シンガポール:食糧の安全保障の取り組みを強化
シンガポール初、地域の農業食品業界に焦点を絞った展示会「Agri-Food Tech Expo Asia」が10月に開催されました。これは、Singapore International Agri-Food Weekの重要なイベントとしてサンズエキスポ&コンベンションセンターで行われました。
シンガポールは現在、国内で販売される食品の90%以上を輸入に依存しており、今年はコロナ禍の影響で隣国マレーシアからの鶏肉の輸入の制限などもあり、食料の安全保障に対する意識が高まっています。
そこで今回の記事では、シンガポールの最近の食料自給率の改善に対する取り組みについて解説します。
食糧の安全保障の取り組みを強化
著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2022年12月6日
目指すは30%の食料自給率
シンガポールは、米などの穀物類や野菜、鶏肉や豚肉などの肉類、魚、ありとあらゆる食料を輸入に頼っており、国内の栄養需要の約10%しか自給できていません。
シンガポールの食料安全保障指数は世界でもトップランクで、実に170カ国以上から食料を輸入をしており、価格も比較的安定していました。しかし、コロナ禍を経験し、隣国などからの食糧の輸入にも制限がかかり、現在は物価の高騰に歯止めがかかっていません。
シンガポールは農地は国土のわずか1%にすぎませんが、 国内の農業生産を全く放棄したわけではありません。最近では、 限られた土地で生産性を向上させる取り組みを始め、農業生産の拡大を目指す動きが目立っています。
こうした課題への対策として、2019年から「30×30」と呼ばれる計画をスタートしていて、農業等の最新のテクノロジーを駆使し、2030年までに国の食料品の需要の30%を自国で生み出せるよう取り組んでいます。
食料輸入の中心から生産重視へシフト
シンガポールは、 貿易や金融、 観光などの産業が中心で、 他国との交流で成り立っている国です。 過去には「必要な食料は輸入すればよい」 という分業論が主流を占めていましたが、最近、特にコロナ禍以降は、国内の農業への積極的な財政支出をすすめており、生産性の低かった農業も、 最新テクノロジーで安全で高品質な農産物の供給が可能になりました。 農業が有望なビジネスであり、国の食糧安全保障の重要の一翼を担っているという見方が主流となってきています。
食料の開発輸入
供給ソースの多様化という観点から、マレーシアなど国外における食糧生産に対する投資を始めており、ショウガやバナナなどの開発輸入型の海外投資を既に実施しています。 これは、他国よりも進んでいる組織培養技術を近隣諸国の企業へ導入し、生産したものを輸入する方式で、 最近では稚魚の養殖技術にも力を注いでいます。
フード・アグリテック産業の育成
シンガポールの農業は政府が区割した農業団地で集中的に行われています。現在は、農園が集まる北西部に「ハイテク・アグリフード・ゾーン」の開発を開始し、ハイテク農業や農業関連のR&D活動を集めた「アグリフード・イノベーション・パーク」を建設中です。
政府は食料生産分野への資金援助にも力を入れており、画期的なフード&アグリテックのスタートアップがすでに生まれてきています。また、 パナソニックはシンガポール初となる屋内野菜工場をすでに数年前にすでにスタートしており、野菜自給率向上への貢献を目指しています。
ドラスティックな決断
食料を海外に依存する国から、2019年を境に食料自給率UPへと方針転換したシンガポール。最新のテクノロジーを活用した農水産業、そして食品技術の開発の一大拠点国に向けて歩み始めています。
深刻なコロナの影響を受け、安全保障上の重要な課題として、果断に路線変更を決めたシンガポール。その姿には真剣さと必死さがうかがわれます。