観光立国タイ版「Go To Travel」キャンペーンは成功するか?
最近のタイは、日本以上にインバウンド観光に頼ってきた。タイにとって観光業は経済を支える重要な産業となっておりコロナによる打撃は計り知れない。7月よりタイ政府はタイ版「Go To Travel」キャンペーンを開始したが国内観光需要を押し上げるまでには至っていない。当初10月末までの予定だったキャンペーンは、年末まで延長されることとなった。
著者:gram 福田 さやか
公開日:2020年09月14日
観光立国タイ版「Go To Travel」キャンペーンは成功するか?
観光業のタイ経済における役割
タイは観光立国で成功してきた国である。
マスターカードの調べによると、都市別2019年版の世界の渡航先ランキングで、2位のパリに360万人以上の大差をつけ、バンコクが年間約2,278万人で1位であった。バンコクは2016年から4年連続トップで、他にも14位にプーケット、15位にパタヤがランクインしている。外国人観光客から得る国際観光収入でも、タイは2018年に630.42億米ドル(同年の日本は411.15億米ドル)と、アジアトップの利益を上げている。世界でもアメリカ、スペイン、フランスに次ぐ4位である。
観光業のタイ経済における役割は大きく、GDP全体に占める観光業の割合は2019年には20%近くであり、タイ政府は2030年までに、この割合を30%まで引き上げることを計画していた。このように、最近日本以上にインバウンド観光に頼ってきたタイであり、外国人観光客の受け入れ停止が経済にもたらす影響は計り知れない。 タイでは、このような状況のもと、国内の観光需要を呼び覚まそうということで、日本の国内旅行促進キャンペーン「Go To Travel」に似たものが行われている。
タイ版「Go To Travel」キャンペーンとは
タイ政府は、資格のある申請者に対して、宿泊料から40%の割引を提供している(1泊1室あたり3,000バーツの上限あり)。観光客が飛行機で旅行する場合、政府は航空券代金の40%を返金するが、1席につき1,000バーツまでとしている。また、キャンペーンでは、参加観光地の食事代や入場料などに使えるデジタルクーポンや1日600バーツ相当の電子クーポンを提供している。
参加資格は、有効な身分証明書を持ったタイ国籍者であること、登録日時点で18歳以上であること、居住地として登録されている州以外の州での旅行、食事、滞在を選択していること。また、タイの国営銀行でタイ財務省直轄の業界第4位の銀行「クルンタイバンク」が提供している「パオタン」というアプリをダウンロードするためのスマートフォンを持っていることである。これは、割引分の払い戻しが「パオタン」アプリを介して行われるためである。助成金は、登録者が登録した宿泊施設にチェックインした後、毎日午後5時までにパオタン申請口座に振り込まれる仕組み。
更に政府は、平日の観光を活性化させるため、平日の電子クーポンの価値を1日600バーツから900バーツ相当に引き上げ、平日の旅を奨励している。
7月15日に開始されたこのキャンペーン、7月19日付けのタイの英字新聞バンコクポストによれば、350 万人以上が キャンペーンに登録したという。更に、7月27日時点では、政府の報道機関発表で456万人以上の登録が確認されたという。7月18日以降、27日までの時点で、23万6000室以上が予約されているとのことである。各申請者は5泊分の部屋を5室まで予約できる。同日時点で19万3000室以上が決済されている。
タイ財務省は、このキャンペーンのために450億バーツを準備しており、延べ500万泊のホテル宿泊に対する補助予算を確保している。
このキャンペーンは成功しているのだろうか?
9月8日付けバンコクポストによれば、タイ観光庁は、高齢者にとってよりわかりやすい国内観光需要刺激キャンペーンのための登録プロセスを工夫するよう旅行代理店に呼びかけ、また航空会社に国内旅行者のための特別な航空運賃を提供するように促すということである。
同キャンペーンでは、利用可能な500万泊のうち、まだ80万泊しか利用されていないとのこと。キャンペーン期間は当初10月31日までだったが、年末まで延長されることとなった。
現在のところ、国内観光客のほとんどは、週末にバンコクから近距離の目的地に集まっており、旅行費用、特に航空運賃が高いために、遠距離の旅行は制限されている状況のようである。
タイの観光業の再生は前途多難であると言える。