シンガポール 都市再開発草案を発表

シンガポールのタット国家開発大臣は、都市再開発庁(URA)がまとめた「2025年マスタープラン草案(DMP2025)」を発表しました。これは今後10年から15年を見据えた都市づくりの指針であり、土地の使い方や住まいのあり方を大きく方向づけるものです。シンガポールが独立60周年を迎えるこの節目の年にふさわしく、今回の計画には、“これからの都市国家”としてのビジョンが色濃く表れています。
今回はその主な内容を、具体的な数値や政策とともにご紹介します。
(引用元:URA Draft Master Plan | URA Draft Master Plan
https://www.uradraftmasterplan.gov.sg/)
シンガポール 都市再開発草案を発表
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2025年 11月26日
都市開発戦略の柱

政府は、2030年までに住民の80%がMRTの駅から徒歩10分以内に住めるようにするという目標を掲げ、新たな住宅地区の整備を進めています。今後10〜15年で少なくとも80,000戸の住宅が新たに供給される予定です。
今回のプランでは、通勤や買い物が便利な場所に住宅を集中させることで、国土の限られたシンガポールにおける土地活用の効率化が期待されています。これは単なる住宅建設にとどまらず、生活の質そのものを向上させるための戦略でもあります。
2つの大きな課題への対応― 気候変動と人口高齢化
◆ 気候変動と共生する都市へ
シンガポールは海抜が低く、面積も限られているため、気候変動の影響を受けやすい立地にあります。海面上昇や猛暑、そしてヒートアイランド現象などのリスクが年々高まっており、都市開発のあり方も再考が求められてきました。
新たに開発される地域では、風の流れを遮らないように建物の配置や高さに配慮し、都市内の空気循環を良くする工夫が盛り込まれています。川沿いや低地では排水能力を高めるとともに、自然景観を生かした開発を行い、「水と緑に包まれる街づくり」を目指しています。
さらに、住宅の建設段階から省エネ素材や再生可能エネルギーの導入を進め、環境性能を評価する“グリーンマーク”の取得を義務化。これにより、温室効果ガスの排出量を抑えた、持続可能な都市の実現を図ります。
◆ 高齢社会にやさしい街へ
2030年には国民の4人に1人が65歳以上になると見込まれており、高齢化への対応は急務です。
今回のプランでは、徒歩10分以内で必要な生活施設にアクセスできる街づくりが柱のひとつとなっています。診療所、スーパー、MRT駅などが身近にあることで、高齢者でも車を使わずに安心して暮らせる環境を整備していきます。
公共住宅(HDB)では段差の解消やエレベーターの増設、視覚・聴覚の障がいに配慮した案内システムの導入が進められ、すべての人が利用しやすいバリアフリー設計が基本になります。
さらに、ケア付きの共同住宅の増設や、生活支援サービスとの一体運用など、高齢者が自立しながらも安心して暮らせる仕組みが整えられる予定です。
社会課題に先回りする都市国家
今回のプランには単なる都市インフラの整備を超えた視点が込められています。「住宅」「医療」「高齢者ケア」「環境保全」、そして「経済成長」まで。それらを都市空間の設計で一体的に解決しようとするアプローチは、まさにシンガポールらしい未来志向の姿勢です。
先進国が共通して抱える課題に取り組むことで”安心して暮らせる都市”としてのブランドイメージを高め、優秀な人材や企業を世界中から惹きつけることも意識されています。
アジアのモデル都市へ
今回の計画は、日本や韓国、台湾といった他の東アジアの国々にとっても参考になるでしょう。コンパクトで密度の高い都市設計、そして急速に進む高齢化への対応という共通課題に対して、シンガポールは一歩先を行く都市モデルを示しています。
未来都市の「実験場」としての役割
シンガポールはこれまでも、都市開発において数々の先進的な取り組みを試みてきました。そして今回のDMP2025もまた、“未来の都市社会とは何か”を問う実験場としての挑戦です。
小さな国だからこそ、スピーディーに動き、課題に柔軟に対応できる強みを生かし、世界が直面する問題に答えを出そうとしています。その姿勢には、シンガポールの先見性と底力が表れています。





















