EU、労働力不足解消への挑戦| 新たな求人プラットフォーム構築にエストニアも賛同

エストニア

エストニアは、EU域外からの求職者のデータベースを構築するというEUの構想に賛同することを表明した。このデータベースによって、雇用主と求職者のマッチングが可能になる。EUにおける労働力不足は10年前と比べ約2倍になっていて、データベースがうまく機能すると労働力不足の問題が解決する見込みがある。

EU、労働力不足解消への挑戦| 新たな求人プラットフォーム構築にエストニアも賛同

著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2024年4月17日

EU域外の国を指す「Third Countries」

EU域内での文書やニュースでよく出てくる「Third Countries」という言葉。これはEU加盟国以外の国のことを指すときに使われるお決まりの言葉だ。EU域内でなにか手続きをしようとする際、①国民②EU加盟国出身者③Third Countries出身者、という風にカテゴリー分けされる。EU域内では加盟国の国民は自由に行き来し労働もできるため、外国人といえどEU市民は手続きが簡略化されることが多い。そのため、外国人の中でもEU市民とそれ以外の国籍を持つ人を明確に分けるときに使われる言葉が「Third Countries」だ。

ちなみに、ある国に住んでいる外国人のことをEU市民かそうでないかの区別をせずに指す場合は「expat」という単語が使われる。海外では大活躍のFacebookを使う際にも「Expats in 地名」で調べればその地域の外国人コミュニティが見つかり、役立つ情報を手に入れることができる。

作成予定のデータベース

構築予定のデータベースは、特定の職業における労働力不足に対処するため、EU加盟27カ国内の雇用主がEU域外の国からの労働者の採用を促進することを目的としている。加盟国はこの人材プールに参加できるが、個々の雇用主は参加することはできない。

計画では、求職者はタレントプールのプラットフォーム環境内でプロフィールを作成し、求人情報の検索に利用できるようになる。そして、求職者のプロフィールは同プラットフォームを利用するすべての参加国の雇用主に公開される。いうなれば、雇用主と求職者(EU域外出身者限定)のマッチングサービスだ。EU加盟国の企業は、自国やEU域内で適切な候補者が見つからない場合、このデータベースを活用することができる。

このプラットフォームの構築は、2026年から2027年にかけて行われる見込みだ。

欧州委員会によれば、2030年までに最低でも11ヶ国、多くても20ヶ国がこの制度に参加する見込みで、その後、さらに多くの加盟国が参加する可能性があるとされる。

データベース作成の意義

高齢化が日本でも問題となっているように、欧州でも人口の高齢化は進んでいる。近い未来、欧州は全人口の4分の1以上が定年退職を迎えるといわれ、それにともなって労働力不足が懸念されている。その証拠に、EUにおける職業欠員率(数値が大きくなるほど職が余っている状態を意味する)は上昇している。2011年は1.5%であったのに対し、2023年は2.9%まで上昇している。

移民が欧州の中でも特に多く、一見豊富な労働力があるように見えるドイツでさえ、有資格労働者の不足が深刻な国として注目されている。労働者が不足している分野には、建設、医療、ソフトウェア開発、さまざまな手工業などがある。特に建設分野の現場に出て働く電気技師、仕上げ工、土木技師などは深刻な人不足で、人々がホワイトカラーを好んだ職選択をしてきた結果といえる。

欧州に住んでいるEU域外出身者は約2380万人(2022年1月時点)。したがって、欧州における雇用のマッチングを促進することで、現在の人材不足を解消できる可能性がある。

まとめ

EU域内での人手不足の状況は今後も続くと予想される。足りない労働力を補うためにはEU域外からの労働力を見つける必要があり、ヨーロッパで働きたい人にとっては役に立つサービスになるだろう。

しかし、労働力が不足している産業と求職者のスキルがミスマッチすることもあるため、自身のスキルを活かしたいと思う人はこのプラットフォームに登録したとてマッチングができるとは限らない。現地人とスキル面で競わなければ職を得ることはできないだろう。

また、労働力不足の状況下で容易に職を見つけられると飛びつくと、移民にとって生命線である居住許可を人質に劣悪な雇用条件で働くことになる可能性もある。対等な雇用関係を結べるかなど、雇用主にとって便利なだけでなく、労働者にとって安全なプラットフォームになるかも注目するべき点だ。

【参考】
◇ERR: https://news.err.ee/1609284450/estonia-supports-the-creation-of-a-database-for-workers-from-non-eu-countries

◇Statista: https://www.statista.com/topics/11864/labor-and-skills-shortages-in-europe/#topicOverview

◇Statista: https://www.statista.com/statistics/1204172/job-vacancy-rate-in-europe/

◇ETIAS.COM:
https://etias.jp/%E8%A8%98%E4%BA%8B/%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E3%80%81%E4%B8%BB%E8%A6%81%E9%83%A8%E9%96%80%E3%81%A7%E5%8A%B4%E5%83%8D%E5%8A%9B%E4%B8%8D%E8%B6%B3%E3%81%8C%E6%B7%B1%E5%88%BB%E5%8C%96

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さえきあき

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エストニア在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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