米相互関税 シンガポール 10%で据え置化

米国がシンガポールに対する新たな関税率を確定しました。すべての輸入品に対して基礎関税の10%を導入することが決まりました。これは他の東南アジア諸国が受ける19〜49%などの高率関税と比べても、比較的低い関税にとどまっています。
今回は、ようやく決定したシンガポールに対する「トランプタックス」について、さまざまな面から解説します。
(引用元:ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ :シンガポール首相、基本関税10%は理想的ではないが、対応可能との認識(ASEAN、シンガポール)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/08/cdabc8839017b098.html)
米相互関税 シンガポール 10%で据え置き
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2025年 9月30日
基本関税の10%のみ

シンガポールは米国の10%の基本関税のみが賦課されます。シンガポールはこの基本関税の引き下げを望んでいますが、実現するかどうかは不透明な状況です。
ローレンス・ウォン首相兼財務相は、米国による10%の基本関税について、「理想的ではないが、対応は可能だ」との認識を示しています。
政府と市場の温度感
政府は強い言葉で失望を表明しました。ウォン首相は「こうした対応は、友人に対して取るべきものではない」と語り、米国に再考を促しています。
シンガポールは報復措置を取らず、冷静に対応する構えです。むやみに応酬しても得策でないことは明らかで、長期的な安定を見据えた姿勢がうかがえます。
一方、ビジネス界からは「新たな不確実性の時代に入った」との声が上がっており、実体経済への影響を慎重に見守るムードが広がっています。
なぜシンガポールだけが「10%」で済んだのか
他の東南アジア諸国が19~49%の関税を課されている中で、シンガポールだけが比較的軽い処遇を受けた背景には、やはりFTAの存在が大きいと考えられます。
とはいえ、関税ゼロという本来のあるべき姿には届かず、最低限の譲歩といった印象も拭えません。
政府の対応:対策本部と経済戦略の再構築
シンガポール政府はすでに動き出しています。企業と労働者を支えるための「Economic Resilience Task Force」を立ち上げ、主力輸出分野である電子、半導体、バイオ医薬などを中心に対策を講じる方針です。
加えて、8月には「経済戦略レビュー」が始動し、AIや制度改革などに焦点を当てた委員会が設置されました。これは関税問題だけでなく、今後の技術革新への備えも含んでいます。
この先、何が起こるのか
10%という関税率が当面維持されるとの見方が強い一方で、交渉の余地は残されています。たとえば、医薬品や先端半導体といった分野で、個別に優遇措置が検討される可能性もあります。
今回の事態をきっかけに、シンガポールはより高付加価値の産業構造へと舵を切る必要性が高まっています。
シンガポールの立ち位置
米中の板挟みになる中で、シンガポールは両者と距離を取りつつも、独自の外交・経済戦略を築こうとしています。
その中で今回の軽減関税が、逆に一部の産業には競争上のアドバンテージとなる可能性もあります。小国ゆえの機動力を活かし、環境の変化に適応していくことが問われています。
「これは一時的な嵐ではない」
ウォン首相のこの言葉が象徴するように、今回の関税は単なる外交摩擦の一環ではなく、世界の通商ルールが大きく揺らいでいる証でもあります。
FTAがあっても通用しない、赤字でも容赦なく課税される。そうした現実に直面しながらも、シンガポールは冷静に、そして現実的に次の一手を打とうとしています。
新たに設立されたタスクフォースは、交渉だけでなく、AIや金融といった未来の柱に対する投資戦略の要でもあります。次の10年、シンガポールがどこまで変化を味方にできるか——その試金石は、すでに打たれ始めています。