日本の有名企業2社がタイで代理戦争?!ブラックコーヒーを市場投入

タイ

東南アジアの中でも親日国として知られ、バンコク市内には和食店や日本製品の販売が多く見られる。多くの日系企業が進出する現地では、日本の有名企業2社がそれぞれのロングセラー商品を現地生産し販売しています。老舗ブランドの海外進出決断の背景や、タイの社会背景変遷も含めて注目したい動きです。

日本の味の素VSサントリーがタイで代理戦争?!

   著者:タイgramフェロー BKKマダムサトコ  
公開日:2022年6月9日

ブラックコーヒー発売。タイでは画期的な新商品

「ブラックコーヒーなんて珍しい?どこが画期的なの?」と思う方がほとんどだと思いますが、体力の消耗が早い熱帯雨林気候の東南アジアでは、砂糖の摂取が生命線、と言わんばかりに、コーヒーなどは砂糖+コンデンスミルクのダブル甘い組み合わせを長らく続けてきました。日本人にはドロ甘で飲めたものではありません。
日本の大企業が、そのような市場で「砂糖もミルクも入れないコーヒーが売れる」と判断した、と見ることができます。
どのような情報や傾向をもとにその判断が下されたでしょうか。


日本の有名食品企業である味の素から「Blendyブラック」、同じく有名飲料企業であるサントリーから「Boss ブラック」が店頭に並び始めました。

砂糖が入っていると課税対象に

この傾向の転機ははっきりしています。2008年にスマートフォンが世に出たタイミングは、タイ政府による自動車減税策などでタイの経済がいわゆるバブル景気と重なり、スマートフォンも急速に普及しました。多くの人が手軽に情報を入手できるようになって「自分たちと世界はどう違うのか」を知るきっかけとなりました。

そのうちのひとつ、「自分たちは不健康な食生活をしているのではないか」という点に大きく関心が向いたのもこの時期です。伝統的にタイ料理は大量の油と砂糖で消費するカロリーを補う、冷蔵事情のよくなかった時代にはハーブや辛子等で少々傷んだ食材でも食べられるよう調理するなどの工夫をしていました。生活環境が激変した現代では、この考え方が肥満他成人病の増加、刺激の強い食材は寿命の短さにつながっているのでは、と健康を気にする人も増えてきました。

この健康志向を踏まえてコーヒーを飲む人も製造販売する企業も手軽にできる対策は、甘さを控えることですね。目につくところではネスレ社の3in1が砂糖50%減量、それでは味気ないと感じる人向けの25%減などとバリエーションを増やし、どちらが出荷数が多いかの検証を兼ねた販売をしているようです。

また、タイでは砂糖税というものがあります。2017年に制定され、100mlに6グラム以上の砂糖が入っていると課税対象となります。
【レポート】タイにおける砂糖の消費動向について:https://www.alic.go.jp/koho/kikaku03_001178.html 

消費者の健康志向や、原材料にかかる税金。こういう潮流の中で、味の素とサントリーは「砂糖ミルクなし、本当のブラック」をタイで出してきました。健康を意識し、税金のかからない無糖に今後市場がある、と踏み切ったということでしょうね。
今回の記事を作成するにあたってざっと情報収集したところ、日本のBlendyは長らく製造販売をしていた味の素AGFを巣立ち、サントリー食品インターナショナルへ商権が移ったと、2021年11月の日食新聞に記事があります。

日本ではBlendyブランドの身辺に大きな変化がありましたが

ええ、「コーヒーギフトはAGFじゃなくなってるの?どうなってるの??タイでは誰が何を作ってるの???」と思って調べました。
この状況下で、味の素ブランドの「Birdy」というタイローカルブランドから砂糖が入っているブラック缶コーヒーが数年前から販売開始されました。日本から来た人が「ブラックって書いてあるのに甘い!」と吹き出すという光景が毎度見られました。

https://www.ajinomoto.co.th/en/our-product/retail-product/birdy/birdy-black-low-sugar 

タイではBossをSUNTORY PEPSICO BEVERAGE (THAILAND) CO., LTD. が販売。
名前から察するにサントリーがタイのドリンク地場大手のペプシコと合弁、ペプシ等の販路を見込んで作った法人なのでしょう。2017年設立です。

https://www.suntorypepsico.co.th/updateDetail.html?id=2 

Bossブランドは2021年11月から市場投入しています。

一方、Blendyですが Ajinomoto Co., (Thailand)  Ltd.が販売、こちらは2021年7月から販売開始したようです。

https://www.ajinomoto.co.th/en/our-story/pr-news/ajinomoto-debuts-blendy-brand-in-thailand-with-lee-thanat-ink-waruntorn-as-a-presenter  

と、メディア記事等で経緯を簡単に追いましたが、タイではBlendyは味の素、Bossはサントリー、とこれまでのイメージ通りの会社にイメージ通りのブランドが所属しています。

面白いことに、どちらも現状製造は委託、対応しているのは東洋製缶のタイ現地法人である Toyo Seikan (Thailand)Co.,  Ltd.です。
Toyo Seikan (Thailand)Co.,Ltd.:https://www.toyo-seikan.co.jp/company/overseas/ 

味の素もサントリーも自社プラントがあるのに日系企業に委託生産。日本の大型ブランドのレシピを忠実に再現するために、ローカルセンスが混ざらないようあえて外注による品質管理、という思いがあるのかもしれないですね。

今後どうなる

私自身もBlendyもBossも飲みました。Blendyを飲んだ時「ん-、これ、なんか知ってる味だけど?どこで飲んだっけ?」と思いを巡らすと、バンコクの和食ランチセットの最後に出てくるコーヒーの味だと気付きました。

飲食店向けへの調味料等の販路にのせて、抽出済みストレートタイプの業務用ボトルで販売するというのが順当で正当な販路拡販手段でしょう。今後は飲食店だけでなく、社員食堂や学校給食などにも広がりそうです。

一方サントリーですが、実は10年ぐらい前に午後の紅茶シリーズをタイで販売したことがあるのですが、いつの間にか消滅。ウーロン茶も現地生産で販売していますが、大人気という感じではなさそうです。野次馬の私には市場の嗜好よりも販売力に課題があったように見えました。ペプシコとの合弁はペプシコの販路を活用したい意向なのでしょう。ペプシコ側は今までの製品とは一線を画す、健康を意識し、かつ日本のヒット商品を導入して製品そのものの質を改善していきたいのではと思います。

世界のどこに行っても必ずある味の素の販路と、味の素と比べると海外進出の歴史は短いサントリー。まずはタイでお互いのレジェンドブランドをぶつけ合い、市場奪取を通して販売力を切磋琢磨していくのでしょうか。

日系企業のタイでの基礎の積み上げと実践が世界に広がっていくように願っています。

本日はタイで展開される味の素vsサントリーのドリンク対決の様子、タイ人の食生活の変化や健康意識の変遷、また日本にはない税制の話などをお届けしました。皆さんの海外進出に向けて何かしらのヒントになれば幸甚です。

水野聡子

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タイ在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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