-stb/what-we-do/tourism-2040/)
シンガポール政府が描く2040年の観光戦略
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2026年 02月06日
「数より質」へのシフト

政府が強調しているのは、訪問者数の拡大ではなく観光体験の質の向上です。
国土は東京23区ほどで、これ以上の大量の観光客を受け入れる余地は少なく、モノ消費型の観光は限界が近いのが現状です。そこで焦点が当たったのが、価値を感じる旅を求める層の取り込みなのです。
たとえば、シンガポールのマリーナベイ・サンズにあるアートサイエンス・ミュージアム(Art Science Museum)の拡張や、植物工場や研究施設の公開型ツアーなど。これらは写真映えよりも、その土地の歴史や思想、未来像に触れる旅への転換でもあります。
私が住んでいた頃から、シンガポール人の価値観には“生活の質”が深く根づいていました。観光戦略にその価値観が自然ににじみ出ている気がします。
ハードより「体験」をつくる
『2040戦略』では、
①自然との結びつき
②文化・コミュニティとの交流
③未来技術との体験価値
の三本柱が示されています。
“自然”は、例えば、ウビン島のエコツアー、ラブリーナ公園の生態系保護、サザン・リッジスの再整備など、都会の中に自然を重ねるスタイルです。あれだけ都市化が進んでいながら自然保全に本気で取り組む姿勢は、住んでいた頃から驚きでした。
“文化”では多民族国家ならではの深みがあります。チャイナタウンの再整備や小さなコーヒーショップ(コピティアム)を守る動きなど、観光地化しすぎない生活文化の保存が特徴的です。観光向けに整えるのではなく、暮らしの中に観光をにじませる、その姿勢がシンガポールらしいと感じられます。
そして“未来技術”。自動運転交通網の拡大、AIによる個別観光プラン、スマート屋内農場の見学ツアーなど──これらは単なるハイテク展示ではなく、未来の都市の生活とは何かを体験できるプログラムになるはずです。
狙いは「世界都市としての知的魅力」
今回の政策全体から感じるのは、シンガポールを、“知性で旅する場所にする”という明確な方向性です。観光地を増やすというより、”都市の思想そのものを体験する”という旅への変化です。
現代の旅行者、とくに富裕層やリピーターは、ただのレジャーでは満足しません。学びや刺激、未来へのヒントを求めています。その潮流を最も正確にとらえているのがシンガポールだと実感しています。
私が感じる “2040戦略の本当の意味”
12年間暮らした経験から言うと、シンガポールの政策は常に小国の弱点を、戦略で強みに変える発想で貫かれています。資源が少ないからこそ、観光を単なる産業ではなく、国家ブランドの発信装置として活用しています。
2040年の観光戦略は、人口減少社会に向けた生存戦略でもあります。世界の都市が人口減に悩むなか、シンガポールは、外から人を呼び込み知的刺激と価値を交換する都市へと進化しようとしているのです。
未来を“デザインする”国
シンガポールに住んでいた頃、私は普段の街の空気からもこの国は未来を恐れていないと感じていました。むしろ未来を楽しんでいます。それは国全体に広がる独特の楽観主義であり、今回の『2040戦略』にもその温度がしっかり流れ込んでいると感じています。
『2040戦略』 は、小さな都市国家が世界の大都市と肩を並べ続けるための、静かですが力強い宣言なのです。





















