シンガポール:飲料の糖分表示規制を厳しく
シンガポールでは、2022年12月30日から、小売店に並ぶ飲料の糖分表示規制が厳しくなりました。含まれる糖分量によりランクが付けられ、このランクの表示を義務化し、糖分の高い飲み物は広告を禁止しました。増え続ける糖尿病の予防が目的とされています。糖尿病をはじめとする生活習慣病が東南アジア諸国では大きな問題となっていますが、シンガポールも同じ問題を抱えていました。
今回は、シンガポールの新たな糖分規制を紹介するとともに、深刻な問題となっている糖尿病について解説します。
シンガポール:飲料の糖分表示規制を厳しく
著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2023年2月8日
「ニュートリ・グレード(栄養階級)」制度
今回導入されたのは「ニュートリ・グレード(栄養階級)」制度です。国内で販売する飲料を、AからDまで、100ミリリットルあたりの糖分の重量でランク付けします。1グラム以下なら最優秀のA級で、10グラム以上がD級となり、飽和脂肪酸が多いとランクが下がります。さらにCとDの飲料は、パッケージの前面に階級と糖分比率を明示しなければならず、D級は広告禁止となり、たばこと同様の厳しい扱いとなります。
甘味料への課税
日本ではあまり馴染みがない甘味飲料への課税ですが、アジアではすでに6カ国(タイ、フィリピン、ブルネイ、マレーシア、インド、スリランカ )で導入済みで、ベトナムとインドネシアでも現在検討されています。隣国マレーシアでは「加糖飲料の物品税(いわゆる「砂糖税」)」の徴収が始まっています。
肥満人口の増加
アジア諸国では、経済の成長と所得の増加によって甘味飲料の消費の増大が続いていて、それにともない生活習慣病(主に糖尿病)を引き起こす肥満の人口が増えています。
シンガポールは世界屈指の都市国家として人気や評価が高い国ですが、肥満や糖尿病の多さなど健康面での社会的な課題を抱えています。国際糖尿病連合の調査によると、シンガポールの糖尿病有病率は14.9%で、先進主要国としてはアメリカに次いで高い水準です(日本は11.8%)
また肥満の割合は、2017年の8.65%に対し、2020年には10.5%に増加しています。コロナによる社会活動の制限による座りがちなライフスタイルに起因しているともいわれていますが、シンガポールの健康増進委員会は、シンガポール人は定期的な運動をあまりせずに、食事の量が増え、食事の質が向上したことに起因していると述べています。
生産者への影響は?
この新たな規制による生産者への影響はどうでしょうか?
シンガポールへの進出を考えている食品や飲料メーカーにとって、新たな規制は消費者意識の変化につながり、進出が阻まれる可能性があるでしょう。また、実務においても、21年末の規制の発表以降、飲料メーカーや輸入業者、卸業者はその対応に追われれています。
日系食品輸入大手も「日本から輸入する飲料には、専用のシールを作成して貼付する。作業負担は大きい」と述べています。また、メーカー側が必要な成分の情報開示をしないとランク付けできないので、販売できずに店頭から消える商品も多くあるでしょう。しかし、消費者意識の変化に注視して綿密な調査を行い、理解することで、この危機は逆にチャンスとなる可能性もあります。
減糖の流れが加速
政府はこの栄養階級制度を飲食店で提供する飲料にも導入する方針を明らかにしており、23年末の施行を目指しています。これにより、伝統的で人気のあるコンデンスミルク入りの甘いコーヒーにも減糖圧力がかかりそうです。
シンガポールをはじめ、東南アジアの消費者は甘い飲み物を好む傾向が強かったですが、健康意識の高まりで近年は嗜好が変化していて、また肥満や糖尿病などの生活習慣病の問題を抱えていて、各国が対策を講じています。このような制度が周辺国に広がり、減糖の流れが加速する可能性が高そうです。