ソニー・ホンダの AFEELAで注目を集めるHMIの基本とプレイヤー達
ソニー・ホンダのEV合弁会社ソニー・ホンダモビリティは米国のCES開催に先立って、ブランド名「AFEELA」(アフィーラ)の試作車を公開した。
車内車外に搭載される45個のセンサー・カメラや車内でエンタテインメントシステムなど今までの車のコンセプトを突き抜けるAFEELA。
今回の投稿では、注目されるAFEELAのデジタル関連、HMIとそのプレイヤーを紹介します。
ソニー・ホンダの AFEELAで注目を集めるHMIの基本とプレイヤー達
著者:gram fellow デビッド・イマ
公開日:2023年1月13日
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AFEELAのデジタルツイン がグランツーリスモの中を走る?
注目されるデジタル関連の特徴を報道からまとめると次のようになる。
・車内外に45個のLiDARセンサーおよびカメラを搭載し、自動運転などのインテリジェントな機能を実現する。
・800TOPSのSoC(システムオンチップ)を搭載し、センサー/カメラ群の情報処理、自動運転、社内エンタテインメントなどの処理を行う。800TOPSとは毎秒800兆回の演算処理を行う能力。
・車内エンタテインメントシステムではEpic Gamesと提携。(おそらく同社の3次元シミュレーション技術であるUnreal Engine5を用いて、車内空間を縦横無尽に使いこなすエンタテイメントを実現すると思われる。UE5は音響の処理にも優れている。)
・800TOPSのSoCは、大手スマホメーカーがチップ供給を仰ぐQualcommの車載向けSoC「Snapdragon Digital Chassis」を採用。
想像だが、これらによって実現される新しいタイプのエンタテインメントは、例えば次のようなものだろう。
・PS5のグランツーリスモをプレイ中のユーザーと、何らかのインタラクションができる。例えば、現在走行中の自車の360度の光景をリアルタイムで配信できる。(←あくまでも想像です)
・さらにもう一歩進んで、自分のクルマが完全にデジタル化され、デジタルツインのAFEELAが仮想空間内を走る。それをインターネット上の第三者にシェアできる。
・一人で運転していても、等身大の“音像”が助手席に座っていて、AIにより、人間らしいおしゃべりができる。ワイナリーに向かっている時に、そのワイナリーに関する情報を会話として楽しみながら、頭にインプットできる(←あくまでも想像です)。
・フロントウィンドウ全体がAR(拡張現実)のディスプレイとなり、UE5の3次元処理技術により、リアルタイムで走っていく光景にプラスアルファした仮想現実的な光景が展開する(ミクストリアリティ)。その仮想現実的な光景をソフトウェアとして、取っ替え引っ替えできる(←あくまでも想像です)。
ものすごく簡単に言えば、クルマの中にいて、世界最強のゲームマシンであるPS5でしか得られないような体験が、“クルマ的に楽しい“ものとしてプレイできる。プレイ内容も、ソフトウェアと取り替えるように、色々と変えられる。そうしたものになるのではないだろうか?
車内車外に搭載される45個のセンサー・カメラも、その一定割合はエンタテインメント系の体験を提供するためのものではないかと思われる。これは過去1年間のソニー・ホンダモビリティのソニー側代表である川西泉代表取締役社長のインタビュー記事を総合してみると、そのようにみなすことができるということだ。以下の記事が優れている。
ソニー・ホンダ新会社がめざすのは「クルマというよりモビリティの進化形」、キーパーソンが語った https://response.jp/article/2022/12/21/365506.html
参考までにAFEELAを紹介する最新YouTube動画のうち、車内外を長尺で紹介しているものを2本選んだ。
SONY AFEELA EV 2023
Sony Concept Car Revealed! New Partnership with Honda (CES 2023)
また、本稿完成直前に、以下の記事が飛び込んできた。AFEELAの車内でエンタテインメントシステムに触って書かれたレビュー記事。大変に参考になる
ソニー・ホンダ「アフィーラ」乗ってきた。まるで「移動するAV空間」 https://av.watch.impress.co.jp/docs/news/1468822.html
HMIの市場規模は2021年で約100億ドル
AFEELAが目指している頭の良いクルマの世界は、日米欧の自動車業界では「HMI」という言葉で括られている。Human Machine Interfaceの略だ。1台の自動車が多数の部品やモジュールで成り立っており、その部品やモジュールを生産する専業のメーカーが存在しているように、HMIに関しても多数の専門企業が存在している。
(なお、HMIは、自動車だけに限らず、工場で使われるシステムなどにも存在しており、専門の企業が複数存在する。自動車のHMIは、Automotive HMIないしHMI for automotiveといった言い方がなされる。)
自動車業界のHMIの世界市場の大きさは、調査報告書 "Automotive HMI Market Size, Share" by Fortune Business Insight https://www.fortunebusinessinsights.com/automotive-hmi-market-105702
同報告書によると、HMI世界的な主要プレイヤーは以下の6社。HMIないし車載関連のトップページにリンクしている。
Harman International(ハーマン・インターナショナル) https://www.harman.com/automotive
Valeo(ヴァレオ) https://www.valeo.com/en/interactive-surfaces-in-the-automotive-industry/
デンソー https://www.denso.com/jp/ja/qr/ict/japanese/
Continental AG(コンティネンタルAG) https://conti-engineering.com/areas-of-expertise/components/hmi-components/
パナソニック https://industrial.panasonic.com/jp/applications/automotive
Bosch(ボッシュ) https://www.bosch-softwaretechnologies.com/en/services/engineering-services/hmi/
メルセデスベンツの高度なHMI
例えば、Mercedes-Benz(メルセデスベンツ)はMBUX(Mercedes-Benz User eXperience)というブランド名で高度なHMIを2018年から提供している。レベル感の高いHMIとしては、他社の2〜3年先を進んでいる。ソニー・ホンダのAFEELAがこの上を行こうとしていることは、想像に難くない。
MBUXの詳細については、以下の記事が専門企業の目線で詳しく紹介している。
このブランドのHMIがすごい TOP3 2021年版【前編】 https://perch-up.jp/hmi-top3-2021-1/
ちなみに同記事の後編ではTesla(テスラ)とLand Rover(ランドローバー)の高度なHMIについても紹介しており、大変に参考になる。
このブランドがすごい TOP3 2021年度版【後編】 https://perch-up.jp/hmi-top3-2021-2/
Mercedes-Benz公式のMBUX紹介動画が以下にある。動画で見ると、全体像が視覚的に理解できる。
The MBUX Hyperscreen is Digitalisation at Its Best
エクスペリエンスから安全運転まで。JBLを抱えるハーマンのHMI
こうした自動車メーカーが実装するHMIを陰で支えているのが、上記のようなHMI関連企業である。
Harman Internationalは現在Samsung(サムスン)傘下の企業。スピーカーでは知らない人のいないJBLもHarmanが保有するブランドの1つ。
Harmanが提供しているHMIは、ビジュアルとエクスペリエンスの統合的な世界から、クルマが人にぶつかることがないようにする安全運転支援システムまで幅広い。その一端を以下の2本の動画で知ることができる。
The cutting-edge automotive technologies at HARMAN
HARMAN Automotive: Increasing Safety Through Automotive Connectivity
デンソーのHMIの説明が優れている
色々な企業のHMI関連のページや、ブローシャーなどを見ていくと、HMIのキモは何なのか?という疑問が湧いてくる。車内全体のエクスペリエンスなのか?全自動の安全運転なのか?そうした疑問について、丁寧に答えてくれるのがデンソーのHMIページで公開されている以下のアニメーションだ。
クルマに現在導入されつつある様々なテクノロジー・アイテムを擬人化し、それぞれの「人」と話をして、賢く束ねる「マネジャー」が必要だという説明は非常にわかりやすい。この「マネジャー」がドライバーと話をする。そのインターフェース全体がHMIだ。
この高度なHMIを技術的に噛み砕いた説明が、同社のHMI開発に携わる太田祐司氏(株式会社デンソー コックピットシステム開発部 第1開発室 開発企画1課 担当係長)の講演記録にある。
人とクルマをつなぐコックピットだからこそ、賢さと人に寄りそうことの両立が必要。デンソーが目指す人にやさしい車内空間とは
--デンソーが描く未来の快適車内空間 社員講演③ https://logmi.jp/tech/articles/323266
この講演記録で掲げられているスライドはいずれも高度なHMIを理解する上で非常に興味深いものばかりだ。その中から3つだけ引用する。
高度なHMIが多種多様なテクノロジー・アイテムの統合によって成立するものであることがよくわかる。
これを踏まえると、ソニー・ホンダのAFEELAに搭載されている45ものセンサーやカメラがどういった世界を形作ろうとしているのか、おぼろげながらに見えてくる。
本稿の調査のためにあちこちの資料を見ていく中で、Qt(キュートと発音する)
https://www.qt.io/
という非常に興味深い企業が浮かび上がってきた。先進的なクルマのHMIを開発する上で欠くことができない、コンピュータプログラミング部分のプラットフォームを提供している。
次回の記事ではHMIの隠れた巨人とも言うべきQtやそれに関連した埋め込みソフトウェア系OSのプレイヤーNXPなどを紹介したい。