日本の良質な食材を海外でプロモーションするJFOODOの取り組み
日本の良質な食材を海外でプロモーションするJFOODOの取り組み
著者:gramマネージャー 今泉 大輔
公開日:2021年9月14日
筆者は2018年に9ヶ月かけて世界の10カ国を周り、色々な見聞を深めてきた。その中で気づいたのが、日本の料理や食材、日本酒、ウィスキーなどはほとんどの国で、かなりの強みを持っているということと、残念ながらそれがあまり知られていないということだった。
以前に書いた以下の複数の投稿は、現地で気づいたことの一端を記している。
日本のコメ・ご飯・おにぎりを欧州で売る vol.1
日本のコメ・ご飯・おにぎりを欧州で売る vol.2
日本のコメ・ご飯・おにぎりを欧州で売る vol.3
日本のコメ・ご飯・おにぎりを欧州で売る vol.4
欧州市場を日本の吟醸酒で攻める
日本政府は2020年3月に、農林水産物の輸出を2030年までに年間5兆円とする大きな目標を打ち立てた。途中目標として、2025年に2兆円としている。これを決定した当時の輸出額は1兆円にわずかに届かなかった。10年で5倍にするというきわめて意欲的な目標である。
NHK:農林水産物2030年までに年5兆円輸出の新目標(2020/3/6)
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/31379.html
農水省資料:2030年輸出5兆円目標の実現に向けた「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」の実施
https://www.maff.go.jp/j/budget/pdf/r2hosei3_pr01.pdf
日本人は世界で最もおいしいものを食べている
英国やハンガリーなどにまとまった期間滞在していて感じた日本食のインパクトは、輸出額が10年で5倍になってもまったく当然という気がする。日本人は、実は世界で最もおいしいものを日々食べているということに、気づいていない。日本で食べられている食材は、例えばコメひとつを取ってみても、飛躍的においしい。
(以前精米機メーカー株式会社サタケの方に伺ったことがあるが、日本のコメがおいしいのは、精米機の性能によるのだという。動力式精米機はサタケの創業者である佐竹利市氏がゼロから開発した。その後も連綿と改良が続いて、日本の精米機は今でも世界最高水準にある。例えば、アフリカで食べられているコメは、筆者もタンザニアで経験したがおいしくない。その理由は現地で使われている精米機の性能が低いからだそうだ。精米機以外に、炊飯器の技術水準が高いということもある。)
ロンドンに滞在していた時、同じ宿に同地で有名な日本食レストランチェーン(経営は日本人ではない)のシェフがいて、ご飯はどうやって炊いているのか?と聞いたら、炊飯器で炊くと時間がかかるので、オーブンで蒸していると答えた。英語ではご飯はSteamed Rice(蒸したコメ)なので、そのままの調理法なのだが、日本で言う「炊く」とは全然違う。結論から言うと、英国に限らず海外の人たちは、日本人が普通に食べている普通においしいご飯を食べたことがない。また、どういうご飯がおいしいものか、判断する基準を持っていない。だから、おいしくないご飯を「Steam Riceはこういうものだ」と思いながら食べている。例えば、日本式カレーと一緒にそういうご飯を食べている。持ち帰り式ファーストフード寿司のご飯が、硬くてぼそぼそしていても、そういうものだと思って食べている。
日本で普通に食べられている水産物にも同じことが言える。英国のスーパーでは、魚と言えば、スモークサーモンか処理済みタラ程度しか売っていない。日本の新鮮な魚がどれほどうまいものか説明しても、わかってもらえないだろう。経験したことがないから、味が想像ができないというところにいる。日本の普通の定食屋さんで食べられる刺身定食や焼き魚定食を食べたら、おそらく、目をむいて驚くだろう。
和牛のおいしさについては、こちらの記事で紹介した。
https://global-biz.net/oceania/australia/wagyu-beef/
米系コンサルティングファームの方法論に立つJFOODO
日本政府が2030年までに輸出5兆円を達成するために、農水省を初め経産省、外務省などには令和3年度で総額173億円の予算が割り当てられ、非常に数多くの施策が実施されている。
今回はそのうち、経産省系輸出促進機関JETROの中に設けられたJFOODOの概要を紹介したい。
JFOODO。正式名称「日本食品海外プロモーションセンター」は、2017年4月に創設され、海外における日本食材の知名度を高める活動を行なっている。
JFOODOウェブサイト:
https://www.jetro.go.jp/jfoodo/
JFOODOは、米国系コンサルティングファームの方法論を導入して、かなり知的かつ戦略的なアプローチで、日本産食材の輸出増大、現地での売上拡大に取り組んでいる。2018年4月に作成された資料「JFOODOの取り組み概要と戦略」では、「日本の農林水産物・食品輸出マーケティングに関する問題意識」として、「祈り」から「計画」へと題されたスライドが2枚あり、この内容が非常に興味深い。
説明されていることは、従来は大目標があって、何の方法論もブレークダウンもないまま、個々の施策に予算が付いていた。そのため、大目標がお題目に留まっていた。しかしこれからは、事実をよく調べ、論理的に考え抜いて、取り組み課題を具体的な目標や大目標に落とし込み、それを戦略的にブレークダウンしていって個別の施策として具体化する。そこに予算を付ける。そのような米国系コンサルティングファーム的な方法論でやっていこうと説明している。これは非常に好ましいアプローチである。
和牛のオンラインイベントをウォールストリートジャーナルが取り上げた
具体的には、日本和牛を米国で売る、日本産のホタテ、ブリ(ハマチ)、タイを香港と台湾で売る、日本茶を米国で売る、日本酒を中国、香港、米国、シンガポール、英国、フランスで売る、といった具合に、特定の品目を特定の国で売ることに集中して、細かな方策が組み立てられている。もちろん、品目の選定でも、対象国の選定でも、事前に緻密な分析が行われている(すべて関連資料が公開されている)。
こうした科学的なアプローチをすることにより、成果が出やすくなるだろう。日本和牛を米国で売るケースで言うと、2020年度では、日本和牛独特の強みである「サシ」(英語でMarbling)をプロモーションするために、「認知→興味・理解→喫食意向→喫食→再注文」のカスタマージャーニーをしっかりと作り、個々のフェーズで適した方策を組み入れている。詳細はこちらのファイルで説明されている。
https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfoodo/activities/wagyu2020us.pdf
方策の1つ、オンライン広告では、Facebook&Instagramで総表示数441万件、クリック数31,000件。YouTubeで総表示数178万件、クリック数1,900件という数字を残した。米国のインフルエンサーと連携したオンラインイベントでは、和牛愛好家が多いと分析されたニューヨークとロサンゼルスで15名ずつのインフルエンサーが選定され、和牛サンドウィッチや和牛寿司の料理デモと試食が行われた。これらインフルエンサーが自分のアカウントでイベント内容を紹介して、370万人へのリーチを生み、10万のエンゲージメントを残した。日本政府系のプロジェクトとしては初めての海外SNS活用成功例ではないだろうか。
オンラインイベントには7つのメディアも参加し、ウォールストリートジャーナル(ウェブ版)には和牛寿司の紹介が大きな写真とともに掲載された。
このような形で、個々の品目について、ターゲットとなった国において、非常に緻密に組み立てられた方策が行われている。
これらの品目の生産者や輸出企業は、JFOODOが毎年度行なっている現地でのプロモーションに参加することもできる。情報は毎年、4月から始まる年度の前半に紹介されるようなので、定期的にサイトを訪問してチェックするのが良いだろう。
ここのページの「各品目のプロモーション」セクションで紹介されている。
https://www.jetro.go.jp/jfoodo/activities/
個別の品目のプロモーションの内容には、日本和牛以外にも色々と興味深いものがあるので、次回に詳しく見てみたい。