世界で最も先進的な渋滞管理を実施

隣国マレーシアでは、現在「渋滞税」の導入について議論されていますが、地位差先進的な都市国家であるシンガポールは、古くから非常に先進的な渋滞管理政策を実施し、世界でもまれな成功を収めています。
今回は、そんなシンガポールの渋滞管理政策について深掘りします。
世界で最も先進的な渋滞管理を実施
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2025年 7月17日
渋滞がない?

シンガポールでは、日本やクアラルンプールやバンコク、ジャカルタなどアジア各国で問題になっている交通渋滞が、通勤時間を除けばほとんどありません。わずかな距離でも乗り物を利用し、タクシーやGrabなどの自動車配車アプリの車も多いですが、交通渋滞はそれほどひどくはありません。
先進的な取り組み
シンガポールには渋滞が少ない。その理由は、国の政策にあります。
シンガポールは国土が狭く、人口密度が非常に高いため、1980年代から交通渋滞が深刻な問題となっていました。これを解決するために、政府は世界でも珍しい非常に先進的な取り組みに挑戦しました。それが「ERP(Electronic Road Pricing:電子道路課金制度)」と「COE(Certificate of Entitlement):自動車所有権」の入札制度です。
ERPの仕組み
ERPシステムとは、 主要な幹線道路や高速道路、渋滞が発生しやすいエリアに「ERPゲート」を設置し、車両に「IU(In-Vehicle Unit)」と呼ばれる専用端末が取り付け、ETCのように 電子マネーカード(CashCard) を挿入することで、ERPゲート通過時に自動で課金される仕組みです。2023年時点で、シンガポール国内に78カ所あります。
料金は 1シンガポールドル(約110円)~6ドル(約660円) の範囲で、時間帯や混雑状況に応じて変動します。ピーク時や渋滞がひどくなると自動的に料金が高くなり、混雑を緩和します。
COEの仕組み
「COE(Certificate of Entitlement):自動車所有権」は入札制で、毎月政府が一定数のみ発行し、価格は市場の需要と供給によって変動します。COEは10年間有効で、10年経過後は新しいCOEを取得しないと車を使用できない仕組みになっています。
2024年3月時点のCOE価格は、カテゴリーAと呼ばれる一般車(トヨタのカローラクラス)で何と約90,000シンガポールドル(約990万円)となっていて、車両本体価格を超えることも珍しくなく、これがシンガポールの自動車所有率を抑制する強力な要因となっています。
近年ではCOEの高額化により、低・中所得層は車を購入するのが非常に難しく、MRT(地下鉄)やバスを利用せざるを得ないため、公共交通機関の利用率が非常に高くなっています。
シンガポールの渋滞管理の成功
シンガポールの自動車台数は 政府の計画に基づいて厳密に管理 されており、車の増加が制御されています。
●シンガポールの自動車普及率(1,000人あたり)
国名 | 台数 |
シンガポール | 約150台 |
マレーシア | 約450台 |
日本 | 約600台 |
アメリカ | 約800台 |
このように、世界的に見てもシンガポールの自動車普及率は極めて低く、これが渋滞が少ない理由になっています。
先進的な渋滞管理を実施
シンガポールは世界で最も効果的な渋滞管理を実施している都市のひとつであり、その成功は ERPとCOEの組み合わせによるものです。
COEで車の総数を厳格に制限することに成功しているため、そもそも道路に車があふれないようになっており、さらに ERPで走行量を最適化することに成功しています。
そして自動車の代わりに公共交通機関を徹底して整備し、車を持たなくても快適に移動できるようにしてあるのです。
この成功モデルは東京やロンドンなどの他の大都市でも参考にされていますが、シンガポールほどの成功には至っていません。
都市の交通管理においては 「車の所有」と「車の使用」をセットで管理することが鍵 であることを示しているように感じます。